EP23 振り出し組の野望 動き出す3大プロジェクト
実質最下位のパンツ王女は、貢献度でポイントを稼ぐ作戦に出た。
「儂が出来そうなのは、シールド開発と反重力エンジン・脱出用宇宙船開発建造部門じゃな。じゃが反重力開発部門には、儂の王子様が参加しておらん。アセンション計画には、あの偽女神ディープグラスがおる。シールド開発には、あの高慢ちきなステラとメーベとかいう馬鹿どもと裏切り者のミュー、どうでも良いソフィアもいるが、物の数ではないと踏んだ」
「よし、儂が参加するのはシールド開発部門に決定じゃ!」
一方、同じ最下位組のホル・マリンは焦っていた。何しろ自分のアセンション計画実行部には、あのディープグラスがいるのだ。どうポイントを稼ぐか悩んでいた。
この計画には001関野 武もチームメンバーだ。
ため息をつきながら自販機コーナーに向かうと、偶然ご主人様と出くわした。幸い周りには誰もいない。見ると壁に片手をつき、のんびり納豆風味のコーヒーを飲んでいるところだった。
『渋い! コーヒーの納豆風味! それをチョイスするそのセンス!なんて玄人なのだろう』
ホル・マリンは全身が痙攣し、眩暈を起こした。
それを偶然目撃した関野が、倒れる寸前にホルをキャッチ、ソファーに寝かせた。
「はぅ! ご、ご主人様ぁぁぁ」
「どこか具合が悪いのなら、保健室へ連れて行こうか?」
「い、いいえ、ただの立ち眩みです、もう大丈夫です」
「それより、聞きたい事があるんです」
真剣な眼差しで訴える。
「何かな? 僕が答えられること?」
「も、勿論でございます。あの、ご主人様のお好みは、やはりあの偽女神みたいな女でしょうか?」
100年分の勇気を絞り出して尋ねる。
「それはウィルマの事?」
「はい、あの偽女神は、その少しばかり私より綺麗というか、その・・・」
何を聞きたいかピンと来た関野は、耳ざわりの良い言葉を選んだ。
「ホル、僕はね、女性の美しさは内面にあると思っている。外見が美しくても、心が貧しければ何の魅力も感じないよ」
「それにね、美しいだけならマネキン人形でもいい訳だからね」
とウインクして見せる。
『うう、もうダメ、心臓が持たない。今のセリフで私は串刺しですぅ』
少し社交辞令的な優等生のセリフだが、満更嘘は言っていない。
ここで脱落する候補者が約1名いることになる。
ホルは確かに他の正妻候補者に比べると、綺麗さでは半歩譲るが、それでもとても魅力的な女性には違いない。
魅力とはいったい何か。答えは幾通りでもあると断言する。
魅力とは見る人によって価値が変わる、説明できないものだからだ。
ホルは心の中で、ウィルマがとても羨ましかった。だけどご主人様の今の一言が心に響き、戦う前から負けていた気分を吹き飛ばしてくれた。
「わ、私にもチャンスがあるのでしょうか?」
ご主人様に縋るように問うホル。
「ああ、あるとも。例のすごろくゲームで、まずは勝てばいいのでは?」
そうだった。あのゲームは候補者全員にチャンスをくれたのだ。ゲームならウィルマに勝てるかもしれない。そう思うとメラメラと闘志が沸いてくる。
「ご主人様、待っていて下さい。ホルはご主人様のため、計画のため国のため全力を尽くします!」
何やら急に明るく元気になった。地球人類の救済のために、言葉ひとつで全力で取り組んでくれるなら、こんな有難いことは無いと、感無量の関野だった。
関野はまず救世主として地球人類を救う重大な任務がある。自分の周りは何やら正妻争いで賑わしいが、実際はそれどころでは無い。カウント・ダウンは既に始まっているのだ。
大佐はテレパシーで関野の心を読んでいた。そして
『このような時でも任務を忘れず事態を冷静に見れるのは流石だ。関野は漢を見せた』と
3大プロジェクトのメンバー編成も固まり、本格的に活動が始まる。
アセンション計画が一歩リードしたため、シールド計画と反重力、脱出宇宙船の建造計画も感化され本格化したのだ。
まずシールド建造に関しては、パンツ王女の参入が大きい。
何しろ、暗黒帝国星系のエリート科学者を呼んだのだ。
もちろん男性科学者のみだ。これには惑星連邦の科学者も驚いた。長年の宿敵帝国の科学者達と、まさかの共同開発である。大佐も大いに驚いているが心強い助っ人だ。
「ふふふ、どうじゃ、儂の実力は。これでかなりのポイントを稼げる筈じゃ」と一人ほほ笑む。
そしてもう一人。闘志に火がついた惑星連邦アセンション推奨団体 技術者 ホル・マリンである。ホルは自分のコネを最大限活用し、連邦の技術確保に勤しんだ。友人にも特殊電磁波の発生理論研究を自腹で依頼したのである。
そしてその成果は少しずつ集積されていく。
既に16ポイント稼いだミューではあるが、猫故に貢献できるものが無い。出来ることと言えばネコパンチ式肩叩きぐらいであり、貢献度は微々たるものだ。
『まずい! 16ポイント先行したが、貢献度ポイントが入らなければ勝負はサイコロだけだ』
人間の姿に戻れれば、貢献度ポイントを稼ぎまくれるのにと悔し涙を流すのであった。
時は2020年の12月。地球ではまだ滅亡などどこ吹く風。街はクリスマスを迎える準備で活気づいていた。
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SHADO本部に休息は無い。各地でクリスマスや年末行事、新年の準備が進んでいる中、本部では反重力と地球脱出宇宙船の開発会議が行われている。
まず、元ナチスドイツ帝国の秘密結社、トゥーレ協会とブリル協会の技術者が紹介された。
彼ら2つの協会は、大戦末期に不完全ながらも、ハウニブ型、ブリル・オーディーン型と呼ばれる円盤宇宙機を開発していたのだ。
戦後は、この技術を守り続け、時を見て平和のために有効利用することを願う善意の団体となっていた。
現在SHADOが使っているブリル・オーディーンは、彼らの設計を見直し、大幅な改造をした別物である。
次に圧倒的な工業力を持つBOINBOING ボーイング社の軍事部門兵器開発局、BOCKEED MARTIN ロッキード・マーチン社の兵器開発局、NO-SLEEVE GLAMOR ノースロップ・グラマン社の兵器開発部門、日本からは航空機の特殊構造材を手掛ける山崎重工業が参加している。
特別参加として、岐山大学理工学部 大月博士が紹介された。
基本は反重力エンジンだ。これの開発無くして脱出宇宙艇は建造できない。
惑星連邦から恒星間エンジン供与を受ければという案は却下された。
理由は、旧式な反重力エンジンを作っていない事、そして秘匿性の問題。惑星連邦の恒星間ドライブ用エンジンは、反重力エンジンよりも遥かにハイテクなしろものだ。この技術がどこかの危険な国に漏洩すれば、核よりも悲惨な結果を生む。
基本的に地球を脱出して、一時的に月の裏側に退避するだけなので反重力エンジンで十分、ほとぼりが醒めれば地球に帰還する計画だからだ。
この先人類は宇宙に進出するだろうが、まず基本の反重力エンジンから学んだ方が良いのだ。
最も大きな理由は、恒星間ドライブのように、ワームホールを利用したジャンプ機能を必要としないため、脱出艇1隻の建造費が安くなるというメリットがある。
しかし、いくら安いと言っても一隻の建造費がまだ見積もれない。それにもう一つの大きな問題が、人類全員を救えないということだ。
仮に1隻あたり1000人乗船出来たとしても、地球の人口は77億人、77万隻の脱出宇宙船が必要になる。
これは物理的にも金銭的にも不可能、これから持てる工業力をフル稼働したとしても、残り2年余りで建造できるののは精々50隻、救出出来るのはわずか5万人なのだ。
厳しい現実に頭を悩ませるが、建造を進めることは決定事項だ。
外野でその話を聞いていた、アセンション計画実行部の富永高夫が口にする。
「我々が行うアセンション計画は、Xデーの際の人類のパニックを低減するものであり、その効果は一時的です。効果が発動中に惑星連邦の大宇宙船団の協力を得て、地球を脱出し、効果が切れるまでに地球に返したらいかがでしょう?」
「それも一理あるが、強力な宇宙線が収まる時間と、アセンションの効果時間がどれだけ続くかの未解決問題がある。その計算結果がないと、なんとも言えんな」
統括責任者のカロヤン大佐もまだ結論は出せない。しかし
「可能性はある。私の方から連邦代議員に大宇宙船団を用意できないか打診してみよう」
それが可能でも、どれだけの地球人を救えるかは分からないが、ひとまず救済の道が開けたと信じたい。誰もがそう思った。
残るは地球防御シールドの開発だ。この開発に成功すれば、人類は脱出宇宙艇を必要としなくなる。
その場合脱出艇の建造は、万が一の保険的な意味合いになるが、シールドが十全に機能し、地球人類を守り切れる保証はまだ無い。
しかし、シールド開発が、3大プロジェクトの中の最重要プロジェクトなのは間違いない。
成功すれば、シールド開発に参加したパンツ選手が、高得点を叩き出す可能性が出てくる。
地球に問答無用でミサイルを撃ち込んで来たパンツ王女が、今は救おうとしているとは、皮肉なものだ。
「001関野君に助けられたな」
カロヤン大佐は、彼の強運に頭が下がる思いだった。




