三人一夜
難しく考えず、読んで下さい。
我が父である国王イルムット・サラストールⅦ世には二人の妃がいる。
一人目はアリエッタ王妃。建国以来の忠臣であり現王国軍総司令であるギュスターブ侯爵の娘。ちなみに国王とは幼なじみであった。
もう一人はセーラ側妃。元はアリエッタ王妃の護衛。幼少の頃からアリエッタ王妃の側付きになり、国王と王妃の幼なじみとなる。王立学院にアリエッタ王妃と共に入学。学院時代は騎士科に男装で通い、その黒髪から黒騎士と呼ばれた。騎士科を筆頭で卒業後、ギュスターブ侯爵に見込まれ、王宮に入るアリエッタ王妃の筆頭侍女となる。
アリエッタ王妃はともかく、セーラ側妃はなぜ?となる方が多いだろう。
これには深くもなければ遠大な計画があった訳でもない。
初夜を三人で致しちゃったのである。
待って欲しい。そんな目で見ないで欲しい。
君たちに聞きたいが国立劇場で演じられた『三人一夜』という喜劇をご存知だろうか?
あれはほぼ実話だ。当人たちに聞き取りをした再現劇。
脚本、母上だし。
☆☆☆☆☆再現劇(登場人物実名)☆☆☆☆☆
式が終わり、やっと長かった披露宴も終わりの宣言ができた。
それにしても。
舞踏会に集まった他国のヤツらはもう少し慎みを持て。
結婚式当日の新郎に側妃の売り込みをかけるな。
自国の上級貴族たち、聞こえてないと思ってるかもしれないが、近くに衛兵や侍女がいる所で何処の土地を買ったやら何処の婦人に貢いだやら言うな。自国の恥になるわ!
影兵に命じて(裏)帳簿探させるぞコラ?
心理的に一番楽だったのは、軍部たちだった。
肉体的にはヤバいがな?仮にも余は国王ぞ?
何故蒸留酒なぞ呑ませる?
手や肩はまあ、許す。が、何故尻を触る?
義父であるギュスターブ侯爵がシガールームから助けてくれなければ、初夜が脳筋とだったかもしれない。
義父には感謝する。
それにしても初夜、か。
アリエッタ舞踏会の時、少し顔色が悪かったが大丈夫だろうか。
舞踏会終了後、セーラが連れて行ったはずだから、向こうでケアしてくれているといいのだが。
少し心配しつつ、舞踏会の後片付けを宰相に任せる為、執務室へ向かうのだった。
舞踏会が終わり、王妃専属侍女の仕事はここから本日の最後の締めに入る。
まず、ドレスを脱がすのだが、背中の飾り糸と止め糸を切る。
気をつけて作業しないと余分に切る。
このドレス、王都人気裁縫店のマダムシーリスのオートクチュール。
侍女である私の給料の三十年分。
手が震える。
だいたい私、護衛でしたよね?ギュスターブ様?
「娘の護衛に男装して騎士科に入学せよ」
旦那様無茶ぶりですがな。
お嬢様の為に努力しましたよ!
主に肉体的に!
お陰様で捕縛術や格闘術、短剣術に騎士儀礼なんかは今すぐ近衛騎士に入団出来るだけのスキルまで上がりましたとも!
でも、侍女とかほとんどやった事ないんですってば!
「紅茶?飲めれば良いじゃない?喉が渇いてたら水の方が美味しいよ?」
こんな事言ってた学院時代のた私をシバキタイ。
サポートしてくれたベテラン侍女のアマンダさん、マゼンタさん姉妹、感謝。あなた方が居なければきっとバッサリ逝ってたわ。ハサミは苦手なのよ。短剣なら・・・・・・。
脱がしたドレスをアマンダさんに渡して、髪はマゼンタさんにほどいてもらう。
いや、髪巻きすぎだから。私がやると縺れる。
私はその間にコルセットを外す。
毎回の事ながら、どう見ても絞った革鎧ね。
頑丈で動きやすそう。今度騎士団演習で下に着て行こうかしら。
「お嬢様、お綺麗でしたよ。改めてご結婚おめでとうございます」
「ありがとう、セーラ」
コルセットを外しつつ声をかければ少し顔色が悪いながらも微笑んでくれた。
くっ、可愛い。
嫁にはやらん!
いや、落ち着け私。
「顔色が悪うございます。すぐコレ外しますので、しばしご辛抱下さい」
「ありがとう、よろしくね」
外れていくコルセット。剥き身の卵の様な肌。
あぁ、尊い。
髪がほどかれ、ふわふわの金髪が背に流れる。
低い伸長を少しでも補うヒールの高い靴を脱いだ半裸のアリエッタ様は鼻血が出そうな美少女だわ。
くっ、何で私は性別雄じゃないんだ!?
落ち着け。
イルムットとお嬢様は結婚したんだろう?
いくらあいつが腹黒陰険二重人格、呼吸するようにセクハラ(お嬢様限定)する変態にして、お嬢様と結婚する為に前国王や腐敗貴族を退位に追い込んだ鬼畜だとしても結婚相手なんだ。
私が雄ならネトル!
いや、まて私。
私が興奮してどうする。
これから興奮したりハッスルしたり致すのは、イルムットとお嬢様だ。
イルムット、お嬢様を泣かせたらユルサナイ。
「はぁ、これでわたくし、イルムット様のお嫁さんなのよね」
お風呂に浸かりながら体を揉みほぐされるわたくしは垂令嬢。違ったわ。これからは垂王妃になるのかしら。
垂れるほどおっぱいは大きくないわ。これから大きくなるかしら?
はぁ、ダメね。全くキレがないわ。
結婚が決まってからずっと悩んでた事がある。
小さい頃は余り意識しなかった事。
王妃教育で初めて知った事。
初めて王妃になることが怖くなった事。
セーラになら打ち明けて良いかな?
いつも守ってくれたセーラ。
ありがとう。いつも感謝してる。
こんな事相談されて迷惑だよね?
でも、貴女しか私には相談出来る人がいないの。
ゴメン、ゴメンね。
姉代わりの貴女に甘えてしまうわたくしを許して。
でも助けて。お願い。
「ねぇ、セーラ。入浴が終わったら、寝室で陛下が来るまでお話しましょう?」
「お嬢さ、妃殿下、私達侍女は寝室には夜間入室禁止ですが」
「今日だけ。お願い」
「妃殿下・・・・・・アマンダさんに言い訳お願いしますよ?」
「ありがとう、セーラ。これでも王妃教育で交渉術は必須科目よ。わたくしのオネダリは同姓にも通用するわ」
「妃殿下、それは間違った使い方かと」
「わかってるわ。アマンダには今回だけよ」
「それがよろしいかと」
初夜の為にセッティングされた寝室。
小さなテーブルセットの上には蒸留酒と二つのグラス。
対面にアリエッタ様。
って、アリエッタ様、普通にグラスにお酒注いだ?!
「ア、アリエッタ様、お話があると伺いましたが?」
「そうなの。でも、まだ陛下はいらっしゃらないでしょう?少しだけ。ね?」
くっ、あざとい!
「はい、セーラの分」
「アリエッタ様、それ、王族専用に用意された物でしょう?さすがに」
「いいのー。わたくしも飲むんだから」
「はぁ、妃殿下になられましたのに」
「もぅっ!今は二人だけなんだから、前の口調に戻してー」
あーっもぅっ
「はいはい。で、話あるんじゃないの?」
アリエッタ様にんまり。
「その前にコレ。一緒に飲も?」
「じゃ、いただきます」
「ではでは、わたくしアリエッタの結婚にかんぱーい」
「貴女の結婚生活に乾杯」
カチン
うわ。凄いコレ。
結構強いアルコールだけど甘い香りが口の中に広がる。
でも飲み込んだ後はスッキリしてる。
これ、ヤバいくらい高いヤツじゃない?
騎士団の連中と行く飲み屋じゃ絶対飲めないヤツ。
ついつい一杯目を飲みきってしまったわ。
「あ、グラス空いちゃったねー。次注ぐね」
「ありがとうございます。スッゴク美味しいお酒ですね」
「でしょう?特別なのよ」
ほー。道理で美味しい。
注いでもらったグラスを受け取り、序でにお酒のビンを奪い、アリエッタ様のグラスにも注ぐ。
琥珀色の液体がグラスを満たし、中の氷がキレイな音を響かせる。
「それでは話をお聞きしましょうか?」
「うん、あのね」
飲みながら聞いた私は鼻からお酒を吹き出す羽目になった。
舞踏会の後片付けで思いの外時間がかかった。
新婚よ?待ちに待った初夜よ?
マジで空気読め宰相?
「お耳に入れたい事が」
とか言って耳元囁くな!
耳に吐息を吹くな!
ビクンてしたじゃないか?!
話の途中で宰相殴った余は悪くない。
宰相、何故嬉しそうな顔で殴られた所を触っておるのだ。
「陛下、本日最後の報告です。陛下寝室の準備は万端ですぞ」
宰相、何故ソナタが準備の事を知っておる?
あ、ソナタが色々命じて準備してたのね?
よくやった。誉めてつかわす。
まぁ、良い。
後は明日だ。
ざっと入浴し、着替え、寝室へ向かう。
「・・エッ・・・!・・たし・・・・られま・・・・・・・たすけ・・」
「セー・・・こんなに・・・・・・はしたな・・・・」
「アリエ・・・!もう・・・・・・」
エッ?
ナニコレ?
またまた。
どうせ耳掻きしてたとかでしょ?
いや、まて?
一応?ここ国王夫妻専用の寝室よね?
これ、余、中に入って良いよね?
こっそり中に入る。
うん。予想通りと言えば、悪い予想通り。
ベッドで絡み合うメイドと余の妃。
どうしてこうなった?!
ふとセーラと目があった。
【助けて】
【どうしてそうなった?】
【良いから助けろ】
【お前ならアリエッタを離せるだろ?雌ゴリラ】
【腰が砕けて力が出ない】
【マジでっ?!】
一瞬の視線を交わしただけでコレだけの情報をやり取り出来るのはさすが余の幼なじみ。
「こほん、えほん」
とりあえず、注目を集めてみる。
「あー、イルムきたー」
「あー、アリエッタ、何してる?」
「んーっ、?あれ?セーラいじめ?」
「いや、あのな?」
「イルムがわるいんだもんっ!」
ワケわからん。
泣くアリエッタをあやしながら、
「セーラ、説明」
「イル、ムットさ、ま、すみ、ません。くすり、を、うっん、もられ、ました」
「なんだと?!」
「アリエ、ッタさ、まに」
「なんだってーっ?!」
潤む目のセーラに話を聞くと。
もともとの原因は王妃教育で前王妃から伝授された房中術だったらしい。
そこで見せられた張り型が大きく、恐怖をもってしまったと。
しかも、
「息子の暴れん棒はもっと大きいわよ。大変ね。フフフ」
等と宣って下さったそうで。
何してくれたバカ母?!
誰にも言えず(言えるわけがない)、悩みに悩んで(そりゃ悩むわ)、姉同然のセーラと一緒なら平気かも(どうしてそうなった)と今回の犯行を計画したと。
初夜の寝室にセットされた備品、酒は元より、香枦、香水、アロマキャンドルにまでそんな感じの薬が混入されているらしい(王妃教育調べ)。
余、知らなかったんだが?
「へい、か、アリエッ、タさま、を、早く、襲いな、さい」
コイツ何いってんの?
「その後、余、裕があっん、たら、で、いい、からぁ、わ、た、しもぉ、襲え?」
だからコイツ何いってんの?
「アリ、エッ、タさ、まに、ごむ、りさせら、れない。む、りさせた、いなら、わたしが、受け止め、るぅ!それ、に」
涙でびしょびしょ。学院時代の黒騎士はどこ行った?
「もし、抱かれ、るなら、お前が、いい!国、王じゃ、なく、イルムット。幼な、じみ、のお前が良いっ!」
涙で目が潤んでいても、学院時代から変わらない挑む目付きでの告白。
それに俺は
窓の外は夜の城下町。国王の結婚祝いで振舞い酒が、王都のみだが配られ、遅い時間になってもあちこちで篝火がまたたいている。
☆☆☆☆☆再現劇(以下演劇と同じ展開の為省く)☆☆☆☆☆
これがあの運命の初夜に起きた一部始終。
演劇では父上が薬を使ったってなってたよね?
残念。犯人は母上で父上とセーラ様は被害者だったんだ。
しかも、セーラ様とは、その夜限りのつもりが、まさか妃二人共に子供出来ちゃうなんてね。
凄いよ父上。天然策士と殴りデレを同時になんて。
しかも、出産も同室ほぼ同時。
お陰で継承権がー王権がーって貴族たちに騒がれて、すったもんだした挙げ句、セーラ様、父上に切れて、
「継承権なんぞいらんし、王族の権力もいらん!」
て事でセーラ様、セラス姉上を騎士にするって騎士団に入れて英才教育してるのよ。
うん。今代の黒騎士。
次期騎士団長筆頭。
そうそう、セラス姉上の恋愛話、聞きたいかい?
そうかい、なら、王妃教育頑張って母上に認めてもらって。
そしたら教えてあげる。
数十年後、きっと喜劇になるこの話を。
お読み下さり、ありがとうございました。