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第4話 神代秘話

今回は昔話となります。

元々短めな話を想定していましたので折り返しくらいですね。

お付き合いいただけると嬉しいです。


 ◆  ◆  ◆



 僕は、月が憎くて憎くて仕方がなかった。


 月を怨めと言われて育った、月を飲み込めと言われて育った。

 月の神…マーニを殺せと言われて育った。


 僕はそれだけを言われて育ち、それを成せば父さんが褒めてくれると思って頑張って月を追いかけた。月を追いかければマーニもそこに居るらしい。


 しかしいくら追いかけても月には追い付かなかった。

 僕は、月が憎くて憎くて仕方がなかった。




 あれはいつの事だったろうか、僕は足を傷めて追いかける事が出来なくなった。

 何で足を傷めたんだったか、確か僕を殺そうとしてた人達を返り討ちにした時だった気がする。でも、そんなことよりも月が離れて行く事の方が悔しかった。



 思うように走れず、月はどんどん遠ざかる。

 それでも必死に走るが、月はどんどん遠ざかる。


 月が見えなくなった後、不思議な事が起こった。


 空が…明るくなってきた。


 景色に溶け込んでいた僕の真っ黒な体は、眩しい光に包まれて逆によく目立つ。


 それでも、僕は走り続けた。…でも、目標にしていた月が見えない、僕はどこに走っていけば良いのだろうか。

 もう、疲れてしまった。体力はまだまだあるのに、何だか疲れてしまった。


 お腹が空いた、そう思った時に一頭の馬を見付けた、木にロープで繋がれている。

 逃げれない馬などいくら早くてもただの肉だ、思わぬご馳走にありつけた。

 肉を平らげたら喉が渇いてしまった、近くの川で水を飲む。



「きゃあ!」


 叫び声がして隣を見る、どうやら川に先客が居た様だ。

 綺麗な山吹色の髪をした…人間?人間にしては存在力が濃い、神かもしれない。

 でも僕にはそんなことどうでも良かった。たとえ神だとしてもマーニじゃないなら関係無い。水を飲むのを止める理由にはならなかった。


「私を…襲わないの?」


 襲って欲しいなら襲うけど、別にお腹は空いていない。

 第一美味しそうに見えない、羊の方が何倍も美味しいだろう。


「綺麗な黒色の毛並み…まるで夜の闇みたい。私が見る事の出来ない色…」


 おまえの事なんてどうでも良いと言っているだろう。

 構わないで欲しい、睨み付けて軽く威嚇してみた。あっちへ行け。


「ひゃああい!…あ、ああ…腰…抜けた、…立てない」


 なんだこいつは、胆が座ってるかと思ったら、少し脅しただけで涙目になってるじゃないか。もう良い、僕が立ち去れば良いだけだ。


 ……立ち去れば…良いだけなのだが、動けないと言っている奴をここに置いて行ったら野生の獣にすら殺されかねない。

 僕が殺せと言われているのは月の神だけだ、それ以外を殺せとは言われていない。

 見捨てたら僕が殺した事になるのだろうか。

 標的以外を殺して…父さんは褒めてくれるのだろうか。


 それに、もしかしたらさっきの馬、あいつのか?

 ………めんどうくさい。



「ひゃあ!さっきの狼さん!?え?え?やっぱり私を食べに来たの!?」


 僕はその女の前で座り込む、腰が抜けてても僕の背中によじ登るくらいは出来るだろう、軽く首を振って乗るように指示する。


「乗れ…って?」


 軽く頷く、こちらとしては早くして欲しい。


「ありが…とう」



 ◆  ◆  ◆



 それからしばらくの時が経った、それなのに僕は未だに彼女、ソールと名乗る神を乗せている。月が見えないのだから、月が見える場所に辿り着くまでは別に良いだろう。

 僕は彼女が指示する方向へと走り続けていた。

 空は常に明るく、ソールと出会ってからは月が見える事は無かった。

 明るい空と同じで、ソールはいつもぽかぽかと暖かかった。


 道中に町を見つけてはソールは満面の笑みでお菓子を買ってきた。

 僕はいつも町の外でお留守番をしていたが、帰ってきた時のソールの笑顔を見ると僕まで嬉しくなってしまった。


「もう、そんなに尻尾振って、君もクッキー欲しかったの?」


 いや、そんな甘いのいらないよ。それより、尻尾なんて振っていたのか、気を付けよう。


「よしよし、待っててくれてありがとね。君にはお肉買ってきてあげたからね」


 ソールの小さな手のひらが僕の頭を撫でてくれる。

 どうしよう…尻尾が止まらない。



 ◆  ◆  ◆



 そしてまたしばらくの時が経った。


 やはり僕の真っ黒な体はこの光の中では目立つのだろう。

 またもや僕を殺そうとする人達に出会した。

 もちろんそんなの返り討ちにしてやったが、また怪我を負ってしまった。


 今度は前よりは酷く無い、少しペースは落ちるが走るのに支障は無いだろう。



 ……そう思っていた。



「ねぇ、痛いんでしょ?少しだけ休みましょ?」


 僕は…何でこの提案を受け入れてしまったのだろうか。

 あんな事になるのなら、手足が契れても走り続けたというのに。



 足を止め、彼女を降ろした時だった。

 僕とソールの間に白銀色の何かが走り抜けた。


 僕はそいつを知っている。その白銀色の狼を知っている。

 太陽の神を殺せと言われて育った、双子の兄スコル。


 スコルの口には…真っ赤に染まったソールが咥えられていた。


 あんなに明るかった空が、空で輝いていた太陽が、黒く染まっていく。

 僕の見慣れた色になっていく。



 ……あ…ああああああああ!!


「グ、グルルルゥ、ウオォオォォォォォ!!!」



 気が付いたら、僕は双子の兄を自分の手で引き裂いて殺していた。



ハティって響きが可愛いですよね。

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