散々2
「幽霊に狙われたの!?」
命を!?真昼間から!?と叫んだのは樹だ。夜、千穂と壱華の部屋で情報交換が実施された。
「傷を治すのに生き死には関係ないってこと?」
武尊はそう疑問を口にした。
「まあ、千穂は銀の器だし、生き死に関係ないかもね。生きてるのを丸呑みしたほうが力はつきそうだけど」
物騒なことを言うのは碧だ。今日もソファの間にあるローテーブルの上を陣取っている。
「丸呑みは嫌だな~」
「・・・・本当にそう思ってる?」
ほわほわとした言い方に、武尊が呆れたような声を上げる。その言葉に、千穂はうーんと首を傾げた。
「ちょっと怖い感じとか、危ない感じはするんだけど、大丈夫な気もすごくしてて」
「何それ」
武尊は眉をひそめた。
「だって、武尊がどうせ倒しちゃうかなって思っちゃう」
「その他力本願やめて」
はあ、と大きく武尊はため息をついた。
「体育の時言えたらよかったんだけど」
そう壱華は切り出した。
「何を?」
武尊は自分に向かっての発言だと認識し、壱華の方に視線をやる。あのね、と壱華は言った。
「幽霊の仲間がいるみたいで。カラスらしいわよ」
今日、小鬼が教えてくれたの。と付け足す。
「カラス」
その言葉に、武尊はあからさまに反応した。
「カラスって何?」
樹が誰もが思っていることを質問にした。武尊は苦々しげに言った。
「教頭に引っ付いてるカラス。人の形してたけど、明らかにあれはカラスだ」
「あいつ、結構面倒だよね」
「強いしね」
碧もカラスを知っているらしい。そこはさすが武尊の使い魔というところか。武尊の説明に対しては、皆合点がいったらしく、ああと手をたたいた。
「どこかで聞いたと思ってたけど」
「戦いが終わって全員集合した時か」
確かに武尊はあの小さな少女をカラスと呼んだ。
―なんか、仲間外れ感
少しむくれてしまう壱華だった。
「教頭は味方なんだろ?じゃあ、あのカラスも味方なんじゃないのか?」
啓太が首を傾げる。
「そこまでは知らないけど、あいつ、千穂のこと狙ってたよ」
土曜日に買い物に出て、ナンパされてた時があったでしょう?あの時迫ってたのあいつだよ。
「「そうだったの!?」」
千穂と壱華は声を合わせて叫んだ。
「そうだよ。気づいてなかったの?」
特に千穂。と武尊は意外そうな声を上げた。
「全然知らない」
「まあ、千穂に害がないようにある程度は教頭が抑えてるようには見えたけど」
「じゃあ、なんで今幽霊と手を組んでるんだよ」
啓太が湯呑に手を伸ばしながら問う。武尊は肩をすくめた。
「さあ、そこまでは知らないよ。でも、あいつは俺たちのこと好きそうではなかったね」
「俺たち嫌われてるのかー」
悲しいな~と啓太はお茶をすする。
「兄ちゃん、本当に悲しんでる?」
「いや、そんなに仲良くないし、てか覚えてないしでそこまで悲しくはないかな」
「すぐ大げさに言う」
「そう言うなって」
啓太は湯呑をテーブルに置くとガシガシと樹の頭を撫でた。
「もうやめて!」
樹は啓太の手を払う。
「つれないな~」
今度こそ啓太は悲しそうな顔を見せた。
「そんな顔したって駄目」
「小さいときはあんなに兄ちゃん兄ちゃんて付いてきた樹が」
ううううと啓太はしおれて見せる。
「だからやめてって。恥ずかしいから」
「恥ずかしいのか?俺」
「恥ずかしい」
「・・・・・・難しい年ごろだな」
「兄ちゃん・・・・」
兄弟は二人して大きくため息をついたのだった。
「それで、どうして私は命を狙われたの??」
今までと違うパターンに千穂は戸惑う。兄弟は置いておいて千穂はその疑問を口にした。
「いつもなら丸呑みされそうになるんだけどな~」
あと、ちょっとしたいたずら。
「掃除棚とかね」
思い出した千穂は苦々しげに顔をしかめた。
「あれはびっくりした」
「今日のはびっくりしなかったの?」
「今日のもびっくりした!」
「結局驚いてるじゃん」
「武尊は意地悪だ」
「気のせいじゃない?」
「壱華ちゃん~」
千穂は壱華に泣きついた。壱華は苦笑いで受け止めて頭を撫でてやる。そしてすぐに顔を引き締めた。
「とにかく、あいつは千穂に狙いを定めたかもしれない。武尊には注意してもらわないといけないかも」
「分かった。気を付ける」
「なるべく離れないでね!」
千穂は壱華から離れ振り返るとそう言った。
「・・・・・本当、他力本願」
「それが銀の器だから」
武尊のため息になぜかそう答えたのは碧だった。
「ま、頑張ってね!」
碧はぴょんと武尊の肩に飛び乗ると、背中をポンポンと叩いた。
「まあ、やってみるよ」
武尊はそう言ってぬいぐるみの頭を撫でた。