第1話
梅雨を抜け、ジメジメとした空気も勢力を衰えさせてきた中、雫の滴る木の下に君はいた。
たった四畳ほどのスペース、僕のお気に入りの場所、そこにゆれている君を見た瞬間どうやら僕は一目惚れとやらをしたらしい。
肝心の君はもう息をしていなかったというのに。
退屈していた。変わったことを求めていた。
ある日突然超能力に目覚める。自分の血すじが偉人と繋がっている。パンをくわえて急いでいると運命の人とぶつかる。などという妄想をしたことは誰にだってあるだろう。
例に漏れず僕もそんな妄想をした1人で、しかも僕は妄想するだけに飽き足らず実際に行動をした大馬鹿者だった。
パンをくわえて走っていたらなぜか警官に注意されたのは今じゃいい笑いの種。
結局僕は一介の人間で平凡な人生を過ごすのだろう。
そう思っていた。
朝起きても、学校に登校しても、下校しても、昨日のことを忘れられない。
あの一目惚れを、あの場所で死んでいた彼女のことを。
通っている高校から直線距離で3キロを全力疾走して急いであの場所に向かう。
『鶴見丘西公園』。
公園の中の池を半周して、木々のあいだを抜けた所。ポッカリと穴が空いたように開けた場所に、君は昨日のようにいた。
ただ1つ、昨日首にかけられていたロープを手に握りしめ、芝生の上に腰を下ろしていたことは違ったが。
僕は彼女に一歩一歩近づいていく。無論恐怖心はある。彼女は昨日死んでいたわけなのだから。
彼女との距離が3メートルほどになったその瞬間彼女の両目がこちらの姿を捉えた。
「失礼を承知で聞くけど君は誰だい?」
僕の声は届いているはずだが彼女は答えない。
「・・・僕の顔になにか付いているのかな?」
軽くジョークを交えても彼女は真顔で僕の顔を見つめ続けている。なんか傷つくし少し照れるな。
向かい合って1分ほど経過し、沈黙に耐えられなくなった僕は少し目を逸らし小さくため息をつく。
「昨日も君、来てたよね。」
本当に小さな呟きだったが確かに聞こえた。
「あぁ、来てたよ。」
じゃあ見たんだね、と小さく呟き返す彼女。その口元は心なしか少し嗤っているようにみえた。
「私の死体。」
やっぱり彼女は死んでいたのだ。昨日のこの場所で。見間違いなどではなかったのだ。
「見たよ。やっぱり死んでいたんだね。」
僕の答えを満足そうに聞き、さらに彼女は呟く。
「私の言葉を信じるんだね。死んでいた、なんて普通信じられないだろう?」そうか、その可能性もあったのか。浮かれていて気が付かなかったな。
「まぁ信じるも信じないも事実だから別にどうでもいいんだけどね。昨日の私を見て今日の私と普通に話のできる君を見込んで頼みがあるのだが。」
芝生から立ち上がり彼女が1歩ずつ近づいてくる。今見てわかったが相当スタイルがいい。黒髪の長髪によく映えている。
手を伸ばせば触れられる距離。その距離で彼女はこう続けた。
「どうか私を殺してはくれないか。」




