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赤き破壊の魔女と踊れ  作者: 氷魚彰人/慧一
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最終戦⑥*

 アークは視界を奪ったままの外套を剥ぎ取ると、目の前にはトルカとバークが立っていた。

 辺りを見回し、化け物との距離から現在位置が魔術師学校のグランドだと分かった。


「アーク! お前なんで?」

「何だその傷はよ!」


 驚く二人に縋りつくようにアークは質問する。


「……他の皆は無事か?」

「比較的軽傷だったトライルとダートは治療用の術具を取りに行っているし、ジェリドは直ぐそこで休んでるよ」

「あんな爆撃喰らったのに奇跡的に全員生きてるぜ」

「そうか……」


 友人等の無事を知り、胸を撫で下ろす。


「それよかお前の方は大丈夫なのか? つーか、イグルは?」


 問われ、ハッとする。


「イグルはまだ化け物の中だ。ミルフィー先輩や他の術師達も捕まったままなんだ」

「ミルフィー? 何であいつが化け物の中なんかにいるんだよ」

「助けに行かなくては……」


 軋む身体を無視し立ち上がるが、トルカとバークがそれを止める。


「バカ、そんな身体で何が出来るってんだよ」

「行くにしても、まずは治療だろうが」

「私は大丈夫ですから……」

「満身創痍で何言ってんだ。説得力ねーよ!」

「兎に角ジェリドと合流するぞ」


 二人に左右それぞれの腕を掴まれ連行されていくと、化け物の射程圏外に立つ大木に背を預け座っている人影が見えた。


「おーい、ジェリド。生きてるか?」


 バークが呼びかけると、ジェリドは力なく片手を振って答えた。

 また一人友人の安否が確認でき、安堵に胸を撫で下ろしたその時。地響きが足を伝って脳を震わせた。

 異変の原因を手繰るように見れば、遠くに見える化け物が両腕を無数の触手へと変化させ暴れていた。

 目に見えない何かを求めるように宙を掻き、建物を打ち崩さんと殴り付け、地上の木々を掻き分けるように押し退け、術師全てを薙ぎ払うように振るわれた。

 化け物本体から微かに妹の名を呼ぶ声が耳に届いた。きっと突如目の前から消えたアンジュを探しているのだ。

 闇雲に妹を探し暴れ狂う触手を最前線で戦う剣術師達が必死に切り伏せるが、相手は無尽蔵に生え続ける触手だ。まるで追いつかない。

 剣術師の追撃をすり抜けた触手を後方支援の魔術師達が炎の矢で焼き払うが、それすらもすり抜けた何本もの触手が射程圏外にいるアーク達へと迫る。

 アークは甲殻鎧の剣を紡ぐと触手を斬り伏せた。

 二手、三手と襲ってくるが、射程圏外まで伸ばしている所為か触手は最前線で対峙したものに比べ弱い。

 だが、何時まで持ちこたえられるか分からない。


「トルカ。バーク。早く逃げろ!」

「駄目だ」


 否を訴える二人に再度叫ぶ。


「逃げろ!」

「駄目だ。ジェリドが……」

「あいつ、今一人で動ける状態じゃねーんだよ」


 見れば、この緊急事態に立ち上がる事もせずにいた。

 形ばかりの防御壁を紡いではいるが、効力が無いのは遠目からでも分かる。


「ジェリドは私が連れて行く」

「何言ってんだ、そんな身体で!」

「三人で行った方がいいって!」

「剣術師である私が一番早く動ける。傷を負っていてもだ」

「だけど……」

「今の私には三人を守る力は無いんだ」


 暗に足手まといだと言われ、魔術師二人は押し黙った。


「必ずジェリドを連れ帰る。だから……」


 アークの説得に二人は顔を見合わせると渋々頷いた。


「ただ、ヤバかったらお前だけでも逃げろよ」


 バークの言葉に同意せずに微笑み、アークは駆け出した。







 急な動きに折られた肋骨が肺に刺さり苦しかったが、そんな事はどうでも良かった。

 オルソン邸では鎖に繋がれ手が届かなかった。

 ただ目の前で嬲られ続ける友人を見ている事しか出来なかった。


 今は違う。

 鎖に繋がれていない。

 手を伸ばせば届く。

 守れるのだ。

 怪我など痛みなど後でどうとでもなる。

 もう少しだ。

 頼むから間に合ってくれ――。


 祈るように妹を探し彷徨う触手を斬り落として行く。

 四方から迫る触手を身体を旋回させ斬り伏せる。


 あと一歩。

 手が届く。


 ジェリドを刺し貫こうと迫る触手を叩き斬ると、次のを斬り落とす。三手目四手目と斬るが終わりがない。このままでは消耗戦になるとジェリドを担ぐ為に向き直った。


 その時――。

 ドスッと耳障りな音と共に、ジェリドの目が見開かれた。

 赤い飛沫が舞い、アークは必死に手をジェリドへ手を伸ばすが、触れる事が出来ない。


「あっ……あぁぁ…」


 驚愕の色を浮かべた瞳を揺らし、血に染まった顔を引き攣らせたジェリドは唇を振るわせる。


「……ん…で……」


 ジェリドは左の肩から足にかけて重度の熱傷を負った身体を動かそうとするが上手く動かない。


「何で…何やってんだよ、お前!!」


 ジェリドの叫びで漸くアークは自分の胸を貫いて触手が生えている事に気付いた。

 心配する友に大丈夫だと伝えようとするが、唇からは肺の空気が漏れる音だけしか出なかった。


「ふざけんなよ! 何でお前が! 何でだよ。畜生ぉぉぉぉぉ!」


 こんな傷などたいした事はない。直ぐに治ると微笑もうとするが、傷を押し広げるように触手が更に喰い込みそれは出来なかった。

 立っている力を失った身体を触手は持ち上げ、空高く掲げる。

 より深く触手に貫かれ、アークの口から滝のような鮮血が流れ落ちた。

 空と向き合い、アークは思う。

 イグルを助けに行かねばと。

 ミルフィーやメリー。その他の者を助けねばと――。

 だが、身体は腱が切れたかのように動かない。

 青い空は次第に色を失い闇に呑まれて行く。

 程なくしてアークの瞳から生気は消え失せた。







 アークが空に掲げられて直ぐにジェリドは紡げるだけの魔術を用いて触手に攻撃した。


「アークを下ろせ! 畜生ぉぉぉ!」


 攻撃は全く効かなかったが止める訳にはいかなかった。

 無駄な攻撃を続けていると化け物本体に何かがあったのか触手は消え、アークは落ちてきた。

 グシャリと地面に叩き付けられたアークへと這って近寄り手を伸ばすが、息はなく、脈も触れない。

 その事実を受け入れたくないジェリドはアークの口へ指をねじ込む。


「俺の魔力でも生気でも何でもくれてやるから、息をしろ!」


 必死に魔力提供を行うが、魔力を精製し力に変える魔力核を始め臓器の殆どが破壊されている為、変化はない。


「誰でもいいからこいつを助けてくれ! 頼むから…誰か…誰か……」


 半狂乱気味に叫びながら治癒術式を展開させるが、全てが無効だった。


「駄目だ。死ぬな! 死ぬなんて許さねーぞ!」


 ジェリドは呼吸を止めた唇へ空気と魔力を送ろうと唇を合わせる。


「息をしろよ! なぁ、アーク! 息しろって!」

「ビービーと煩い小僧だな」


 突如湧いた声に顔を上げるとフード付きの赤い外套に身を包んだヴェロニカが立っていた。

 知る限り最強の高位術者の登場に安堵から涙が零れる。


「助けてくれ……」

「言われるまでもない。それにしても予想を裏切らない奴だな」


 苦笑しアークを抱き上げた。


「こいつは私が何とかしてやるから、貴様は適当な術者に救助されておけよ」


 ヴェロニカの足元に円状の術式が現れ――。


「待ってくれ……」

「安心しろ。こいつは絶対に死なせない」


 そう告げ、アークと共にヴェロニカは術式に沈んでいった。

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