EP20 わたくしは喋る猫ざます
「大佐、アンドロメダ2000から緊急入電!」
「なんだ、また何かのトラブル要請か?」
「暗黒帝国星系 旗艦ノジャロゥリ接近中!」
飲みかけていたコーヒーカップが落ちる。
ガシャン。
そのカップが割れる音に、クルー達の緊張が更に重なる。
「現在、木星近海にジャンプを終え、小ジャンプで地球を目指しているもよう!」
「緊急警報を鳴らせ!」
ヴィーン、ヴィーン、ヴィーン、けたたましい警報音が鳴り響く。
「G-ツェッペリン3000浮上、直ちにアンドロメダ2000と合流する!」
大佐の判断は素早い。流石惑星連邦で、その人ありと言われる人物である。
一方、偽女神作戦から帰還した関野 武は自室で、マゴロクをモフりまくっていた。
「どうじゃ、ここか? ここがええのんか?ほれほれ」
どう見てもスケベじじいだ。ソフィアが見たらドン引きするだろう。
ミャーン、ミャーンと甘えた鳴き声を出して、ご主人様の膝の上でマゴロクは蕩けていた。
**********
脳内ミュー
♡あっはーん、ご主人様ぁ、そこ、そこです。もっと、もっとです。あふーん♡、流石に16年の歳月ですわね、ご主人様は奥義48手のテクニシャン。丸裸の私の108あるツボは全てまるわかり。ダメー、もう好きにしてぇぇぇ♡ガクっ
(ネコは元来スッポンポンである)
ミューは、16年もの間、ご主人様の寵愛を受け続けて来た。これは人間の女では不可能! ステラだろうが、メーベであろうが、最近頭角を現して来た偽女神でも、私には及ばない。
ムフフ、ざまぁ。これで私が人間の姿を取り戻した暁には、ご主人様は他のどんな女どもも寄せ付けはしない! 16年の私たちの愛の深さを想い知るが良い!
**********
物凄い自信だが、ミューが人間の姿に戻れる日は来ない。
と、蕩けていたミューが飛び起き、毛を逆立てる。
シャァァァァ!
「どうした、マゴロク」
関野は、こんなマゴロクを見たことがなかった。いつも傍らでゴロゴロして、構ってやらないと拗ねる、かわいい奴だったからだ。
その理由は、聴覚の良いミューが、警報が出る前の大佐たちの会話を傍受したためだ。
『暗黒帝国旗艦が来た。王女パンツ様が乗り込んで来る!』
一早く王女が来襲した理由を悟るミュー。
『まずい、私が連絡を怠っていたため、痺れを切らして地球に乗り込んで来たのだ、最悪地球は破壊される!』
ミューは恐怖した。
自分ひとりが殺されて済む話ではない。最愛のご主人様との甘い生活が終わってしまうことが、ミューにとって地球が破壊される事より怖かった。
**********
警報を聞いて、マゴロクを肩に乗せた001関野が、艦橋指令室に向かう。
「来たか001、暗黒帝国星系の連中が、地球を目指している。G-ツェッペリン3000とアンドロメダ2000で迎え撃つ。厳しい戦闘になるだろう」
001関野は暗黒帝国星系のことを全く知らない。
しかし、大佐は詳しくは話さず、古より敵対している狂暴な連中だとだけ説明した。
大佐は既に理解していた。アンドロメダバウム艦長と作戦を協議するが、答えは一つだ。
「我々は地球と共に破壊され、殺される!」
救世主の001関野でも、どうすることも出来ない。
「旗艦ノジャロゥリ、火星近海通過! 地球到着まで、30分!」
大佐とバウム艦長に撤退の二文字はない。クルー達を道連れにして一矢報いる覚悟だ。
大佐とバウム艦長の意志が全艦に伝わる。
「すまない、本当にすまない、今ならジャンプして振り切れるかも知れないが、それでも助かる可能性は低い。暗黒帝国は、それ程非道なのだ」
しかし大佐達の苦悩をあざ笑うかのように、クルーたちの表情は闘志に燃えている。
「大佐、バウム艦長、何をそんな暗い顔をしているんです。ここはガツンと一発かましてやろうではありませんか!」
クルー全員の意志は、既に固まっていたのだ。
「月軌道付近に重力震、旗艦ノジャロゥリ 短距離ジャンプ、来ました!」
「対艦パルスレーザー砲、砲門開け!」「対艦ミサイル BEE ATTACK装填!」
旗艦ノジャロゥリに対して、殆ど効果が無いことはクルー全員が理解している。
「「「合言葉はまた会おう!!」」」だ!!
「「「おおおおおぅぅぅぅ!!!」」」
務めて明るく振る舞うクルー達に、大佐とバウムは涙した。
**********
月軌道付近に出現した旗艦ノジャロゥリ
「王女様、敵艦が攻撃態勢!」
「小癪な、儂に歯向かうとは、片腹痛いわ! 惑星破壊ミサイル"エンド・オブ・プラネット"発射シーケンスに入れ!」
「いきなり攻撃ですか?」
「ふむ、構わん、どうせ毛が一本、二本生えただけの猿の星じゃ、いてこませぇぇぇ!」
惑星破壊ミサイル"エンド・オブ・プラネット"のカウント・アップが始まった。「ひぃー、ふぅー、みぃー・・・」
残り7秒、
「地球には、もしかしたらミューが生きているのかも知れん」
だが、一度口にした命令は取り消さない。それが我が侭王女のプライドであり生き様だった。
心の奥底では、誰かこの状況を止めてくれと、叫んでいるのに。
戦争とは、こんなつまらない意地の張り合い、プライドで起こるものだ。どこかの黒電話独裁国家の将軍様もプライドを捨てれば、世界は救いの手を差し伸べるに違いない。
「止めてー!! パンツ王女様ぁぁぁ」
G-ツェッペリン3000の指令室で、マイクを取り上げたマゴロクが叫んだ。
「マ、マゴロクが? 喋った!!」
マゴロクの放った叫びが、旗艦ノジャロゥリの王女にも届く。
「くっ、ミューか! 」
「おい、シーケンスを中断しろ!」
「無理です、発射3秒前では、停止出来ません!」
「緊急90度回頭、地球から射線を外せ! 後はどうなっても構わん!」
「緊急回頭、側面噴射最大出力! 」
「10度、15度、間に合いません、地球に向け発射します!」
その時、凄まじい横Gに旗艦ノジャロゥリが傾く。
「連邦G-ツェッペリンの体当たり攻撃です!」
「バカモノ、良く見るのじゃ! 射線がお陰でズレておる!」
ズドォォォン、
惑星破壊ミサイル、"エンド・オブ・プラネット"が地球をギリギリのところで通過し、遠ざかっていくのが見えた。
「助かったのか? 暗黒帝国でいったい何が?」
大きな謎を残したまま、旗艦ノジャロゥリがG-ツェッペリンに横付けする。
地球破壊を突然中止したのは、我々を奴隷にするためか、更なる恐怖はまだ続いていた。




