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 収束と始まり3

 武尊もまた苛立っていた。時間は昼休み。クラスの男子に食堂へと連行された。その視界では千穂に向かって掃除棚を倒したような小鬼がちょろちょろしていたり、ふわふわと白いものが漂っていたり、生首だけ転がっていたりと大変騒がしい。


「それで、なんで高野原のこと呼び捨てにするんだよ」

「ああ~」


めんどくさい質問だなと半端な声を長く息を吐き出しながら上げる。


「なんか、高野原の知人の従弟らしいよ」

「親戚筋かよ!」

「高野原の知人のね」

「ここで千穂って呼ばないのが腹立つ!」


大島がダン!とテーブルをたたいて叫ぶ。


―こいつ万年彼女欲しいって言ってるもんな


少しげんなりしながら大島を見つめる。


「てか、そもそも千穂狙ってるの?」

「可愛いなぁとは思ってる」

「本人に言ってやれば?喜ぶから」


―ああ、でも可愛いより綺麗って褒めたほうが喜びそうだな。


小柄なことを気にしている千穂を思い出して武尊はそんなことを考える。


「でも、飯島さんもいい!!」

「お前、絶対彼女できないタイプだろ」

「言うな!」


大島はふてくされてテーブルに突っ伏してしまう。


「だって、あの二人系統が全然違うじゃん!どっちがいいかなんて決められるわけがない!!」

「俺は壱華のほうがタイプだけどね」

「じゃあ、高野原から手ぇひけよ」

「手、つけてないから」


そもそも、と武尊は付け足す。


「しかも、壱華だってタイプってだけで好きなわけでもないし」


デザートに買っておいたカップアイスを開けながらまた付け足す。


「二階堂って、案外甘党だよね」

「親がカレーを甘口から辛口に移行する機会を逃した」

「辛いカレーだめなの?」

「食べられるけど好きじゃない」


全く違う話を振ってきたのは佐々木だ。そして武尊は律儀に質問に答える。一瞬空気が平和になる。


「だから!なんでそもそも呼び捨てにされて呼び捨てにしてるんだよ!」


まだ終わってないからな!と大島がうるさい。


「千穂たちの村にいる知人の親戚だったから、仲間認定されたんだよ」


大島に対して武尊の声は静かだった。


「村の関係者として認定されたってことかな」

「そういうこと」


佐々木が言い直して確認を取る。


「じゃあ、別に付き合い始めてとかじゃないんだ」

「全然違う」

「よかったね」


ずっとそわそわとしていた男子たちに佐々木が珍しく微笑んでそう言った。


「好きならさっさと行けばいいんだよ。競争率高いのは分かってるはずなんだから」


佐々木も棒付きのアイスを開封して食べ始める。


「ちょっと開けるの遅かったな」


少し溶けちゃった、と佐々木はマイペースに呟いた。


「彼女が欲しいーーーーーーーーー!!!!」


大島が叫んだから、武尊はその後頭部を叩いてやった。



―多いなぁ


千穂はひやひやしながら昼食をとっていた。双子がいなくなったからか、校内に入れられた妖たちが姿を見せるようになったのだ。それらは弱すぎて千穂に何かできるわけではない。しかし


―怖いなぁ


頼りの武尊は学食だし、と千穂の気持ちは沈鬱だ。


「どしたのー?千穂」


つんつんと優実が頬を突っついてくる。それにハッと顔を上げて千穂は笑った。


「何でもないよ」

「本当?」

「本当だよー」

「優実は何かないの?」


なかなか引き下がらない優実にあかりが話題を振ってくれた。その言葉に、優実は顔を曇らせた。


「それがさ」

「なぁに?」


その珍しい表情に二人とも軽く身を乗り出す。


「私と同室の子、赤尾沙也加あかおさやかって言うんだけど、沙也加がお化けを見たって言ってて」


びくりと千穂は肩を揺らしてしまった。


―害が出てしまった。


「千穂、そんなに怖がらなくても」

「怖いよー」


どうやら優実は千穂が怖がっていると勘違いしてくれたらしい。ありがたくそれに乗っておくことにする。


「それで、どんなお化けなの?」


あかりが話の軌道を元に戻す。


「それが、火事で死んじゃった幽霊らしくて、肌が焼けちゃったからきれいな肌を頂戴って言ってくるらしいよ」

「怖いー」


絶対狙ってくるタイプだ。と千穂は思った。肌の修復を目的に、きっと自分を狙ってくる。千穂は直感的にそう思った。


「私も、そういう話聞いたわよ」


言おうと思ってたんだけど、と足してあかりは話し始めた。


「夜中に、鏡に映った自分を見ると、自分は笑ってないのに鏡に映った自分が笑ってたんですって」

「怖いー!」


これは小さな妖のいたずらっぽいなと千穂は冷静に判断している。放課後、みんなに伝えなくては。


「千穂は怖がりだなー」


優実はアハハと笑った。


「でもさ、私霊感とかないじゃん?だから武尊に聞いてみようと思ったんだけど」

「連行されちゃったわね」

「なんで?」


そういえば、いつもは大島と佐々木の三人で学食に行くのならば行くのにほかにも男子が付いて行っていた。


「千穂!」


優実ががっと肩を掴んできた。


「もっと自覚を持とう!」

「え?なに?」

「みんな気にしてるんだよ!?どういう経緯で武尊、千穂って呼び捨てしあうようになったのかって!!」

「なんでそんなこと気にするの?!」

「仲良くなった証拠だからだよ!!」


千穂はその言葉にぱちぱちと瞬きをした。


「別に仲良くなったわけじゃないよ。村の知り合いの従弟だって分かっただけだよ」

「なにそれ、世間狭い!」


うそ~と優実は驚きを露わにする。


「狭いわね~」


あかりもほわほわと笑う。


「もう突然呼び捨てになったからみんな付き合い始めたのかと思ってるよ」

「そんなことないよ!!」


だって、武尊意地悪だし。と千穂はむくれる。


「今日だって、予習見せてもらうの大変だった」

「予習を見せてもらう前提がまずおかしいけどね」


あははと優実が笑う。


「あの机の上滑ってったのは面白かったな~」

「もう!それは忘れて!!」


千穂はいやいやと顔を両手で隠して首を横に振った。


「いや、私はしばらく引きずって見せるね!」

「だからやめてって」


有言実行で、本当にこの一週間優実はこの机の上滑り事件を引きずってくれた。


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