EP13 自分の気持ちはご飯3杯
2020年10月
伊勢湾沖海底1,000mに横たわる、仮設SHADO本部G-ツェッペリン3000。
内部対策室には、エージェント001(せきのたけし)と、カロヤン大佐、お付きのステラ、メーベ、アインシュタイン博士の5名がテーブルに付いている。
「ではエージェント001に、現在の我々の状況説明をしておく。高校生の時にかけた教育マシンにはない情報だ」
俺は地球の未来の悲劇がなぜ起きて、自分の役割は何かを知っているが、具体的な方法までは知らない。
今まで001を、サポートと保護をしてきた者たちの詳細を語りだすカロヤン大佐。
「まず私だ。君の会社の課長という表の顔と、SHADO本部司令官という裏の顔を持っている」
課長は例の変身の術で、任意に大佐と課長に変身可能なのだ。それにしても、見た目のギャップが酷いのだ。どうせ変身できるのなら、もう少しマシな容姿にしたらどうかと思うのだが、実はそれにも秘密があった。
「001、君は私の顔を見る度に、私を怒らせていたね」
ああ、朝恒例のスキンシップ挨拶のことかと、相槌をうつ。
「あれは君が私を怒らせることに意味があったのだよ」
「大佐、それはないでしょ、俺は課長の顔がおかしくて笑いを堪えきれなかっただけですよ」
女子社員が毎朝迷惑していたスキンシップに、大佐の思惑が潜んでいたなど、あり得ない話だと一笑する。
「喧嘩は偽装だよ。私が激怒すると、ある精神波を001が浴びるようにしていたのだ」
精神波の発動条件は、私の興奮状態がトリガーであり、自然な状況で毎日精神波を放出するには、君のツボを刺激すれば良い。即ち上司保毛山の容姿を最低にすれば可能だとね」
何故にそんな遠回りなやり方をしているんだ?と思うのだが、ここは黙って話を聞くことにした。長引かせても碌な事がないのは学習済だ。
「つまり、君が我が社に入社することと、私が毎日一回の精神波を放射することは、全てSHADOの計画の一つだ」
「私の精神波を入社後毎日浴びる必要があったのだよ。それは君の覚醒のための準備運動のようなものだと認識してくれ。まあ、こうして無事覚醒しているのだから、この話はここまでとしよう」
『うーむ、理解が追いつかない。俺はこの会社に入社する事は、自分の意志で決めたはずなのに、それすらSHADOに操られていたということか』
今は俺に関わる仲間の話だ。黙って聞いておこう。
「二人目は君のチームメンバーのソフィアだ。彼女はSETI協会で母親からみっちりとプログラム技術を叩き込まれた後、3年前に我が社に投入した。彼女にはある特殊プログラムを担当してもらっている」
『はて? そんなプログラムなど書いてた覚えはないのだが。チームが作ったプログラムは、必ずチームリーターの俺がチェックしていた。そんな怪しげな代物など無かったはずだが・・・』
そこで、ある重大な事に気づいた。何故今まで気づかなかった?
「大佐、俺が抜けた後、ソフィアはどうなっているんです?」
今までディスペルして覚醒した知識やら、新たな状況にソフィアの存在を失念していたのだ。
「ふふ、気になるかね? 」
『妙な含み笑いをするんじゃねぇよ! この妖怪!』
テレパシーで頭を覗かれていることも忘れて、動揺してしまった。
「心配せんでも、彼女のことは私がネンゴロに扱っておる・・・」
「なんだよ、その・・・は!その言葉が一番危険なんじゃねぇか! まさか! 大佐あんたソフィアに!」
俺の脳裏には、時代劇に出てくる悪徳代官様が、自分の屋敷で手籠めにしたお気に入りの娘の帯を掴んで、くるくると脱がせる定番のシーンがセリフ入りで浮かんだ。
"♡あーれーぇぇぇ、ご無体なお代官様、お慈悲でございます、あーれぇぇぇ♡"
"なかなかの上玉じゃないか、ソフィア、うぶな奴。ふふふ、そこがまた、たまらんのう。ゲヘヘヘヘ"
そこまで妄想にふけていると、大佐が緑の便所スリッパを取り出した。条件反射で頭を抱える俺。見ると何故かステラとメーベも頭をブロックしている。はて?
「お前らはパブロフの犬か! トロくさいことを妄想するな001!」
便所スリッパを見て少し冷静になれたのは良かった。
しかしステラとメーベがハンカチを噛んで、悔し泣きしている。
「001、それが本当にお前の気持ちなのか? それとステラとメーベはお前の気持ちを読めるのだ。注意しろ」
大佐の言葉に愕然とする。
「俺の本当の気持ち?」
『分からない、分からないが、会いたい。今すぐにでも。だが俺は既に死んでいる。会うことは叶わない』
憔悴し切っている001に大佐が声をかける。
「会社では、保毛山課長が臨時でチームリーダーを務めている。SHADOの真価を発揮するためにも一番良い選択なのだ。それにソフィアは後半年すればSHADO本部、つまり君のいるここに配属する予定だ。地球人類救済のためのカウントダウンは既に始まっているのだ。今は君の使命に全力で取り組んでくれ。頼むぞ001!」
憔悴していた頭が覚め、冷静さを取り戻す。半年後にはソフィアとまた仕事が出来る! それだけでご飯3杯いける俺だった。
「いつまで天国に召されたような顔をしている! 次だ」
三番目は君の弟嫁である芽衣だ。
『なんだって、芽衣さんがか? 信じられん』
「芽衣は早くからSHADOがマークしていたIQ180の天才プログラマーだよ」
グラビアアイドルも芽衣の前では、御免なさいと裸足で逃げ出すという芽衣さんが? 弟の会社では芽衣さんの争奪戦が起きるほどの美人なのだが、まさか芽衣さんがIQ180の天才? 驚きすぎて頭がパンクしそうだ。
「芽衣は18歳からフランスのSERNで働いてもらっていたが、計画により6年で日本に戻した。そして、弟さんが務める企業に潜り込ませたという訳だ」
『重大な任務を持ちつつ、弟蓮と結婚し寿退社・・・これもSHADOの計画なのか?』
大佐が話す内容は、常に疑問ばかりで疑心暗鬼になってしまいそうだ。まあ味方なのだから全てを話してくれるだろう。
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「すると、課長、ソフィア、芽衣さんに俺は常に監視されていたという訳か」
人類滅亡を救えるらしい救世主の俺だ、知らなかったとは言え、当然の対処だったんだろう。芽衣さんの素性については、ここまでのようだ。
頭がはっきりしなくなったが、俺は気力で耐える。
「最後のメンバーは、君の飼っている三毛猫だ。君がマゴロクと名付けている雌猫のことだ」
『にゃにゃ、にゃんだとー!』
驚愕の発言にこれはもう声が出ない。
「あの俺の飼いネコがですかぁ? いつも帰ればゴロゴロ、モフモフしてたあれが?」
「職場では保毛山課長である私と、ソフィアが監視していたが、自宅の君を監視するには手薄だ。そこでマゴロクの目を通して映像と音声がSHADO本部に3Dで届くようになっていたのだよ。
首に髑髏の首輪がしてあっただろう? あれはマゴロクがUFOから逃げ出す前、つまり君を最初に拉致したときに装備しておいたものだ。キャッツ・愛はなかなかいい仕事をしてくれたよ。しかし心配せんでよい、マゴロクは普通の猫だから、今まで通り可愛がってやってくれ」
UFOに拉致され、気がついたらマゴロクは俺のそばにいた。UFOから逃げて来た?
俺の死後に弟蓮夫婦が引き取ってくれていたが・・・・。
『流石に引き取りには行けないだろう。ああ、そこは芽衣さんがなんとか出来るか』
まさかそんな事がと驚くことぱかりで、はぁーっと大きなため息をつく。
その時ステラとメーベがと同時に起立した。
「「大佐、意見具申。ご主人様はマゴロクがいなくてお心が淋しいのだと推察します。ここは私「ステラが」「メーベが」猫に代わって、ご主人様のお心を慰めて差し上げ、身の周りのお世話をいたします。そして、「メーベを」「ステラを」一人大佐専属にすれば何も問題ないかと確信します!」」
同じセリフの中の人名だけが入れ替わって聞こえる妙な発言だった。器用なものだ。
「その必要はない。その役割は半年後にソフィアに任せるつもりだ」
「「がーん!!」」という擬音が聞こえた。
大佐の一行文はステラとメーベにとって、死刑宣告に等しいものだった。
白目をむいた二人の口からオバQのようなエクトプラズムがふわふわと出ていく。
それを大佐が両手で確保、二人の口に叩きこんだ。
「あ、俺もやられたな、あれ」
走馬燈のように記憶が蘇る。
大佐は、使い物にならない二人を倉庫に放り込んで、会議を続けるのだった。
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SHADO仮設本部
G-ツェッペリン3000仕様
乗員2,600名 プロジェクト・メシアのために必要な装置の製造、反重力エンジンの建造ができる母船だ。




