EP21 ほっ惚れたのじゃー !!
この章から、タイトルをSHADO地球人類救済プロジェクトから改題しました。
書いているうちに、内容が地球救済よりも、違う方向に向かってしまいました。
「惑星連邦カロヤン大佐、そこに居るのは既に承知している。今から10分後に、ミューを連れて我が旗艦まで来い。艦橋付近のハッチに、ベルトコンベアを接続しておく。丸腰で来い! 以上だ」
パンツ王女が直接通信を送って来た。
惑星連邦側の人質は大佐だ。敵の将を確保する事は、戦時においては当然な事。
しかし、あの土壇場で確かに人語を話したこの猫を連れて来いということなのだろうか。惑星連邦も地球も、あの猫の一声で一時的にかも知れないが救われている。
大佐もクルーも、理解に苦しんでいる顔つきだ。
我に返った関野が、
「大佐、一番驚いているのは、私自身ですよ。なにしろ16年間連れ添った飼い猫マゴロクが、突然人間の言葉を話すなんて非常識です」
『っつ、連れ添ったっ!』
当のご猫本人は、ご主人の言い放った一部のワードに痛く感動し、目がトロトロになって涙を流している。
猫が泣くなどあるのだろうか。よく目ヤニを出している奴は見かけるが。
大佐がマゴロクのトロトロの目を覗き込むと
「マゴロク、この事態を説明できるかね?」
すると咄嗟にご主人様の肩にタンと飛び移り、頬ずりを始めるマゴロク。
「コホン、大佐、私の名はミュー。暗黒帝国星系の王女、パンツ・〇ミエール様のメイドでございます。16年前、王女の命により猫の姿に無理やり変身させられ、連邦の母船に破壊工作員として潜入しておりました」
驚愕の告白にクルーが騒めいた。
「何、お前の使命が破壊工作だと? では惑星連邦やSHADOの情報が、暗黒帝国側に筒抜けだったと言うのか?」
静かにミューの首が横に揺れる。
「いいえ、私は16年前にご主人様と地球に降り立って以降、何の破壊工作も諜報活動もしておりません。軍の機密事項ですが、この艦に潜り込めたのは、惑星連邦側の間者の手引きがあったからです」
暗黒帝国に協力した人間が、惑星連邦に存在する。事実なら、大佐やクルーにとって耐え難い裏切り行為だ。皆、わなわなと肩が震えている。
「仮にもお前は軍人では無いのか? そのような機密事項をベラベラ喋れば、銃殺刑は免れぬが」
例え平和主義の連邦であっても、軍規に違反すれば重罪である。
「私ミューは、ご主人様に拾われた瞬間に心に決めたのです。マゴロクという飼い猫のまま任務を放棄し、永遠にご主人様の愛に生きると」
「王女の命に背き、国を裏切ったのか。そのお陰で我々は危機を脱した。それが事実か否かは、これからパンツ王女に謁見してからだがな」
ミューが暫く沈黙して答える。
「私は王女の御前で、裏切り者として殺される事になるでしょう。ですからお願いです。最後はご主人様の傍で死なせてください!」
ミューが両手を合わせ、懇願する。
「001関野君、君の飼い猫ミューが、君に最後を看取って欲しいそうだ。できるかね?」
いつの間にか関野も涙していた。
「くっ、今まで俺の癒しだったマゴロクを、目の前で殺されると分かっていて、連れて行くのですか!」
その言葉に反論できない大佐が傷心して言葉をかける。
「もう我々には何の選択の余地もない。ここはミューの気持ちを察してやってくれないか。敵だったとは言え、実害はなかったのだ。武士の情け、最後を見届けてやるのも主人の役目であろう」
感極まったミューが別れの言葉を口にする。
「ご主人様、不束者の私を今まで大切にして頂き、本当にありがとうございました。ミューはご主人様と一番長く過ごした本妻。私が屍になった後は、決して後妻など娶らないで下さいませ。これがミューの遺言でございます」
「「「ちょっと、そこー!!!」」」
親分肌のメーベが仁王立ちする。
「誰もがしんみりして、いい雰囲気だったのに! 何、さっきのセリフは!!!何が長年過ごした本妻じゃ! ただの飼い猫の分際で、寝言は寝てから言え!!!」
ステラ、メーベ、ソフィア、ホル・マリンに加えて、新人のウィルマも参戦した。
しかし、そこでディープグラスを装着した新人のウィルマが余裕の表情で宣う。
「所詮猫は猫、人間でも無いのに本妻気取りとは、ねぇ、皆さん。ほほほほ」
ウィルマが本妻候補者を取り込み始めた。これからの本妻争奪戦を有利に運ぶ作戦なのだろう。
「ぐぐっ、人間の姿であれば、こんな有象無象など屁でもないのに」
悔しがるミューであったが時間がない。
恒例となったバトルを、冷静に眺めていた大佐ではあったが、
「続きは、我々の命があった時にしてくれ。001関野君、ミューを連れて早速敵陣に乗り込むとしよう」
「今生の別れになるかも知れない、俺も大佐も暗黒帝国にその場で射殺されるかも知れない。いずれにしても、こちらに有利な交渉材料は無いのだ。ここは腹を括くろう」
「大佐、マゴロク、行こうか」
2人と一匹が艦橋付近ハッチに向かう。
後方ではハンカチで涙を拭う者、時世の句を書き始める者、神に祈りを捧げる者の姿があった。
暗黒帝国側が用意したベルトコンベアに乗ると、ゴロゴロ、ガタン、ヴィィィィ
空港にある手荷物受取用のベルトに乗った、キャリーバッグになった気分になる。
やがて、旗艦暗黒帝国側ゲートの暖簾を潜り抜けると、レーザーガンを持った大勢の兵士に取り囲まれた。
同時に兵士がモーゼの十戒のごとくザっと道を開けた。
そこに現れたのは暗黒帝国星系王女パンツであった。
「これはこれは、カロヤン大佐、お初にお目にかかる。儂が暗黒帝国星系王女エリザベスじゃ。
周りの兵士はキョロキョロと顔を見合わせ、ミューが首を傾げる。
しかしミューは悟った。
『さてはパンツ王女と言うのが嫌で、この場で偽名を使ったな。姑息な王女らしい事だ』
その王女が視線をミューに移す。
「ほう、ミュー、息災であったか。儂に何の連絡も寄越さずに、いったいどこで何をしておったのじゃ?」
口角が上がり、ニヤリとほほ笑む王女に俺達の背筋に悪寒が走る。
「も、申し訳ございません。エ、エリザルベソ王女様」
そこは噛むな、儂とミューの感動の再会シーンが台無しではないかと、パンツ王女は内心で呟いた。
「うん? 儂は確か大佐とミューと言ったはずじゃが、そこな猿はなんじゃ?」
関野はフード付きコートを着て、王女の前では顔を見られないようにしていた。
「この方は、私と16年間苦楽を共にしたご主人様、私の夫でございます」
この場で妙な爆弾発言をするなと、ミューを睨む大佐。
その言葉に興味が沸いたのか、王女の戯れの会話が続く。
「ほう、猫の分際でありながら夫とは! 面白い。ならば、その夫とやらの猿の顔を見せてもらおうかの」
王女が目くばせで兵士に合図をすると、俺は床に押さえ付けられフードを捲られた。
しーん
静寂の30秒が訪れた。
王女は沈黙し何も語らない。ただ大きく目が開かれ、口元をピクピクさせているのが分かる。
王女の怒りに触れた! 大佐、俺、ミューは覚悟した。我々はこの場で皆銃殺されると。
チャ、チャ、チャと音がする。兵士のレーザーガンがいよいよ火を噴くのだろう。我々2人と一匹は覚悟を決め目を閉じた。
うん?
なかなか死なないので薄目を開けると、俺の前に傅いたエリザルベソ王女がいた。チャ、チャと音がしたのは、王女が早歩きで来た靴音だったのだ。
王女は俺の両手を掴んだ。
「ほっほ、惚れてしもたぁぁぁー! 」
王女の絶叫が木霊する。あきれ返る兵士達など、もはや眼中には無い。
一番驚いたのはミューである。
「この馬鹿王女! ご主人様は私ミューの夫だと、最初に話したでしょう」
「悪いとは思わん、ミューよ、これより儂は、この王子様と結婚する!」
「「「なんだってぇぇぇ」」」
暗黒帝国兵士も大佐もミューも俺も含め、暗黒帝国が誇る旗艦ノジャロゥリ艦内が、大パニックを起こした。
一人冷静を取り戻した大佐が
「これで地球も我々連邦も救われるかも知れない」と天井を見つめ、少しだけ希望を繋ぐのだった。




