EP12 ペテルギウス、お前はもう死んでいる
地球歴で換算して今から約500年前、オリオン座の恒星ペテルギウスは星の寿命を迎えた。
赤色超巨星となり、遂に超新星爆発を起こしたのだ。
惑星連邦は長年の観測により、ペテルギウス爆発時期を予測、可能な限りの対処方法を考案、実行して来ている。
有効な対策として惑星連邦会員たちは、その科学力で超強力なガンマ線を防ぐシールドを新造、或いはレンタルして爆発に備えていた。
また、全長2000mの巨大宇宙移民船を何隻も建造し、既存所有恒星間観光宇宙船を使用して、万一に備えて避難をしていたため、致命的なダメージは受けてはいなかった。
ペテルギウス大宇宙災禍が過ぎて、平穏な日々を取り戻した惑星連邦。
宇宙歴XXX年の惑星連邦本店で、年に一度の大総会が開かれている。
各惑星の代議員を中心に学識経験者、各分野の専門家が集まる一大イベントだ。
本部前には、いろいろな露天商が並び、年中行事の一環として楽しまれている。
「では、これより宇宙歴XXX年、第XXX回、惑星連邦大総会を開催します」
美しくて長身、ミニスカのボッッキュンボンの女性が宣言をすると、近くで着席している来賓の眼鏡がギランと光る。
ステージやお立ち台に上がってくる人物は、〇仙人のようなスケベそうな人物が多いのが見てとれる。
ボッッキュンボンの女性がステージの袖に隠れると、落胆のため息が聞こえた。
しばらくの間があって議長がハンマーを叩きつける音が鳴り響く。
「ご静粛に! これより第1号 緊急議題に入ります」
議長、まさかあんたも見とれて保毛ていただろうと、良識ある女性代議員たちからジト目の嵐。
議長宣言により、各自が空間投影モニターを起動する。
総会というのは、殆どが形だけのもので、いわゆるシャンシャンなものが多い。惑星連邦の代議員たちも、早く終わらせて歓楽街へ繰り出したくてウズウスしているのだ。
だが、本店としては、今回の議題は真剣に考えてもらいたい案件だった。
「議題第一号、太陽系第三惑星の地球の救済について」
「地球人類は、我々と同じDNAを持つ同種族であり、救済すべきか否か、代議員諸氏の意見を伺いたい」
議長発言要求に、自分たちにはもう関わりのない議題として、面倒臭い派のA議員が立ち上がる。
A「議長、地球人は惑星連邦の会員ではないし、そもそも知的水準が低すぎるのではありませんか? 未だに原始人に毛が生えたような生活ぶりだと聞いております。連邦が救済する必要性があるのですか?」
続いてその意見に同調するB代議員が起立した。
B「それにペテルギウスからガンマ線が太陽系に到達するのは、後450年以上かかると思いますが、今日議題として取り上げる案件でしょうか?」
面倒臭い派の勢いが加速していく。
今度は、C代議員が発言する。
C「科学技術力が殆どなく、地球人が自力で防御することなど不可能。ましてや天文学の知識が皆無で、ペテルギウスの超新星爆発などまるで知らないでしょう。観測隊のデーターでは、年中侵略戦争を繰り返している愚かな連中と報告を受けています。キュウサイするとなると、100%連邦の財源を消費することになりますが」
惑星連邦の被害は少なかったとは言え、復旧作業に多大な資金が投入されている途中なのだ。
その後も地球人類救済不要論が続いていく。
要約すれば、
「そんな野蛮な地球人など、滅んだほうが惑星連邦全体の平和に繋がる」
強硬派の意見は、主にこれだ。だが本音は自分たちの危機は去ったのだから、どこの馬の骨とも分からない地球人類がどうなろうと、知ったことではない。
それに可決されれば救援隊の編成作業、資金も必要になる。
自分たちの時間と金を、そのような事に使いたくないのだ。
確かに地球人類は、開けても暮れても戦争ばかりしている。どこかの黒電話独裁国家に代表されるように、支援物資が欲しい癖に核弾頭ミサイルで恐喝するという、頭から平和という二文字が欠落している国家さへ存在している。
救済否定代議員たちの主張も一理あると、議長は白い顎鬚を撫で思案する。
次は穏健派の女性代議員が起立する。
代議員のカステーラだ。
「地球人類はまだ発展途上であり、人類が平和に目覚めるのには、もう少し時間が必要です。我々と同じ仲間を見殺しにする事には異議を唱えます」
カステーラ代議員の発言に、痛烈な視線を向ける代議員ABC。
『馬鹿が。余計な事を言い出しよって』
更にもう一人の穏健派の女性が起立する。ラメーベ代議員だ。
「いずれにしても、ガンマ線が太陽系に到達するのに、450年以上ありますから、後400年程地球人類を観察して、その時点で救済に値するかどうか、決めたらどうでしょうか」
議場内に穏健派から拍手が鳴り響く。
それと同時に面倒臭い派から容赦ないブーイング。
なかなかの良い意見であると議長は思う。
これならば、後400年は先延ばしが出来るのだ。内心では、この案で乗り切れると、ほっとしていた。
面倒臭い派の考えは、地球人のエゴと同類である。平和であるはずの惑星連邦でも、こんな思考を持つ者がいることに、大多数の議員は軽蔑の眼差しを向けるのだった。
会議中に、地球調査隊が記録した地球の映像が流れる。
場所は日本というテロップが出ていた。
そこは、戦乱と貧困によって住民生活が疲弊しているのが分かる。映像がターンすると、汚れた衣服の男性が、倒れている女性を介抱しているようだ。
背中超しで顔が見えないが、彼は医者なのかも知れない。やがて、彼がカメラの方向に振り向くと、
「「「きゃーーー」」」
女性代議員からの黄色い絶叫が鳴り響いた。
まるで〇ャニーズのコンサートに来ているような錯覚を覚える。
ある女性は失神し、またある女性は失禁した。
議場内は、紙おむつの手配やら、担架の手配やらで一時騒然となったため、議長は20分間の休憩を宣言する。
議場から離れた女子便所の前が賑わしくなった。
「絶対地球人類は救済すべきよ!」
「当然ですわ!」
「私、代議員を止めて救援隊に志願します!」
「異議なし! 何が何でも可決よ! 」
「「「おーーー!!!!」」」
女子便所前が異常な興奮と熱気と糞便の臭気が漂う、不思議な決起集会と化していた。
議会を再開してすぐに、絶好の採決タイミングと見た議長が裁決を取る。
穏健派の女性代議員は全員が起立。
なんと面倒臭い派の女性代議員までが起立した。これにより賛成多数で地球人類救済は可決されたのだった。
この時、映像に映っていた男性が何者だったのか、それは誰も知らない。ただ偶然に映像に移り込んだだけの地球人だ。
言えるのは顔が2020年の主人公、関野 武に瓜二つだったという事だけなのだ。
穏健派女性代議員のカステーラとラメーベは、奇遇にもカロヤン大佐付けのUCA ステラとメーベの、ご先祖様だった。
運命とは不思議なもの。地球歴2020年では、カステーラとラメーベの子孫が、人類救済のために働いているのだから。
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ここである専門家は考える。
誰も触れなかったが、地球歴2023年には、ペテルギウスからの超ガンマ線が地球に到達する。その際にガンマ線が地球オゾン層を破壊、そこへ有害紫外線が降り注ぐことになる。ここまでは良い。
だが、もう一つの問題がある。
太陽系にある太陽活動が、ちょうどその時期に大変化が起きる。これも長年の観測によって判明しているのだが、この事実は以前天文学者の論文に上がったぐらいで、一般には知られていない。
地球人類は、破壊されたオゾン層を抜けたペテルギウスからの超ガンマ線と、太陽からの強烈な紫外線の嵐に晒されることになると。
例えれば、地球人類の一国を滅亡させるために、一発で済む核ミサイルをわさわざ2発叩き込むようなものだ。
「これでは、地球は救われない、地球人は、人類創生からやり直すことになってしまう」
地球人類が惑星連邦の一員となるのは、もはや絶望的な年月が必要になると深く憂慮するのだった。
後に、この一専門家が地球人類救済プロジェクトリーダーとなる。
彼の名はオズモンド・カロヤン。これも運命のいたずらとしか言いようがない。
惑星連邦太陽系支店 支店長カロヤン大佐のご先祖だった。




