EP10 第2章 地球外知的生命探査SETI協会エージェント
承の章
「フランク博士、いよいよですね」
1960年、記念すべき人類初の地球外知的生命探査が始まった。
フランク博士は、知的生命の存在を確信する天文学者だ。ずっと温めていたプログラムが実現して、今喜びと緊張が走る。
「うむ、では中性水素線、波長21cmでいく」
宇宙に向かって発射された電波には、人類の夢が乗っている。これで宇宙から反応があれば、人類は宇宙知的生命体とコンタクトする道が開けるのだ。
無論、電波が返ってくるのは、何年かかるか知れないが、これは希望の電波だ。
友好的な生命体であれば技術文化の交流により、地球人類に多大な恩恵を齎すであろう。その逆も考えられるが、今は知的生命の確認が全てだった。
これは"オズマ計画"と呼ばれ、10年以上続けられたが成果はなし。
続いて1973年から"オズマ計画Ⅱ"が再開されたが、やはり何の成果も得られず3年で終了したのだった。
それから15年の月日が流れた1991年のこと。
米国カリフォルニア州、SETI協会の建物の前に立つ一人の女性は、黒い髪と黒い目、ショートヘアの美人。
彼女を見たSETI職員があわてて迎えに走っていく。
大物なんだろうか、取り出したコンパクト送受信器の蓋を、腕の振りだけで器用に開るとキョキョと音がする。そして誰かと喋っている。
この時代の携帯電話とは形態が違うことから、恐らく民生品ではない軍関係の備品であろう。
やがて身だしなみの良い若い男性が登場し、女性をエスコートしエレベーターに消えていった。
案内された部屋で、紳士と彼女が言葉を交わす。
「かほり」
彼女はの名前は、北川かほり 20歳の日本人だ。
「アレン・ローネック主任、会いたかったです」
かほりは17歳の時に、1年間アメリカ留学をしていた。
その時にアレン主任に声をかけられたのが始まりで、それから何度も会っている。
アレン・ローネック主任は独身だが、別にかほりをナンパした訳ではない。
かほりは、幼い頃からコンピュータープログラミングの才能が開花し、高校生になった頃には、既に一流のプログラマーとして生活できる程になっていた。
高校の推薦もあって、米国でプログラム留学のため、1年という短期間ではあったが、マサチューセッツ工科大に特待生として入学していたのだ。
プログラミング技術だけを考えるなら、かほりと同等のレベルの学生は何人か存在していた。
しかしアレン主任は、わざわざかほりをスカウトしにやって来たのだった。
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留学して半年後、アレン主任はSETI協会にある自分のオフィスに案内し、開口一番、重大な目的と任務を話す。
「かほり、驚かないで聞いてくれ。これから話すことは全て真実だ」
かほりは、なぜ自分がSETI協会に招待されているのかが分からない。
「あの、地球外の知的生命体を探るためのプログラムとか、私でなくても工科大の学生に優秀な学生がいます。それに私はまだ高校生ですし」
口角を少し上げてアレン主任は続ける。
「我々SETI協会には、ある特別な協力者がいてね、仮にそれをXと呼ぼう。そのXがSETI協会と接触したのは1977年のことで、その時にXから必要な人材を見つけるテクノロジーを教えてもらったんだ」
なかなか本質を語ってくれないアレン主任に、少し憤慨していると、それを悟ったアレン主任が今度はニヤリと笑う。
「まあまあ、かほりが知りたい情報は、これから話すから」
気分を落ち着かせるために、甘いお菓子を大量に用意させることにした。
運ばれてきたお菓子の山に、目が♡マークになるかほり。
意識していないのか、手が勝手に伸びてモリモリ食べだした。
途中でアッハーンとか、ウッフーンとか、これよ、これ! とか言って賑わしい。
「気分は晴れたかな?」
はっ ! とした時には既に皿の半分以上の甘味が消えていた。
口いっぱいに菓子を頬張っている姿が愛らしいと思うアレン主任だった。
「では、君をスカウトしたい理由だが」
きたきた、それよそれ! と思わず拍手しそうになるかほりだった。
「我々が必要とする人材を見つける機械だが、我々はそれを"スカウト・ビンゴ"SBと呼んでいる。
世界中の人間を衛星からSBでリサーチしていて、かほりを見つけたんだよ」
まだ、核心に迫らないので、ムーっと頬を膨らませる。
内心『しばいたろか、このおっさん!』
と過激な発言を浮かべたのだが、顔はどこぞのお嬢様。
「はっきり言おう」
アレン主任の両手が、かほりの手を取る。
「かほりはある特殊任務に就くために選ばれた。それは、他の誰でもない、君だ。君が必要なのだ!」
最後の言葉に頭をハンマーでどづかれた。顔面がみるみる紅潮して、次第に心臓がバクバクと高鳴り過呼吸寸前だ。
「ふ、ふ、不束者ですが、末永く・・・・・・」と言いかけて、かほりはとても嬉しそうな顔をして気絶してしまった。
26歳独身のアレン主任は、突然の出来事に狼狽したが、すぐに医務室に運びこんだ。
なぜか、運び込まれた医務室の職員たちの目がニヤニヤしている。
「なんだ? どうしたんだ皆?」
「おめでとうございますぅ、アレン主任! 主任ってばもう大胆ですぅ。」
「で、何がだよ」
かほりを心配して運び込んだのに、いったい何が起きているんだと理解不能のアレン主任は不機嫌になる。
「オフィスでのやり取りは秘密回線でLIVE中継されているんですよ~。今日私たちは暇でしたので、ずっと覗いて、コホン監視していましたの」
医務室の女どもがキャイキャイ騒いでいる。この手の恋愛話はどこでも大人気。
しばらくしてかほりが目を覚ます。
目の前にはアレン主任が、手を取りじっとかほりの瞳を見つめている。
まわりの女どもが組んだ指を胸に、その瞬間を待っている。
かほりが口を開く。
「あなた」
「「「きゃーーーー」」」
「「「ヒュー、ヒュー、ぴーひょろろろ」」」
大歓声と口笛が鳴り響く医務室。かほりの妙な勘違いから、この時かほりとアレン主任の婚約が決まった瞬間だった。かほり17歳、アレン主任26歳のことだった。
突然の事で魂が口から抜け出そうとするアレン主任は思う。
『まだ、SETIの任務を教えていないのに・・・・・・俺ってば結婚するの?』
最初から無い外堀が一瞬で埋まった瞬間だった。
**************
かほりの留学期間が終わるまでに、アレン主任はSETI協会の重大な任務、協力者Xの正体、そして自分が必要な理由を教えてくれた。
全てがSFの物語かと思うような内容に、最初は茫然としたかほり。
しかし、そこは愛する婚約者の言うことを信じ、高校卒業後には親の承諾を経て、SETI協会に就職することを決意したのだった。




