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SF 正妻の座争奪戦争   作者: やまじじい
19/70

EP19 旗艦ノジャロゥリ来襲す

ミューを地球に潜入させて16年が経過した。

「遅い! 遅いのじゃ! ミューはいったい何をしておるのじゃ!」

地球歴換算の16年であり、王女の住む宇宙歴では1年程度である。


暗黒帝国星系 パンツ王女は苛立ち、部屋の中を公園の熊のごとく歩き回っていた。

「帝国情報部を呼べ!」


すぐさま、惑星連邦の諜報活動専門帝国情報部、主任シュミーズが扉をノックする。

「帝国情報部 シュミーズ入ります」

「うむ、構わぬ。入室を許可する」


入室すると、地球儀をくるくる回し、突然ナイフを突き立てる王女の姿があった。

 ザクッ  コロコロ。

壊れた地球儀が、部屋の隅まで転がって止まる。

 シュミーズは幻視した。斬首された頭のように転がるのは、次は私ではないかと。

 

機嫌が悪い。これは低姿勢で臨む必要があると、シュミーズは緊張度を最高レベルに引き上げる。

床には自分で描いたのか、ミューの似顔絵が切り刻まれ散乱していた。


「問おうシュミーズ、惑星連邦が救済に向かった地球の様子はどうなっているのじゃ?」

「はっ、帝国情報部の密偵が、惑星連邦の母船内に潜入しております故、知り得た情報をお伝えします」

情報検索端末"マルミエ800"を取り出し指で軽快にはじく。


「現在惑星連邦救済リーダーは、連邦太陽系支店 支店長カロヤン大佐が指揮を執っています」

ふむ、続けろ。

「最新情報では、地球人と協力してSHADOという組織を作り、3つの救済プロジェクトが進行中とのことです」


『あの猿どもに知恵を付けたのか、無駄なことよ。プロジェクトなどミューが潰してくれるはずなのじゃ』


 王女が一番知りたいのは、ミューの安否だ。

「それで、極秘潜入しておる筈のミューはどうしたのじゃ?」


「は、はっ、それが地球に到着して間もなく、神隠しにあった模様で行方不明であります!」

 額に玉のような汗が噴き出る。ここで機嫌を損ねられたら、次に床に転がるのは自分の首だ。シュミーズは転がった地球儀に視線を向ける。

 ゴクリ


「なんじゃと! もしや正体が暴露し、連邦に殺されたのか!」

シュミーズがあまりの形相に一歩後ずさる。

「そ、そのような間者が発見されたという記録は、か、確認されておりません」


「ならば、ミューの身に何が起こったというのじゃ!」


ミューは幸せ者だと思う。こんな暴君のようなパンツ王女に、目を掛けられているからだ。ずっと傍で仕えていれば、筆頭メイド頭に間違いなく出世していたであろう。


「ええい、お前らでは話にならん! 儂が直々に地球へ向かう。シュミーズ、支度するのじゃ!」

 こうなると例え王でも手が付けられない。もともと王女に甘々な王と妃である。パンツ王女の訴えはすんなり承諾された。


**************

 その2日後、パンツ王女の姿は恒星間ジャンプドライブを搭載した、暗黒帝国星系でトップクラスの新鋭戦艦甲板上にあった。


「ふふふ、待っておれ、地球の猿ども! 毛が一本生えたぐらいで惑星連邦とつるみよってからに。耳から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わせてやるのじゃ!」


 今や誰も記憶に無い女王鉄板のお笑いネタは、クルーにスルーされ誰も笑わない。

 寒い隙間風がヒョォォォと吹いている。

 鉄板のネタが滑ると、本当に痛かった経験は誰にもあるだろう。


 それに構わず王女の高笑いが消えると、戦艦はジャンプ態勢に入る。

「ファースン・シートベルト・ファースン・シートベルト」

 シートベルト着用の艦内放送が流れる。


「やかましいわ! ボケぇ!」

 今日も王女は怒りまくっている。


 操縦士が指折り式カウントダウンを始める。まず左手親指から折り曲げ、10を数えるのだ。暗黒帝国の軍事作戦マニュアルどおりだ。

ひー、ふぅー、みぃー、よぉー

カウントダウンならぬ、カウントアップだ。


「おんどれらー、儂をおちょくっておるのかー! 」

怒りまくる王女の声が戦艦内に響くと同時に、戦艦が暗黒帝国からジャンプし消え失せた。


**************


 太陽系木星近海。

♡アフーン、アフーン、アフーン♡


 地球衛星軌道上、母船アンドロメダ2000内に警報が鳴る。

「なんとかならんのか、この警報音は! 緊張感がゼロではないか!」

憤慨するアンドロメダ艦長だが、今は警報の詳細を知らねばならない。


「オペレーター、何事だ!」

「木星近海の時空間が歪曲、何かが出現してきます!」

急ぎワイド宇宙レーダーを見守るクルー。

「巨大宇宙船が出現しました。全長4000m!」

「どこの宇宙船だ」


「コンピューター照合!急げ!」

軽快にタッチパネルを操作する。

モニターに照合プログラムが流れたかと思うと、画面に赤いBINGO ! の文字が点滅する。

「出ました! あ、あ、あ」

「何が出たのだ、早く言わんか!」


 ゴクリと生唾を飲み込み、言葉をやっとの思いで絞りだす。

「暗黒帝国星系 旗艦ノジャロゥリ!!」


「なんだと! 暗黒帝国星系の旗艦だと! 間違いないのか!」

何度もデーター照合するオペレーター。

「間違いありません! 旗艦ノジャロゥリです!!」


 一気に艦内が蜂の巣を突いたように混乱した。無理もない、連邦所属のアンドロメダ級母船は戦艦ではない。

武装は簡易なものだけで、そもそも惑星を長期に探査する目的で建造されているからだ。


「すぐSHADO本部に連絡を入れろ!」

「応戦しますか?」


「無駄だ、ここは奴らの言う通りにしよう。投降もやむ無しだ」

アンドロメダ艦長 バウムは絶望した。

何しろ旗艦ノジャロゥリに搭載されている超破壊ミサイル、"エンド・オブ・プラネット"は惑星を破壊できる。そうなれば地球人類はXデーを待たずして、この場で滅亡してしまうからだ。


 我々惑星連邦クルーが、生きて故郷に帰ることは不可能だろう。艦内は絶望が支配した。


SHADO本部に緊急通信を入れたものの、本部もどうすることも出来ないはずだ。バウム艦長は覚悟を決めなくてはならない。

「もはやこれまでか」


 誰もが地球救済プロジェクトの終焉と、虐殺される乗組員の姿を予感した。

「すまない」

地球歴2020.11.XX Sorry

アンドロメダ艦長は、ただ一言、艦長日誌に記録したのだった。


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