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赤き破壊の魔女と踊れ  作者: 氷魚彰人/慧一
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最終戦③*

 先に突入した剣術師達の切り開いた道をディランが走り、その後をアーク達六人が付いていく。

 後方で魔術師達が紡いだ術式が集中砲火を浴びせている間に剣術師達は距離を詰めようとするが、禍々しい化け物から分裂されるように四足歩行の狼に似た影獣が何十体と飛び出し剣術師達を襲った。

 俊敏な影獣は一瞬にして距離を詰めると、剣術師達の喉笛に食らい付くべく口を大きく開けるが、閃光が走ると同時に真っ二つに斬り裂かれ、肉体を持たないそれは血の一滴も流さずに地に落ち、そのまま霧散する。

 一体をほふればまた新たな一体が吐き出される。

 いたちごっこのような状況に痺れを切らせたアモンは合図を送り四人の剣術師と共に術式を展開させ魔獣を一掃した。

 障害が消え去り、再び歩みを進めようとしたその時。

 化け物の中から一体の影が飛び出した。

 アモン等剣術師はそれを排除しようと剣を構えるがゆらゆらと蠢く影の奥に人の顔らしきものが見え、アモンは攻撃を待つように他の剣術師達に合図を送った。

 注視していると汚泥から浮上するかのようにずるりと影の中から人の頭が現れた。


「あ、ぁア…ア…モ……ン……」


 生気を失った眼球を痙攣させ、弱々しい声を紡ぐのは剣術師学校の女性教師スーシャであった。

 第一陣として戦闘に加わっていたスーシャが影の中から現れた事により他の人間が人質に取られている可能性に。目の前のスーシャをどうするかを逡巡する。


「にっ…にげ……れ……」


 一瞬だった。

 目に見えない無数の刃が閃き、中隊を切り裂いた。

 アモンはスーシャとは常に手合わせをし、癖を知っていた。

 術式が発動する際のほんの僅かな空気の違和感を。

 だから正面に位置取りながらも避けられたが、掻き集められたギルドの人間はそうはいかなかった。顔や胴体、四肢を斬りつけられ血飛沫ちしぶきを上げた。







 後方でその様子を見ていたディランは苦笑した。


「こんな事で足止め食らうなんて正義漢は辛いね」


 隣に立つアークへ目を向け仮面の向こうで微笑む。


「アレは愚行の見本だよ」


 真似しないようにと言い含まれ、アークは頷けなかった。


「言いたい事は分かりますが、スーシャ先生を……人質を無視する事は出来ません」

「人質一人の為に仲間の命を無駄にするのはバカげているよ」

「だとしても人の感情は簡単に割り切れるものじゃありません」

「意見の相違だね」


 ディランは仮面の奥の瞳を細め、そっと逸らした。


「まぁ、いい。今は他にやる事があるからね」

「人質を助けないのですか?」

「アレくらいアモンが何とかするよ。君は別にやる事があるだろう?」

「……はい」

「本当ならもう少し前に行く予定だったんだけど、囮役が足止めされちゃあ仕方ないからね」


 ディランは振り返るとアークは勿論他の六人に向けて話した。


「魔道書だけどね。今までに見た封印の化け物は術師が遠距離から操作するものと、化け物の中から操作するのと二種類あってね。遠距離かの見極めは出来ないけど、術師の狙いを考えると十中八九中で操っていると思うんだよ。だからね、おいちゃんとアークくんが化け物に取り付きやすくなるように上空から煙幕で目くらまししてくれるかな?」

「目くらましって言うけど、あの化け物の何処に目があるんだよ」

「それは適当にね」


 雑な指示にダートは「全体的にやっとけばいいんじゃないの?」とこれまた適当な事を言う。


「それはいいとして、上空飛び回って平気なのか?虫けらのように一瞬で吹き飛ばされるんじゃないのか?」


 剣術師一個中隊が目の前で斬り付けられた様をたった今目にしたばかりなだけにジェリドは眉をひそめるとディランは笑った。


「魔力が無尽蔵に使えるならアモンが突入した時点で消し炭になっていたはずだ。けど、魔力を食う大掛かりな術式は使用したくないのだろう。人質を使って戦力を削ぐなんてマネをしているくらいだからね。攻撃可能範囲内に入らなければ大丈夫じゃないかな?」


 心許ない言葉にジェリドは肩を竦め。


「まぁ、何処に居てもたいして変わらねぇか」


 苦笑し、悪友達に声をかけた。


「んじゃ、雑魚らしく小細工しに行くか」


 ジェリドの言葉に答えるようにダート、トルカ、トライル、バークは杖を出現させた。

 何気なくアークの真横に陣取っているイグルを見れば、ピッタリくっ付いて離れる気配がない。強硬手段としてジェリドはイグルの襟首を掴んだ。


「お前はこっちな」


 否を唱える冷ややかな紫水晶アメジスト色の瞳を無視し自分の方へ引き寄せようとするが、ビクともしない。


「私はアーク様の側にいます」

「駄目だ」

「貴方に私の行動を決める権利はありません」


 睨みあう二人の間にアークが割って入る。


「イグル。お願いだからジェリドと一緒に居てくれ」

「アーク様、私は……」

「私を主と思ってくれるなら言う事を聞いてくれ」


 主にそう言われては引き下がらない訳にはいかないのだが、イグルは掴んだ袖を離す事が出来なかった。


「イグル?」

「私はアーク様と共に行きます」

「イグル、これは命令だ」

「私はアーク様の盾です。どうかお連れ下さい」


 頑として譲らないイグルをどうしたものかと困り果てているとジェリドがイグルの首に腕を巻きつけた。

 何かを耳打ちされ表情の乏しいイグルが僅かに眉を顰めると、それまで頑なに握り締めていたアークの袖を離した。


「こいつは俺と一緒に行動させるから」


 主の言葉にも異を唱えていたイグルが大人しく引き下がった事に驚き、何を言ったのだろうかと見詰めるが、ジェリドは笑みを浮かべるだけで何も答えなかった。


「それじゃ行こうかね」


 ディランの言葉を合図にジェリドはイグルを杖に乗せた。


「煙幕なんてあの化け物が吹けば一瞬で消え去るからな」

「一瞬あれば取り付けるから平気だよ」


 ディランの言葉にジェリドは頷くと空高く舞い上がり、ダート達四人もそれに続いた。

 これまでの攻撃から予測される攻撃範囲内ギリギリを五人は飛び回り、術式を紡ぎ始める。


「さて。筋力強化の術式はいいかな?」

「はい」

「では、一気に行こうか」


 赤い有色の煙幕が化け物を包むように降り注ぐのを合図にディランは手から大鎌出現させると短い詠唱と共に振るった。

 姿無き無数の風の刃が煙幕とその向こうに出現したばかりの影獣を一瞬にして消し去り、化け物本体の足元を襲う。

 複雑な術式の固まりとの接触により風撃の術式は爆発する。

 爆風を薙ぎ払いディランは一気に化け物との距離を詰めた。

 一拍遅れでアークがそれを追う。

 次から次へと吐き出される影獣をディランが切り伏せている間にアークは宙に薄くて小さな防御壁を等間隔で展開させ青いドレスをはためかせ駆け上がると、そのまま一気に化け物の頚部目掛けて突き進んだ。

 振り落とされるのを回避すべく剣を楔として化け物の首に差し込むと、何処に居るとも知れない術師に向かって叫ぶ。


「アレイスター先輩居るのでしょ! 出てきて下さい!!」


 何度か呼びかけると返答の変わりに化け物の頚部に人の頭ほどの大きさの眼球が現れ、アークを見詰めた。


「先輩もう止めて下さい!」


 眼球に向かい叫ぶと、眼球の周りから複数の触手が飛び出した。

 剣を旋回させ手足に絡み付こうとする触手を斬り刻みながら後退して行くが、触手の追駆は緩まず無駄だと分かっていても第六位の電撃系術式を紡ぐ。第一位の術式ですら即座に回復する化け物に低位の術式など効く筈もないが、触手は何故か追駆を止めた。

 止まっていた触手が再び動き出すと、寄り合わさり大木程の太さとなった。そして造形を変え人の形となる。

 仮面のようにのっぺりとした顔が徐々に形作られて行き、良く知った顔へと変化する。


『アンジュ……』


 アレイスターの顔をした影に呼ばれアークは構えた剣を僅かに下げた。

 眼前の影に騙りかければアレイスターに伝わるかもしれないと。


「先輩……」


『アンジュ……』


 黒い腕が伸ばされ、アークの腕に触れる寸前にそれは斬り落とされた。


「ボケっとしてんじゃねーよ!」


 顔面に傷を持った狂剣士に蹴飛ばされアークの身体は化け物から離れ宙を舞った。

 アークは宙に防御壁を紡ぎ、着地すると割って入って来たヘルシングを見た。


「何をするんですか!?」

「戦場で呆けているバカは蹴飛ばされて当然なんだよ。失せろ金髪」


 ヘルシングは大剣を一振りするとアレイスターの形をした影に向き直った。


「ようイカレ野郎。イカレはイカレ同士仲良くやろうぜ」


 ヘルシングは一足で距離を縮め大剣を化け物へと振り下ろす。岩を粉砕するように高速で叩き付けるが、自動修復により削った先から直ぐに修復され、何事もなかったかのように元に戻る。


「消耗戦か、あぁ?」


 嬉しそうに叫ぶヘルシングを取り囲むように小さな円状の術式が四式浮かんだ。

 アークは防御壁を紡ぎ衝撃に備えるが低位の防御壁は脆く崩れ、爆風によって上空へと吹き飛ばされる。

 白煙によって視界が利かない中、防御壁を紡ぎそこへ着地しようとするが座標を誤り、身体を打ちつけた。衝突の衝撃により防御壁から落ちかけ、アークは手を伸ばすとその手を掴むものが居た。


「イグル」

「大事ないですか?」


 上空に目を向ければ杖に跨ったジェリドが何かを叫んでいる。アークの危機にジェリドの制止を無視して飛び降りたのだろう。


「何て無茶を……」

「お叱りは後ほど聞きます。それよりも今は体勢を立て直しましょう」


 イグルに促され、立ち上がると狂気を孕んだ笑い声が耳に届いた。

 見ればヘルシングは相殺の為の術式を発動させ、直撃を免れたものの全身の至る所の肉を吹き飛ばされ鮮血を流しながら化け物の腕に立っていた。


「おいおい。マジか。楽しいなぁ」


 止血もせずに化け物に突撃する狂剣士を援護するべきかと逡巡する。


「アーク様、一度退きましょう」

「イグル……」

「ここに居てはあの傷の男の戦いに巻き込まれるだけです」

「だが……」

「余波を凌ぐ力すら我々にはありません。この場に留まるのは得策ではありません」


『確かにここは危険だね』


 突如割って入った声に身構えるとアレイスターの形をした影がアークの傍らに立っていた。

 イグルはアークを背に庇うようにして氷剣を構える。


『お兄ちゃんの所へおいで』


 手を伸ばされイグルは影の懐へと潜り込み剣を突き立てる。

 だが、手応えはなく剣は影に呑まれていく。


「イグル!」


 氷剣を手放し後退するが、アレイスターを模った影から複数の触手が飛び出しイグルに巻き付いた。


『お友達も一緒にね』


 アークは剣でもってそれらを切り伏せイグルを解放しようとするが、触手は後から後から生えてはイグルに巻き付く。


「アーク様。私に構わずお逃げ下さい」

「バカを言うな!」


 剣に雷撃効果を乗せて攻撃するが、斬れば斬るほどに触手は生えてくる。

 イグルを引き寄せるとアレイスター型の影は頭から下腹部へと亀裂を作り口を開くように真っ二つに割れ、闇への入り口を作った。

 ずるずると引き摺り込まれるように化け物に呑まれるイグルを掴み必死に引き寄せるが、引き寄せるどころかアーク自身も引き摺られる。

 二人を助けようと円を描くように上空を飛んでいるジェリド、ダート、トルカ、トライル、バークがそれぞれ術式を紡ぎ氷剣を触手や影に叩き込む。

 触手の拘束が緩みその隙にイグルを引き寄せるが、頭上での爆音に顔を上げれば友人等の姿はなく、代わりにドーナッツ状の繋がった爆煙があった。


「ジェリド! 皆!」


 友人等の安否に気を取られた一瞬で触手は身体全体を覆いイグル共々影の中に引き摺り込まれた。

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