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SF 正妻の座争奪戦争   作者: やまじじい
3/70

EP3 ここはどこ?  おまはんはだれや? *

 挿絵(By みてみん)


何か体が暖かい。 冬の朝、暖かい布団から出るに出られず、もう5分と言ってなかなか出られない経験は誰にもあるだろう。

 例えるなら、春が来て冬眠から目覚めたばかりの狸になったような気分だ。狸になった経験などないのだが、そこは君の魂で感じ取ってほしい。


 惰眠を貪る狸が、現実に戻される時が来た。

閉じているだろう目に白い光を感じると、それがだんだんと強くなってくる。この光は何だろう?


 何やら体を触られているようなペタペタとした卑猥な感触とともに、聴覚が何かの電子音?を捉えた。

ピッ、ピッ この音は・・・・・・なんだ、俺はまだ病室で、これは例の心拍計の音か? ということは、俺はまだ死んでいない? 復活したのか? また家族と暮らせるのか? 妹のCA姿を拝めるのか? 


 ヲタク 三昧のあの甘露な日々が復活する! そう思うとなんだか嬉しくて、今なら、あの薄い毛の保毛山課長の頭に接吻ができるほどだ。

いや止めておこう。嬉しくて頭が錯乱した。あの油ギッシュな頭だけは勘弁だ。

落ち着け俺、まだ状況把握してないだろ。興奮するのはそれからでいい。


何分経過したのか分からない。段々と意識が回復し、指をニギニギしてみる。やっぱり生きてる生きてる、俺様 復っ活っうぅ!


 処刑されて一度死んだイエス・キリスト様が復活したとき、やはり今のセリフを言ったのだろうか。んなわけねぇよな。

くっつき気味の瞼を恐々開いていくと、最初に見えたのは薄暗い部屋の天井。目だけスライドすると誰かがペンライトのような、青白い光で俺を照らしながらこちらを凝視している。


 光で顔が良く見えない。白っぽい服だからあれは医師か。するとやはりここは病室だよな。そう思うと益々安堵してくる。


 「やぁ、気分はどうかな? 」


今度は聞き覚えのあるダミ声の方を向き、その人物の顔を見ようとして寝ている俺の体が硬直した。

 

「出たな妖怪!」


 俺の第一声がこれだった。この時やはり自分は生き返ったのだと確信に至ってしまった。でも何故医師ではなく、課長なんだろう?


「妖怪とはひどい言いぐさだな、君は~」

頭をポリポリかきながら、課長が次の言葉を選んでいるようだった。


『課長、そんなに搔いたら毛根が氷河期になって絶滅するよ』と、いらぬ心配をしていたら、とんでもない爆弾発言に耳を疑うことになる。


「あ~、何と言ったらいいか、うん、私は君の知っている課長ではないのじゃ」


「そんな妖怪子泣きジジイのような風体は、課長、世界にあんたしかいないじゃないですか! 」

と反論するが、状況についていけず、事態をのみ見込めない顔をしている俺を見て、ヤレヤレといった表情で保毛山課長は続けてこう言ったのだ。


 「君はもう死んでいる」


 その言葉に、もういいかげんにしてほしい。ここでドッキリなんか仕掛けなくても・・・・・・

『はっ! これってもしかして"モニターされてるぞ"っていう例の人気TV番組じゃ? 』


 カメラはどこじゃと見まわしていると、スパーンと小気味良い音が響き目から星が二つ出た。音は自分の後頭部からしたようだ。


 保毛山課長を見ると、いつの間に取り出したのか、どこの病院にもある緑色の便所スリッパが握られている。どうやら俺はあのスリッパでシバかれた?  

 しかし緑の便所スリッパということは、やはりここは病院じゃねぇか。


 状況証拠としては最弱だが、俺の解釈は相変わらず右斜め上。同時に後頭部の神経が蘇ってきた。


 「狂ったか、子泣きジジイ! 」


 便所スリッパを握った保毛山課長の顔が近い。フェイスtoフェイスというやつだ。

俺はこれがマウスtoマウスでなかったことに安堵した。


 課長に人工呼吸なんぞされたら、生き返った俺がその場でショック死する。なんのための人工呼吸かって話だ。


「課長! クローズド・エンカウンター・オブ・ザ・サード・カインドじゃあるまいし、なんの真似だよ!」


 思わずこんな長ったらしいセリフが出たのは、昔ヒットしたスべルバーグの傑作SF映画のタイトルが課長の顔のせいで浮かんだからだ。

訳せば第三種接近遭遇。公開されたのは1977年で俺が生まれる前の古典的作品。


 小学生の時からUFOに狂っていた俺は、1999七の月という終末予言を真剣に信じていたものだ。

 スペシャルプライスのDVDがリリースされた日、決死の思いで豚の貯金箱に金づちを振り下ろし、虎の子の100円玉やら10円玉をレジ袋に詰めて買いに走ったというエピソードがある。


 価格は1,980円。高額ではないのに俺は金がなかった。

と言うのもいろいろな趣味にこずかいを使い果たし、手持ちの金がなかったのだ。


当時DVD一枚をばら銭で買う客が珍しかったのか、女性店員のなま暖かい視線が痛かった。


「少しは目がさめるかと思ってな、ちょっとした刺激を与えてみたのじゃ。それに第三種接近遭遇などと口走りおって、おまえさん記憶が戻ってきたんじゃないのかえ? のうエージェント001」


 課長の妖怪みたいな顔が目の前にあれば、誰でも宇宙人に遭遇したと勘違いするはずだ。それで思わず口にした言葉だったのだが、真実は今自分が口にした言葉にあった。


 課長の語尾が、のじゃロリに変わっても、ラノベに手を出した俺にとって、それは俺を安心させるための気配りとしか思えなかった。

 以前課長と飲んだ時、趣味の中にラノベがあることを話したことがあるからだ。


「今、エージェント001? って言ったよな」

ラノベにエージェントなんて役柄が出てくる作品は少ない。

『またどマイナーな設定出してきたな、おい』とあきれていると、突然頭の中にイメージ、いや、言葉ではなくビジョン、映像が浮かんだ。

 

 それは、俺が高校生の時に遭遇したUFOの鮮明な映像。俺の目が直接UFOを見ている当時の映像そのままだった。

 光輝く眩しい銀色の球体。あの時の驚きと興奮が色鮮やかに蘇えり、心臓がバクバクと鳴りはじめた。


 なんで今、過去に経験した記憶を、総天然色3DシネマとDolby Atmosで頭の中で再生されているのか? 

『これ今はやりのVRの 進化系だよね、これ。ゴーグルいらんし』


 こんなところでもプログラマー魂が顔を出してくる。そこまでは良かった。

 次々と莫大な情報の嵐が頭の中で展開されると、俺の脳内CPUが悲鳴を上げた。

 今の俺の処理能力は、例えると20年前のCeleron。もちろんシングルコアのノン・オーバークロック。整理がつかないというか、何から理解すればよいかもわからない。


 その中には、行ったこともない外国の風景、ずらりと並んだコンピューターらしい機械群、パラボラアンテナや、二コラ・テスラの顔などが次から次へと流れていく。しかし認識できたのはほんの一部だ。

 『なんだこれ?』


「すぐ理解できないのも無理はない。だがこれだけは理解して欲しいのじゃ。まずおまえさんは死んだ。そしてここはUFOの中。

そして重要なのは、おまえさんはエージェント001で我々の仲間。この3つじゃ」


 今度は保毛山課長の口が動いている。課長がしゃべっているのか。

 課長?


 今まで気が付かなかったが、課長の衣服は白っぽい衣服ではなかった。なんだか日曜の朝TV放送している子供向け戦隊番組「ガマ戦隊 ゲロゲロジャー」が着ているダイバースーツの素材を格安で仕上げたような、頭から下までつながっていて、顔の部分だけ大きくぽっかりと開いた白っぽいものだった。


 横から腕が出ていて、色が赤ならウインナーソーセージ人間といった見栄えだ。どこのゆるキャラだよ。


「今は魂の置き換えが終わったばかりでな、まだ馴染んでおらんじゃろ。もう少し眠るがええ」

 ウインナーソーセージ、もとい、課長がまた、妙なことを言ったが・・・・・・すぐペンライトから出る白い光を当てられた俺は、また心地よい春の目覚めから起きられない狸状態になっていく。


 いずれにしても理解が追いつかない。ここはひとまず眠ろう、目覚めたら全部夢でした、なんてオチかもしれないしな。


 それにしても「エージェント001か」はるか遠い昔に聞いた覚えがあるような気がするけど、いや頭の中に入ってきた映像の中に、黒ずくめの男たちの姿があったような・・・・・・ダメだ。俺のプロセッサーが完全に思考を拒否している。


 ここは一本、栄養補助食品"カロリーメイド"が欲しいが、そんなものは持っていない。


 ちなみに秋葉メイドさんが、残業しているサラリーマンの頭をよしよししているパッケージが大好評で、爆発的に売れた食べる栄養ドリンクなのだ。


 ドリンク剤でメジャーなのは、"ファイトで三発 これで逝け" があるが、これも新商品にも拘わらず、素晴らしい売り上げを叩き出している。

 俺のチーム男子も毎度お世話になっていた必須アイテムだ。


 ・・・・・・体が怠すぎる。俺は逆らえない眠りに身をまかせることにし、意識を手放した。

          


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