EP1 第1章 登場人物それぞれの物語 *
2220年初秋、享年34歳でこの世を去ることになった奇人と評価される天才プログラマーの主人公。過去にUFOと遭遇した経験があり、それ以降人格と能力が大幅に変貌してしまう。
そのため愛する両親、弟と妹に多大な迷惑をかけることになるが、なんとか社会人として生活している。
人格が変わった原因は本人にも分からない。無口で内向的な性格から、活発で何にでも疑問を持ち、解明したがる多趣味な男に成長していった。
雄弁で突飛な発想が得意。高校、大学でも異質な存在を発揮した。大学での専攻は物理学でプログラムの知識は独学である。
UFOの研究は昔からのライフワークであり、エネルギー問題や自然環境に異常な関心を示してきた。仕事が終われば究極のクリーンエネルギー、人類が求めてやまない反重力エネルギーの研究をしている。
死亡したはずの主人公が目覚めたのは、UFOの中。
そして出会った宇宙人から、主人公には重大な任務があると告げられる。
ある病室にて。
主人公 関野 武 34歳(享年) 独身 機械制御用プログラム開発を手掛ける中堅企業の主任プログラマー。
身長176cm 体重65Kg 足が日本人にしては少し長くスタイルが良。
鼻がお団子でなければ、ぎりぎりイケメンと言われる容姿だが、いざとなれば美容整形がある。問題はない。
欠点は誰にでもある。完璧な人間など極一部だ。
高校時代、UFOと至近距離で遭遇して以来、思考と行動が常人とは少し違う、右斜め上な性格の持ち主に変貌。遭遇話は全く信用されなかったのだが、上司から面白半分に
「そのUFOに拉致されて、脳みそ吸い取られたのとちゃうか?」
と言われて以降、意見が衝突する度に、必ず上司の口から飛び出す鉄板の定型句である。
それが本当なら、俺の頭に今まで詰まっていたのは何だというのだ?
そんな性格故に、社内では仕事に関してなら、他課の上司にも奇妙奇天烈な言動を繰り返すことか多く、本名ではないのに
「また滝川の奴がか!」
などと毛の薄い直属の上司が苦笑いをするのは、社内名物の一つとなっていた。
某美人キャスター が"右斜め上を見るしぐさ"を揶揄しているそうだ。
"おもてなしより金、銀、銅"が俺の自作期間限定座右の銘。
世界的な異常気象の影響で、オリンピックは来年に延期したのは残念だが、我ながらネーミングセンスがいい。キャッチコピーとして今から使ってもらえないものだろうか。
誰もが思いつかないような奇天烈な発想と意見は、仕事に十全に生かされていて、会社の売り上げと評判を上げるのに貢献しているため、上層部も含めて何も反論はしてこない。
国内は元より、海外航空宇宙産業企業からの引き合いが多い。機械制御プログラム開発は我社の売りだ。
わが社のプログラム開発チームは20チームある。第3室に所属する俺のチームは6人、紅一点の彼女は若くて美人な天才プログラマーだ。
名前は北川ソフィア、彼女目当てにチームに転属したがる男子社員が、毎年人事部に大量の転属願いを出すのは、恒例のお祭り騒ぎとなっている。
人事部を混乱の渦に巻き込む転属願書が多いのは、断固として俺の責任ではない。なのに人事部長から、只でさえ新入社員を採用して忙しい時期なのにと、ブチブチと嫌味を言われる。
それなら彼女を他部所に異動させれば済むはずだと外野が騒ぐのだが、彼女のプログラム技術は俺と肩を並べるほど優秀なのだ。
今彼女がチームから抜けると開発に遅延が出る。会社としては顧客に対して補償問題に発展するのは避けたいのだ。
また、何故かソフィア本人が異動を断固固辞。ほかにも特殊事情があるのだが、会社の命運がかかっているので、さすがに上層部も彼女を動かせない。
もろもろの事情はあるものの、個性豊かなお騒がせメンバーが揃った優秀なチームだ。だがソフィアには謎が多い。
我々に正式なチーム名称はない。だが、周りからは「UFOチーム滝川」という嫉妬と羨望が混在した名で呼ばれ、取引先にまでこのチーム名で指名されている。
UFOは否定しないが、滝川はないだろう。もはや俺の愚痴などこれっぽっちも聞いてもらえない。
社内では奇人として有名な俺だが、チームメンバーからは面白くてユニーク、仕事は完璧主任として人望がある。
また、チームメンバーばかりでなく、他課のまだ右も左も分からない新人の面倒まで見てしまう、お人よしな面もある。
欠点と言うなら、未だに嫁をもらおうなんて思考はない。
それで恋愛対象に問題があるのでは? と疑われている。(怪文書が、社内食堂の掲示板に貼ってあったな、俺は気にならなかったが)
俺は、あらぬ濡れ衣をかけられようが、馬耳東風、天上天下唯我独尊の悟りを貫く漢だ。
そんな俺に人生のターニングポイントが訪れたのは二年前、会社の人間ドックで胃に親指大の腫瘍があることが分かった。更に精密再検査をしたところSTAGE3の胃がんと判明。担当医から胃の全摘手術をすれば、10年生存率は50パーセント、まだ十分人生を謳歌できますよと説明を受ける。
俺はこの世でやりたいことが山ほどある。すぐに県内の岐山大学病院で胃の全摘手術を受け、その後三か月間治療のため入院生活を送っていた。
退院後は上司や会社の計らいで残業がない。勤務時間も減らしてもらいながら順調に復帰していた。・・・・・・のだが。
昨年の秋には、俺のせいで結婚の時期を延期していた弟 蓮の挙式に出席することができた。仕事も以前と同じようにこなしながら数か月が過ぎ、今年の盆休みに入ってから体に違和感を感じた。
休み明けに、精密検査を受けたところ転移が発覚。体調が悪くなかったので無理をしなければ、これで全快も夢ではないと楽観してたな。
油断大敵。定期健診は受けていたが、趣味の時間を取られたくないという身勝手な考えから、最近は健診を受けていなかったのだ。ずるずると先延ばしにして、発見が遅れてしまったのは自業自得。
再度の全身精密検査の結果、胃そのものではなく、体のあちらこちらに転移していて、治療方法は抗がん剤と放射線による治療のみ。再手術という選択は広範囲すぎて意味がない。
再入院して治療が始まってから一か月後、秋の訪れを感じる肌寒い風が吹く季節となっていた。
ピコン ピコンと音が鳴り続けている。
俺は今緊急処置室のベッドで朦朧としながら横たわっているのだ。
若いからなのか、入院してものの一か月でこの状態にまで悪化してしまった。今はモルヒネの連続投与で痛みはない。
最後が近いのだろう、ベッドのまわりには家族の他にソフィアの姿もあった。
『ソフィア来てくれたのか、ありがとな』
『俺もこんなふうに、ベッドの横に立って臨終間際の知人を看取ったこと、何回かあったよな。今度は、俺の番 34歳・・・・・・まだ若いのにな』
と思うと、頬に熱い何かが流れる。この熱い何かは、まだ何もやり遂げていない口惜しさからなのか、生への執着なのか自分でもよく分からない。
カウントダウンが始まったようだ。
ベッドの横に備え付けの心拍計が出すピコン、ピコンの音がだんだん緩やかな響き変わった。この音も病院に見舞いに来ると良く聞いたものだ。それが今は俺のための葬送曲か。
声を出そうとしても、呼吸をしているのか、していないのかさへ分からない。
母親だろうか、俺の手を握っているぬくもりが、ぼんやり伝わってくる。
俺が既婚者だったなら、かわいい嫁さんが手を握っている場面なんだが・・・・・・ この歳で嫁さんや子供を不幸にしなかったことは幸いと思いたい。
嫁さんになる女性は絶対にCAと決めていたが、肝心のCAさんたちとの接点が、今まで全くなかったのが残念と言えば残念か。
他部所の男子社員に言わせると、男子社員憧れの頂点、妖精北川ソフィアと毎日職場で顔を合わせられる俺は、チームの打ち上げとなれば、カラオケやら食事会に連れまわせるのに贅沢すぎるということだ。
ふむ、みんな勘違いしているようだが、ソフィアは見た目と違うよ。
奴ら、例え本物のCAと飲み会セッティングしたとしても、絶対に誘わなかったそうだ。もちろん俺の野郎チームメンバーも含めてだ。
ものすごい嫌われようだ。浮いていたな俺のチーム。
ソフィアのことはともかく、俺の未来の嫁さんはどこの誰だったんだろうな。趣味に走っていた男が今更である。後悔してもどうしようもない、これでよかったんだ。
薄目を開けていられるのも限界が来た。耐え難い睡魔が迫ってくると同時に視界は輪郭が歪み、だんだんと白い光だけの世界に塗り替えられようとしていく。手を握ってくれているであろう母親に無言のお礼を言う。
『かあちゃん、先に逝くよ。ごめんな』
こんな時でも、父親より母親が大事だ。共に過ごした時間が圧倒的に違うのだから仕方がない。
『すまん、とうちゃん。でも、今まで食べていけたのは、まぎれもなく父ちゃんの頑張りの賜物だよ。大学にも行かせてくれたしな、感謝してるよ、ありがとな』
元気な時にはこんなことは決して言ったことがない。
そうじゃない、言えなかった。男は父親には、素直に礼が言えない悲しい生き物なんだ。
俺はもう声が出せない。
『礼のひとつも言えずに逝くのか、最後まで』
関野純金
俺の父親 69歳
関野吉海江
俺の母親 66歳
両親は、退職して年金暮らし。父親は県内の航空関連会社 山崎重工業の技術職で、母親はその会社の受付嬢をしていた。
受付は会社の華であり当然、美人社員が選ばれる。実は母親は社長とちょっとした因縁があって採用された。
社長は専属秘書にしたかったのだが、他の女子社員の親が会社の有力株主やら、重要な取引先の娘だったりした関係で、実現しなかった。
まるで貴族社会の私欲の絡んだ派閥争いだ。母はそんな争いに興味はなく、秘書の話を固辞。人事部長もこの件については、社長のわがままを通して会社運営に亀裂が入ってはと、コネの強い女子社員を秘書に据えたわけだ。
これが結果的に父親と母親が接近する原因となった。
母親はいつも通り受付で笑顔を浮かべて座っている。
朝、大勢出勤してくる社員ばかりでなく、オヤジとも毎日挨拶をかわすのだが、どうも何か言いたそうなオヤジの視線が気なっていたそうだ。
母から聞いたことがあるが、父からのプロボースらしき言葉は、壁ドンならぬ朝の挨拶時に、「今度、近くの大衆食堂で、か、か、かつ丼食べないか」と言われたのがきっかけであり、それからズルズルとかつ丼付き合いが始まった。
オヤジにではなく、かつ丼の魅力に負けた母親もどうかと思うが今更だ。
ちなみに母親は味噌カツ派だ。選択を間違えたなオヤジ、事前リサーチは仕事の鉄則だよ。
まぁ俺たち兄弟姉妹が存在する間接的な原因はかつ丼なわけだ。オヤジ、もっといいものでアタックしろよ。せめて地元ホテルのフルコースでさ。
"HOTEL KING OF KINTAM" 電飾が煌びやかでオヤジなら間違えて予約を入れそうだ。大衆食堂で幸いだったな。俺なら間違えんけど。
"仕事帰りの赤ちょうちんは最高だ"と言うオヤジに、フルコースなど思いつくはずもなし。
それ以後安上りなデートが続くが、母親はそれでも構わなかった。もともと浪費癖のない質素倹約型の女性だったのだ。
未婚の俺が言うのもおかしいが、これは結果論だ。女性の本性はなかなか掴めるものではないが、オヤジはいい嫁さんをもらった。アタリだ。
よく結婚は博打だという先輩既婚者の話を聞くことがあるが、金言だと思うよ。
さてさて父親が退職して俺が病気になる以前は、結婚はまだかまだかが口癖だった。いつまでも孫の顔を見せようとしない長男に愛想をつかせたのか、次なるターゲットを弟にロックオンしていた。
この時弟はすでに嫁さんとお付き合いをしていたので、両親は将来の弟夫婦に活路を見出したのだろう。正しい選択だ。
ロックオンされたとも知らない弟は、来るたびに"同居のメリット"を長々と伝授されることになった。
オヤジ製ロックオンはとても高性能。
オヤジにこれほどのねばりと営業トークの才があったとは! あんた技術職だったろうが!
ほぅ、それで美人かあちゃんを"か、か、かつ丼"で口説けたのか? 恐るべし我が父、さすがだ。
孫の顔を見るのが最大の楽しみなのは知ってはいたが、それほど必死だったのか・・孫はかわいいと言うからな。気持ちは分かるよ、すまんな。
二年前、ガンを手術をして、その後回復が良好だった息子が、こんなに早く逝くとは想定外だったんだろうな・・・・・・俺だって晴天の霹靂だぜ。運命の神でも、死神にでも出会ったら一発殴ってやりたい気分だよ。シュッシュッ。
両親は、もうすぐ訪れるであろう瞬間に怯え、言葉を失い視線が定かではない。自分の年齢の半分しか生きていない息子が先に逝く・・・・・・親としてこれほど辛いことはない。
親なら誰もが閻魔大王様が本当に存在するのなら、その御前で地べたに頭をこすりつけて身代わりを懇願するであろう。人の親であるのなら。
だが、世の中には鬼畜な親も存在する。前世があるのならこうした親はいかなるものだったのか? 人ではなかったのかもしれない。
熟年夫婦の喧嘩で、"この人でなし" と罵声を浴びせるシーンをドラマで見たり聞いたりするが、その言葉に実は恐ろしい意味が隠されているのではないだろうか。童話は本当は恐ろしい事件がベースにあると言うからな。
次男 関野 蓮 31歳。俺より背は少し低いが、母親似なのか男としては軟弱な雰囲気を醸し出している。
大手事務機器企業の営業マンで、嫁さんとは社内恋愛を経て昨年秋にゴールイン。極めてまじめな性格で、家庭を大切にするマイホーム第一主義な弟。そうさせたのは、兄(俺)の影響が大きいことは言うまでもあるまい。
「出た!!UFOが出た!!」
と学校帰りの俺が、母親と帰宅してまったりしている弟、妹につばを飛ばしながら興奮してしゃべっていたことが昨日のことのようだ。
俺は町内、親戚縁者にまで目撃談を話した。それほどショッキングな出来事だったのだ。
俺はただ信じて欲しかっただけだった・・・・・・それが
あれから俺は変わってしまった。そのせいで学校で弟は、「蓮の兄貴は宇宙人」 とバカにされ続けた。弟は兄のようにはなってはいけない、両親に心配をかけてはいけないとがんばってきた。
弟も母も妹も俺の目撃談を信じなかった。オヤジに至ってはフンの一言だ。身内が信じてくれない、これは純粋にショックだった。
『嘘は言ってないのに』子供心が大きく傷ついたことを今でも忘れない。
子供はこんな些細な出来事と思われることでも、その後の性格に大きく影響するのだよ。
俺が結婚して子供を授かったなら、子供の言うことは、まず信じてあげようと思っている。親が子供を信じてやれなくてどうする。
そんな親孝行で上出来な蓮が神妙な顔をして、目を真っ赤にして泣き腫らしている。『俺はお前にとっていいお手本じゃなかったのにな。すまん。それと嫁さんを悲しませるなよ』
次男の嫁 関野芽衣 28歳 子供はいない。
身長165cm 体重 非表示 kg さらさらの黒いロングヘアーが魅力で、出るところとくびれるところが絶妙な大変けしからん体形をしていらっしゃる。
彼女ならミスユニバースコンテストでも何でもいけるだろう。ソフィアが秋葉外資系スーパーアイドルだとすれば、芽衣さんは品のある超絶グラビアモデルか。
よく特売コーナーに出没してくる中高年で、腹に鏡餅を携えている方たち、顔だけメークバッチリしてもね、バランスは大事だと思うよ。
蓮曰く、芽衣は蓮の会社に入社以来、男性社員垂涎のマドンナであり、常に誰が彼女を射止めるか、それはもう水面下で苛烈なバトルが展開されていたのだそうだ。
その証拠に、会社内で闇賭博が御開帳、男性社員が馬に置き換えられ、馬券のごとく賭けの対象になっていたという。
なんとその闇賭博の胴元が、あの薄い毛のmy上司だったというのだから、二度びっくりだよ。
俺の会社と弟の会社が、なんで芽衣さん繋がりなんだよ? それでいいのか?俺の会社。どうなっても知らんぞ。
芋づる式に俺の会社と弟の会社が闇賭博開帳容疑でTVのワイドショーを騒がせることになるんだぞ! おいハゲ上司。
今絶賛話題のハゲ上司の姿は確認できないが、妙な加齢臭が漂っている。きっといるんだろう、妖怪だから。ソフィアが何かを避けている様子からして間違いない。
まぁそれは、蓮が結婚してから聞いた話だ。
ちなみに蓮のオッズは最低で、いわゆるダークホース。誰もが注目していなかった存在で大穴だ。
蓮との結婚が明るみに出て、芽衣さんが寿退社することが速攻で広まると、社内ではその話を聞いた男性社員が大勢早退し、安酒場で深夜まで罵声を吐きながら親睦を深めていたことは、今や社内伝説となった。
その謎の親睦会には、他課の課長連中の姿まであったという。
その日、会社を臨時休業させた芽衣さん、猛者だな。
蓮に対しては、一部の超モテないキモ社員から、希望を与えるスーパー快挙として称賛された。
芽衣さんがなぜ蓮に魅力を感じたのか・・・今年の正月に酔った勢いで絡んで聞いたのだが、芽衣さんは微笑むだけで、俺には一切語ろうとしなかった。ただ、一瞬芽衣さんの瞳に殺気を感じたんだよな、ちょっと怖かった。あれは何だったのか、目の錯覚だと思いたい。
まぁ教えてくれないと、余計に知りたくなるものだが、真相を知ることは永遠になくなってしまった。実は俺、芽衣さんのこと良く知らないんだ。
関野飛鳥
12歳年下の妹 22歳 未婚 身長160cm 48kg ロングヘアーが小顔にとても似合って、誰にも愛想のよいスレンダー美人。貧乳なのが惜しい!
高校の時、学園祭のミスコンで優勝したことがある。それに男子生徒からのモテようは、俺が嫉妬するレベルだった。しかし、本人は誰とも付き合うつもりはなく、帰宅部長の肩書を持つ。
短大卒業後一年間フラフラしていたが、今は割りと近くにある航空会社FDSのCA合格を目指して県外の専門学校に通っている。
というのも、俺の趣味の一つに航空機があり、"CAの制服姿は世界最強だ"といつも妹に力説していたのも原因の一つなのだ。
俺は高校時代から、「飛鳥、将来はCAだぜ」と毎日、顔を合わせる度に呪文詠唱していたっけ。妹は気がつけば何故かCAの道を目指してくれた。
妹曰く、詠唱する兄貴の顔はこの世のものとは思えない悍ましさがあったという。
『兄貴に口説かれてるみたいで、胸の奥がムズムズしてた』チラ見したことがある飛鳥の日記に書かれた謎の一文。汗疹でもできていたのか? 汗疹にはテンカ粉が効くぞ。(注 ベビーパウダーのようなもの)
妹が見覚えのある表紙のチラ見日記を取り出す。
そして耳元で俺との思い出を恥ずかしそうに読んでくれた。
「兄貴、今日は特別に私が書いた秘密のリアル会話調日記読んであげるね」
『すまん妹よ、ちょびっと読んだ』
某月某日 晴れ
「兄貴の洗脳魔法はすごい。こんな洗脳テクニックがあれば、社内のアイドル女子社員でも、TVの超人気女子アナだって・・・・・・ソフィアさんだっていけると思うよ。兄貴、あんな美人のソフィアさんと毎日仕事しているのになぜに気づかない?幸せの青い鳥は傍にいるのに」
私は・・・・・・そのほうが、まぁアレだけど ゴニョ ゴニョ
『アレとは何だ? たしか結婚のことで、両親と言い合いしてた日だな』
某月某日 兄貴が危篤になった日 雨
兄貴とたわけしゃべりをした日の事、思い出した。
「ここだけの話だけどさぁ、兄貴と違って私ってば母親似でしょ、容姿には多少自信があるんだよね。兄貴から呪いをかけられなくても、案外自分はCAに向いている? なんて思っていたのよさ」
「貧乳はスルーか」
「そ、それは禁句でしょうが!」
頬を膨らませて、話題を変えた。
兄貴知ってた? 私の名前だけど、オヤジの仕事が航空機関連の技術職だった関係で、"あすか"は、会社で作っていた実在の飛行機の名前から命名したんだよ! なんじゃそりゃでしょ?
「俺はいいと思うが」と兄貴は言ってくれた。 テヘ
女優の "恩田 翼" の父親はバイクメーカー "ONDA"の大ファンで、翼 という名前も"オンダ ウィング"とかいう実在のバイクから命名したらしいよ。まあ、私も気にいっているからいいけど。
CAの勉強で分からないところを兄貴に聞くと、オヤジより良く知ってたじゃん? 兄貴のヲタクマニアの知識、パねえす・・・。
『二週間前、飛鳥とまだたわけしゃべりができた、急変前の日記だな』
「もう無理、生理的に無理」もう読めない。文字が歪曲し文字が文字である形を留めなくなった。
『なんだその言葉、微妙に傷つくんだが』
日記にぽろぽろ雫が落ちる。
こんな憎まれ口を言えるのは兄貴だけだった。そして私にはいつも優しかった。
私は兄貴のことを・・・・・
馬鹿なのは私。
薄い毛の上司 保毛山 保毛之介
俺が入社した会社の企画技術課長。50歳 156cm 80kg いゆるチ○ デ○ ハ○ と三拍子揃った見事な非モテ体形。
頭はいつも油ぎっているような、濡れているような光沢がある。本人が気にしているだろうから追及はしないが、きっと毛根活性の薬でもたっぷり塗りたくっているのだろう。
無駄な努力は見ていて悲しいものだ。それをあえて言わない俺は気配りのできる漢なのだ。
課長は入社して以来俺の直属の上司である。彼はみかけによらず面倒見が良い。おかげで企画の提案などは、流血沙汰になることもあったが、遠慮なくズバズバ言えるのはありがたい。
毎回こめかみに血管が浮いている。きっと彼は血管になんらかの持病があるのだろうと理解している。
そういえば、課長の奥さんの話は聞いたことがないな。結婚はしているらしいが、誰も良く知らない。知られたらまずい理由でもあるのだろうか?
奥さんは実は400年も生きている"妖怪砂かけババァ" そうだとしても課長なら理想のカップルだと思うぞ。
なにしろ課長の風体は、まさに妖怪子泣きジジイそのものだからな。子泣きジジイがダサい、キモイスーツ着ていると思えば、ビジュアル的に完成だ。
俺は人間を見た目で判断してはいけないと、いつも心に言い聞かせている。
朝、挨拶がてら課長を見ると何故かこみ上げてくるものがあり、俺の目が三日月になってしまう。
この件についてはどうしても免疫が出来ない。それを見ていた女子社員から小声で注意されるのだが、三日月の目に課長が即応反射、流水加速、淹れたばかりの湯飲みやら灰皿が宙を舞う。
今日もすがすがしい一日の始まりだ。(何に反応してバトルになるかは、皆知っている。回想終わり)
と少々迷惑な朝バトルが始まっても、俺にとってはスキンシップみたいなものだし悪意はない。
女子社員に言わせれば、朝は何かと本業以外のもろもろで忙しい時間、それに15分も付き合わされたら、定時に帰れなくなるからだと。そんな女子社員には、気にせず仕事しろと言いたい。
北川ソフィア
俺の会社の超絶技巧プログラマー。身長158cm 体重 非通知kg 23歳独身。
日本人の母親が米国の勤務先で、とある機関で働く父親と知り合う。どういう訳か母親が一目惚れ。一年間愛をはぐくみ日本で挙式した。
ソフィアのフランス人形をさらにバージョンアップしたような容姿容貌は、戦術核ミサイル級の破壊力があり、ブルーサファイアのような瞳から視線のレーザービームを向けられた男性社員は、魂が半日、放浪の旅に出ていくというすさまじいデメリットをもたらす小悪魔。
そんな男子社員をここぞとばかり、往復ビンタをかます女子社員。嫉妬してんのか? 女は怖い・・おおさぶ(寒いの方言)
彼女を隔離する必要があるのと、卓越したプログラマーの才能もあってソフィアを俺のチームに配属。
どんな意味があるのか、特注の超合金New-Zで厳重に遮蔽した部屋が我々のワークルームとなっている。ちなみにワークルームのことは社内では"黒鉄の城"と呼ばれている。
彼女の妙なスキルだが、常時発動型の悩殺パッシブスキルだと思う。我々チームの男子5人には、そのスキルの影響を受けないのだが、それも社内七不思議の一つに数えられている。
保毛山課長も影響を受けていないな......ハゲた頭でスキル効果を乱反射してるんか? アンチスキル持ちか? わからん。妖怪だし。
彼女のプログラム技術と知識は、実は母親の英才教育の賜物であり、なぜ母親がそれほどの技術を獲得していたのか、また娘にプログラマーになることを強要し、俺の務める会社に入社させたのかも裏がありそうだ。
彼女のスキルも謎だけど。もういいか、俺、死ぬんだし......
はじめまして。やまじじいです。
ラノベを以前からずっと読んでいたのですが、先日、頭が発作を起こし気が付けば、ラノベを書き始めていました。
発作を起こして書いているので、発作が治ってしまったら、最後まで書けるかどうか分かりません。
小説の中身は、古いオヤジギャグばかりで下品だと思いますが、ストーリーに出てくるUFOの目撃談は、私の実体験です。