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 収束と始まり4

「皆様、お気づきのようにあの兄弟が校内に入れた妖が跋扈ばっこしています」

「はい」

「そうね」

「そうか?」

「兄ちゃん!!」


樹がしっかりしてくれと叫ぶ。


「もうね、たぶん普通の子なのにお化け見たって子も出てるんだよ」


鏡映った自分が勝手に笑うとか!


「こっちも誰もいないところで服やら足やら引っ張られたって騒ぎが起きてるわよ」


あなたのところは何もないの?と壱華が啓太を見上げる。瞳に問われて啓太はうーんと考え込む。


「・・・・見かける妖は増えたかな」

「―ひとまずそれでOKにしとくわ」

「壱華甘いよ!」

「害が出てるのは分かった!」


任しとけとでも言うように勢いよく啓太は頷いた。その調子のよさに樹は頭痛がするようだった。


「それで、それについて話したいんだけど、武尊はどこ?」


そういぶかしげに樹が問いかけるのはウサギのぬいぐるみ、あおだ。碧はテーブルの上に座ったまま片手を振って説明した。


「なんか、クラスメイトに捕まったから代わりに行っとけって」

「・・・・すごい使い魔感あるね」

「そう!俺、武尊の使い魔だから!!」


嬉しそうに碧は両手を振った。その様は愛らしいが、中身はよく分からない。油断ならないと千穂以外が思っている。


「優実ちゃんのお友達が幽霊に会ったんだって。だから、その子と一緒に見てくるって言ってた」


千穂が説明を補強する。


 優実が沙也加から話を聞いた際に霊感のある友人がいると話してしまったらしく、武尊は二人と幽霊調査に向かう羽目になってしまった。


「大丈夫かな。武尊は強いけど、知識面はまだまだでしょう?」

「そこは私も心配なんだけど」


千穂もうーんと樹と一緒に首を傾ける。そこに碧の声が突き刺さる。


「大丈夫!武尊はすごいから!!」

「本当、碧は武尊が好きだよね」


信用やばい。と樹は呆れた顔をする。


「そうだよ!俺、武尊の事超好き!強くてきれい!」


碧は女子生徒のように両手で頬を抑えた。


「俺、結構人間見てきたつもりあるけど、あんなに強くてきれいな人間は初めて見た。だから俺、武尊のこと超好き」

「そっか」


これだけ武尊に心酔していれば千穂に害をなすことはないだろうと樹は判断する。



「ねーねー、俺思うことあるんだけど、いい?」


碧は突然話を切り替えた。


「なに?」


樹が促す。


「あのね、いたずらはほどほどにさせて、何か怪しいやつが入ってきてたり、動きがあったら教えてもらうようにしようよ。その代わりに、俺たちは弱い妖を守るの」

「じゃあ、生かすってこと?」

「うん、全部が全部悪い奴じゃないし、全部消すのも大変でしょう?だったら味方になってもらおうよ」

「そんなことできるの?」


樹が至極もっともな質問をする。


「できるよ。こっちには武尊がいるし、妖って弱肉強食だから!武尊が強いからみんな下につくしかないよ。弱い妖にとってはいい盾になるしね」


あっちにとってもいい話だと思うよ。俺、話通して来ようか?と碧は申し出る。


「うーん。どう思う?」

「俺はいいと思うぜ。妖ってふわふわしてて俺たちとは全然違う視点で生きてるんだろう?便利そうじゃん」

「千穂に害をなさないようきっちり約束させられるならありだと思うわ」


実際便利そうだし。と壱華も啓太同様おおむね賛成のようだ。


「これからのことを考えると、自分たちの情報網を持ってたほうがいいよな」


啓太がうんうんと頷く。


「村の奴らはあんまり役に立たないことが分かった」

「先生は連絡取れなかったしね」


樹もあの時は大変だったと頭に手を置いた。


「じゃあ決まり?決まり?」


碧がそわそわと体をゆすりながら答えを待つ。


「じゃあ、碧の案を採用ということで!」


ダメだったらすぐ言うんだよ!と樹は釘を刺すことも忘れない。


「OK!」


じゃあ、ちょっくら行ってくる!と碧はぴょんと部屋を飛び出していった。それと入れ違いざまに武尊が部屋のチャイムを鳴らした。中に入ってきた武尊は疲れたと伸びをしながら問うた。


「あいつ役に立った?てか、どこ行ったの?」

「超役に立ったよ」


樹が説明する。


 最近妖が校内を跋扈していること。いたずらをやりすぎないこと、千穂には手を出さないこと、何か異変があったら教えること、その代償に自分たちは彼らを守ること。碧が交渉に出かけたこと。


「仲間ねー」


武尊は目を細めて言葉をかみしめるように呟いた。


「それで、武尊のほうはどうだった?」


千穂が問いかける。当然のように千穂の隣に座っていた武尊はそちらに顔を向ける。


「空振り。何もいなかった」


首を横に振る。


「気配みたいなのは感じた。いい感じはしなかった。剣も少し反応したし、千穂にも影響が出るかもしれない」

「そ・・・・か」


影響が出るかもしれないと言われ、千穂は無理やり笑った。その頭をくしゃりと武尊は撫でた。


「大丈夫。守るから」

「うん!」


千穂は薄く涙をにじませながら頷いた。


「それで、その良くなさそうな奴はどうするの?」


壱華が足を組み替えながら問いかける。


「その悪い奴は優実が言ってた幽霊なのかどうかまず分からない。そこからはっきりさせないと」

「そんな時の情報源だな。碧、速く話通してくれないかな」


啓太が腕を組む。


「・・・・まあ、任せてればいいでしょう」


武尊はそう言うと、自分の話をし始めた。


「幽霊騒ぎの話は聞いた?」

「聞いた聞いた」


うんうんと啓太が頷く。樹と壱華も頷いた。


「あれで調理室のほう見てきたんだけど、何も出なかった」

「ただの噂なのかしら」

「被害にあったっていう本人に会ったけど、本当ぽかったよ。で、なんか、違和感ていうか、嫌な感じがして」

「嫌な感じ?」


千穂は不安げに武尊の顔を覗き込んだ。


「うん。俺にはね。だから、誰かに本当にその感覚が合ってるのか見てほしくて」


こういうの得意なのって誰?そう問われれば視線は千穂に集まる。


「そりゃ、私は嫌な奴には敏感だけど」

「さすがに千穂を引っ張り出すのは良くないよね」


樹がうーんと唸って出した答えは


「壱華は?俺、見えるものを倒すように神獣に命令してるだけだし、細かい気配の感知も任せてるし。兄ちゃんは戦ってるだけだし」

「おい。戦うのは重要だろう」

「今は使えないから」


樹はざっくりと啓太を切った。


「まあ、追おうと思えばできなくもないと思うわよ」

「うまくいけばそのまま浄化しちゃうってのもありだし」

「じゃあ、壱華は明日俺と放課後学校探索して」

「いいわよ。もう囮になってみましょうか」


どういう条件で幽霊が人を選んでいるのか知らないけど。


「それもありだね」

「大丈夫?」

「大丈夫よ。いざとなったらさっさと結界張って逃げてきちゃうから」


壱華は不安げにする千穂に笑って見せた。


「ひとまず武尊と壱華は幽霊について調査するということで。俺たちは千穂と一緒に留守番してよう」

「了解」


啓太が頷く。こうして方針は決まった。



「本当よ!本当にいたんだから!」


沙也加は叫んだ。優実が連れてきた少年はどこか冷たい雰囲気を持っていて、調理室の中を歩き回っていた。


『なにもいないね』


彼のその言葉に対する沙也加の反応がそれだった。


「ああ、言い方が悪かったね」


二階堂武尊と名乗った少年は視線を沙也加に向けた。きれいな顔立ちに少しどきりとしてしまう。


「今は何もいないね」

「じゃあ、やっぱり昨日は何かいたの?」


優実が問いかける。それに武尊は考え込んだ。


「昨日かどうかまでは分からないけど、ちょっと強めの気配がするからそいつかなぁ」


うーんと考え込む。


「ちゃんと調べてみないと分からないかな」

「ちゃんと調べるって?」

「俺だけじゃちょっと判断付かないかな」

「あれ?霊感仲間がいるの?」


優実がそう言えば、武尊は妖しく笑った。


「秘密」


どこか妖艶でさえあるその笑顔に、二人の少女はしばし固まる。


「でも、放課後はあまり一人で動き回らないほうがいいかも。あんた一度狙われてるし、狙われやすい体質なのかもしれないし」

「ちょっと怖いこと言わないでよ」


沙也加は両腕で自分を抱きしめた。


「ごめん。でも、気を付けて」


真剣なまなざしに、沙也加はごくりとつばを飲み込んだ。


「分かったわ」

「しばらくは私と一緒に帰ろう。迎えに行くよ」

「ありがとう」


優実の申し出に、沙也加はほっと微笑んだ。


「今日できるのはここまでかな」


武尊はそう言うと鞄を手に調理室から出ていく。二人はその背を追った。


―あとは三人に投げよう


武尊がそう考えているなど、当の三人は知る由もなかったし、武尊も自分がずるずると幽霊調査係になるなど思ってもいなかった。


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