接触3
「もう、しっかりしてくれ」
ふわふわと宙に浮く少女はそう自分が助け出した幽霊に言った。長く自身の霊気に漂う黒い髪が印象的だ。彼女は、武尊の斬撃を曲げ、別の階へと幽霊を移動させた。
―ご主人様がすごいから、私だってこれくらい平気なのです。
などと内心胸を張っているとは幽霊は露にも思わない。
「・・・・・ありがとう」
それに少女はため息をついた。
「あいつらには気を付けてって言ったはずだが?」
「でも、ほかの人間よりちゃんと傷が治りそうだと思って」
「それは能力者だからな」
仕方ないかーと少女はため息をつく。自分だって、言いつけを破ってここにいるのだ。そして、絶対ばれている。でも、動かずにいられない。なぜって―
「あいつらのことは大嫌いだから、お前が喰ってくれれば私も大助かりではあるがな」
少女は頭を掻きながらまたため息をつく。
「食べてもいいの?!」
醜くひきつった顔は、それでも喜色を明らかに浮かべた。それに、黒い少女は笑った。
「ああ、きっとその傷もきれいに治るだろう。すぐ分かるはずだ。今日襲った女と一緒にいるからな」
ふふんと笑う。特別な食い物がこの学校にはあるのだ。妖なら食べてみたいと思わずにはいられない者が。にぃっと少女は笑った。
「お前が欲しいと言うなら、協力してやるよ」
※
「まったく、いけない子だ」
次は無いと言われたのに
部屋の壁に映像を映しながら男はそう笑んだ。壁に見たい場所を映すことなどこの男にとっては造作もないことだ。
「私は幽霊が悪さをしすぎないよう見張りなさいと言ったのに」
やれやれと男は首を横に振る。
「それどころか、関わると引きずり込まれてしまうというのに」
はあ、とわざとらしくため息をつく。
「でも、まあ」
再び顔に浮かぶのは笑み。
「これくらい、対処できなければ生き残ることなどできないか」
これも良い練習だ。
男は、この件については放置することに決めた。