第2話
多少グロテスクな要素が入ります。
グロテスクな表現が苦手な方はお控えを。
また本格的なストーリーは三話目から始まるのでご了承ください。
昨日はまったく眠ることができなかった。
無論 ''どうか私を殺してはくれないか''という言葉のせいである。
殺すってどういうことだ、と聞いても何も答えず彼女が立ち去ってしまったので、その真意はわからずじまいだ。
おかげで今日はとても眠い。今もこうやって机の上に突っ伏している。さらに太陽の日が心地よく当たり余計に眠気を誘ってくる。
いっそ保健室でベットに寝っ転がって本格的に寝てやろうか、となどとも考えてしまうほどだ。
そうやって机に突っ伏しているとアニメやマンガだったら頭を叩き、眠りの邪魔をしてくる誰かがいるわけで。
「そんなに眠いなら保健室で寝たら?シュウ。」
頭こそ叩いてこなかったものの、真正面に陣取りやや大声でしゃべりかけてくるやつはいた。
こいつは守屋 傑。中学の同級だ。
「次の時間なんだっけ?」「現国。」「教担は?」「白髭。」
どうやら次の時間はじいちゃん先生なので寝ていてもバレなさそうだ。
「傑ノート取っててくれないか?」「えらく眠そうだもんね。いいよ、取っとく。」持つべきものは友達だと思う。
友達の恩恵にさずかり、仮眠を取ることにするが、結果的にこの後眠気はすっ飛んでしまった。
眠ろうと首を窓の方に向けた時、ある物が視界に映ってしまったからである。
校門付近の横断歩道にたたずみ、所在なげにこちらを見る彼女の姿が。
彼女がいることに少々驚き、そちらを見ていると、彼女もこちらが見ていることに気づいたようだ。
遠くからでわかりにくかったが、彼女はうっすらと笑いを浮かべているように見えた。
そして微笑を浮かべた顔のまま、彼女は赤信号の横断歩道へと足をすすめる。
甲高いブレーキ音、誰かの悲鳴。
窓ガラス越しの校舎からでも聞こえるほど大きく鳴り響いたそれらは彼女の存在を、彼女が死んでいることさえも知らしめた。
その後学校は無論大騒ぎになった。何しろすぐ目の前で人が死んだのである。
まず体育館に集められ、前の道路を通らぬよう知らせを受け、速やかに下校となった。
また、事故の瞬間を見た生徒はカウンセリングを受けることになった。
僕は事故を見たもののカウンセリングを受けずに帰った。
自分の精神に異常がないからではない。むしろ普通の異常と比べても、さらに異常な精神だったと思う。
一昨日から昨日にかけての事のせいで、少しおかしくなっていたのかもしれない。
鮮血が舞い、死にゆく彼女の顔を見て、ほんの少し、ほんの少しだと思いたいが、恋の感情が深まったような気がした。
帰り自宅を整え、急いであの場所へ向かう。
二日連続で不思議なことが起こったあの場所へ。
一縷の望みをかけて向かったあの場所に、昨日と同じように、彼女はいた。
「どういう事なのかな?君はあの時確かに・・・。」
「そう、私は死んだよ。確かにね。」
普通ではありえない言葉を紡いだ彼女は、見た限り怪我ひとつない。今日の事が夢だった方が現実味があるほどに。
「私は死んでもここで生き返る。どこでどんな風に死んでも。」
暗記している小説の一節を口ずさむ様に彼女は語る。そしてしっかりと僕を見つめる。深い穴のような暗さを持った両目で。
「愛し合う人に殺されぬ以外は。」
もう彼女の言わんとするところはだいたいわかっている。しかし僕は喋ることも動くこともできない。
私の名前は古崎 美夜。そういって彼女、もとい美夜は続ける。
「君にはメリットどころか負担しかかけないが改めて頼む。嫌なら引き受けてくれなくても大丈夫だ。」美夜は少し寂しげな笑みで告げる。
卑怯だと思う。仮にも恋をしている相手に、そんな顔で告げられたら断るわけにはいかないじゃないか。
「私を殺してはくれないだろうか?」
美夜は手をこちらに差し出す。
僕はなけなしの心で決心した。
彼女の願いを叶えてみせると。
掠れた声で了承の意を伝え、手を握る。
僕は彼女の願いを叶える。
それが彼女を殺すという苦難しかない願いだとしても。




