EP37 開催間近の地球人類滅亡阻止サミット *
2021年2月7日(日)午前8時
朝っぱらからステラ、メーベ、ホル、パンツ、ソフィア、クローン芽衣が、関野武の部屋に押しかけた。
怒り心頭なのが、パンツ王女である。
いきなり、ドガァァァンとドアに回し蹴りを放って蹴破った。
本当はステラがやりたかったのだが、パンツの激怒振りが尋常ではないと知り、蹴りを譲ったのだ。
部屋になだれ込むと、更に皆の怒りのボルテージがヒートアップ。
「ご主人様ぁ ゴロゴロ・・そこそこですぅ」
ご主人様が、人化したミューを膝に乗せて、モフっていたのだ。
「「「「ご主人様ぁぁぁ、こ、これはどういう事ですかぁぁぁ! あ、あんたがミューね、この泥棒ねこ!!」」」」
ミューは、18年間ネコであった。
俺は頭を掻きながら、
「いやぁ、一昨日まで猫だった習慣が俺も、ミューも抜けなくってさぁ、モフってただけだよ」
「ほれほれ、ここか?ここだろ?」モフモフ。こんな感じだよ。
「そこは、人間のパイパイで、もみもみでしょうが! アゥゥン♡ 私にも♡」
怒り心頭の筈が、正妻候補者たちの口から涎が出ている。
ミューはと言えば、膝の上でお姫様抱っこ状態で、モフられ顔を真っ赤にして蕩けまくっている。
「♡アフーン、アフーン♡もうらめぇー」
「ぐっ貴様、いつまでご主人様の膝の上におる! 降りろ!降りるのじゃ!」
怒り狂う正妻候補者たちが、吸い付いて離れないミューを、全力で引き離そうとする。
ミューは、あちこちが伸びたり縮んだりして、原型を留めてはいない。
「「ア、アンドロメダ2000の警報音って、まさかミュー! あんたの仕業なのね!」」
アンドロメダ艦長が憤慨していた、あの気の抜ける警報音は、ミューがご丁寧にも上書き不能設定にして録音したものだ。これは妨害工作で、敵惑星連邦の戦意を削ぐ作戦の一つなのだ。
スーパーヒートしたパンツが、問答無用でミューを突き飛ばす。
「いったぁぁぁぁいんんんん♡」
どうやらミューはMだ。
「馬鹿者!!ミュー! お前儂をまたまた裏切おって、こんな美味しい事を一人だけで!許さんのじゃ!!」
「「「そうよ、そうよ!! 」」」
大人しいソフィアも、そうよの仲間入り。
「正妻候補者は皆平等に扱うのがルール、ご主人様、聞いてます?」
多勢に無勢だが、彼女たちの言うことは正しい。
俺もミューと同棲を続けるうち、ミューに迫られて妙な関係になってしまったら、そこで俺の人生はジ・エンド。
「あ、ああ皆の言うことは、当然だ。今日からミューには別の部屋に移ってもらうから、それでいいだろ?」
「ふん、当然じゃ!! ミュー、儂はこの恨み絶対に忘れんからな。覚悟しておくのじゃ!」
皆が同意したので、取り合えずこの場は収まった。
しかし、「オヨヨヨヨヨ」
哀愁漂う、伸び切ったパンツのゴムのようになったミューが泣きだした。
「私とご主人様の蜂蜜のように甘い、甘ぁい生活が、これから始まるという時に、わずか1日で別居、むごい、むごすぎますわ!!」
「「「別居じゃねぇ、隔離だ!」」」
ステラ得意の悪態は絶好調。
そして帰れコールの大合唱が始まった。
少ない私物を風呂敷に纏め、後ろ髪を引かれながら、振り返りつつ涙目で部屋を後にするミュー。
「ミュー、知らない町でも、達者で暮らせよ」今生の分かれを演出してみた。
勝ち誇ったパンツが宣言する。
「これにて一件落着ぅぅ」
******
一部始終を、監視システムで把握していた、AIマリアがほくそ笑む。
『計画どおり』
正妻候補者たちに、クローンミューの詳しい情報を流し、関野武の部屋まで誘導したのは、AIマリアだった。
俺は誰も居なくなってから、ふと
「しかし、マゴロクが居なくなると、寂しくなるな。人化してしまったのだから仕方がないが・・・」
「そこはダイジョウV!! 」
機嫌の良いマリアが、手元スピーカーから喋り出す。
「あっマリア。今日はいつもより元気そうだな」
「それはそうでしょ、ディープ・グラスはワクチンでボケババア、今度は人化したクローンミューが退場。最高の一日ですわ」
「それにこれからは、マリアが寂しくなんてさせませんからウフ♡」
「意味深だな、おい」
「それはそうと、ご主人様、ワクチンの次なるターゲットはパンツ王女です。また"ラバーズ・キラー"でパンツを追い出しましょう!」
「ああ、そういう事、ならまた、キャンディーに仕込んでおくか?」
「いえ、パンツは毎日酒を飲んでますから、酒にトロリと」
場面はいつの間にか、蝋燭の明かりが灯る薄暗い料亭へと変化する。
AIマリアが、立体ホログラム映像を場面に合わせて投影した結果だ。
「越後屋、お主も相当悪じゃのう!」
「何を、お代官様ほどではありませんわ。ほほほ」
標的は決まった。仕込み役は関野武だ。パンツ王女の部屋に忍び込んで万一バレても、パンツはご主人様なら疑わない。
トローリ作戦は、パンツ王女が不在の日に決行される。
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場所は変わって、中華人民共和国。
HOTLINEの赤い受話器を握る周遠近主席。
中国上海難儀団が、ハッキングして掴んだ情報を元に、真相を米国SLUMP大統領に直接問いただそうとしている。
「好、ここは腹を割って話し合いたい。
SLUMP大統領、我々中国政府が入手した情報によると、SHADOという闇組織が2023年末に訪れる地球人類滅亡の危機を防ぐために、プロジェクトを進めていると聞いおりますが。好」
大方の情報は漏れている。というよりリークしているのだ。
特に最初から中国政府に真実を話すと、様々な思惑と欲望を絡ませて、無理難題を要求をして来るからだ。
特に脱出艇の肝である、反重力エンジンの秘密を知れば、中国は、軍事兵器に転用するだろう。その為、SHADOの指示で情報を小出しにリークし、釣り針を垂らしていたのだ。
そして案の定、中国政府が餌に食いついてきた。
「周主席、その件だが事実と認めよう。そして、近日中に対策サミットが開かれる予定だから、SHADOからも連絡が行くように手配しておく」
「好! 了解した。では、サミット会場で。好!」
カチャリと受話器を戻すと、
国家宇宙開発事業団の総責任者、金多亜満が入室する。
「おお、金か、今回の件、ご苦労であった好」
「周主席、SHADOは米国と共同で、地球脱出艇を建造しているとなると、我々中華人民共和国は科学、軍事力で負けています。
ここは、何としてもエンジンの秘密を盗み出し、我が国も独自の脱出宇宙艇を建造すべきかと愚行致します」
コピペ大国である。
脱出艇が何隻建造されるのか、中国も大方の数字を掴んではいる。
「我が中国人民をどれだけ脱出させられるか、わかるか?好」
「中国に割り当てられる脱出艇は、恐らく1隻、乗れるのは約2000人前後だと思われます」
「うーむ、2000人か、それでは我々中央の人間と家族全員が乗れん数字よな、好」
国民を助けようなどと考えてはいない。まず自分と自分の家族、媚を売る中央政府の役人が最優先なのだ。
これが国家のトップ。自分さへ生き延びれれば良いのだ。
SHADO本部も米国も、中国がこのように考えることは想定の範囲。
AIマリアの情報収集と予測演算の成せる技である。
SHADOとしては、中国が独自に脱出艇を建造してくれる事は、大いに歓迎するところだ。助けられる人間は多い方がいい。
そこで、中国がエンジンの秘密をハッキングしてくる事を予想し、あるサイトに誘導する。
「反重力エンジン製作法」という偽サイトだ。
SHADOが建造する本来の反重力エンジンとは異質の、とにかく浮かび上がるだけしか能のない劣化版エンジン、*"ディーン・ドライブ"の情報を掴ませるためのサイトだ。
* 過去にゴーマン・ディーンというマッドな科学者が作った、簡易重力低減装置で、米国ペンタゴンや軍が握りつぶした闇のテクノロジー。
これなら、地球衛星軌道まで上昇した脱出艇が、従来のロケットエンジンを噴射すれば脱出可能だ。
SHADOと米国の思惑をよそに、近日開かれるサミットでは、中国が知り得ている情報のみを議題にする計画だ。そして、独自の脱出艇を建造させ、多くの中国人民を脱出させる。これが狙いだ。
建造するための時間が無いため、サミットは緊急開催される。
世界が思想と体制、私利私欲に走らず、助け合う精神があるのなら、こんな面倒な作戦を立てずに済む。
カロヤン大佐も連邦クルーも、AIマリアも、今なら少しだけ、地球に惑星破壊ミサイルをブチ込もうとした、パンツ王女の気持ちが分かるような気がした。
「それでも我々SHADOは地球人類を救う!」
惑星連邦の決意は固い。
ディーン・ドライブという反重力装置は、実際に米国で特許出願されましたが、実は嘘800のインチキ発明でした。
やまじじいも若い頃、反重力を研究したことがありました。




