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赤き破壊の魔女と踊れ  作者: 氷魚彰人/慧一
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最終戦①

 地上より遥か上空から魔術師学校を見下ろしアークは愕然とした。

 剣術師学校と対で建てられた建物は半壊し、グランドを中心に辺り一帯の木々は燃え濛々たる黒煙が立ち昇り、森のあちらこちらには術式が展開された跡とおびただしい血痕が残されている。

 グランドを陣取っている化け物は駐屯地で見たものより大きく、戦力分散を担って出現させられた化け物とは違いヴェロニカを誘き寄せる為なのか火炎を吐き、威嚇している。

 学校内にまだ救助対象の人間が残されているのか、剣・魔術師はただひたすら防御壁を紡ぎ必死に耐えていた。


 とても魔術師学校の敷地内にはコーチを下ろせそうにない為、隣の剣術師学校へと下ろす事となった。

 コーチを旋回させ剣術師学校のグランドへ向かうと化け物との接触で負傷したと思われる術師が見え、グランドの隅にコーチを下ろすと、真っ先にヘルシングが飛び出し負傷者には目もくれずに魔術師学校へと駆けて行き、少年三人は負傷者の集まる中央へと駆け寄った。

 横たわっているのは主に剣術師学校高等部の制服を着ている者。そして僅かに中等部の者が混ざっていた。

 怪我の度合いを見定め重傷者から先に手当するのが順当である。四肢のいずれかを切断している者、身体に裂傷がある者を率先して魔術師達は治癒にあたっていた。

 だが、重傷にも関わらず放置されている者がいた。他の負傷者達から離すように一人離れた場所に横たわる姿にアークは胃の引き攣りを覚えた。

 胸部を真っ赤に染めた黒髪に黒い瞳を持つ友人の下へ駆けた。


「ラグナ!」


 手を握ると閉じられていた力ない瞳が開かれ、何か言葉を発しようと唇が開くが言葉の変わりにおびただしい血を吐き出す。


「ラグナ! ラグナ!」


 喉に血液を詰まらせ苦しむラグナを助けようとアークは唇に吸い付き血を吸い取り吐き捨てる。

 その様子を見ていた剣術師学校高等部の制服を着た者が数人声をかけてきた。


「止めなよ。その子呪われているんだよ」

「血なんか飲んだらヤバイって」

「危ないよ」


 何度目か吸い取った血を吐き捨てたアークは忠告者を睨み付け、叫んだ。


「それがどうした!」


 怒りを含んだ声に忠告者達は肩を震わせ押し黙った。


「馬鹿げた噂を真に受け友を見殺しにする程私は間抜けじゃない。手助けする気がないなら去れ! 目障りだ!」


 それっきり忠告者から視界から消すとアークはジェリドに治癒術式を紡ぐように指示する。


「俺、こんな深い傷治せねーよ」


「治せなくていい。とにかく止血してくれ」


「分かった。イグル魔力よこせ」


 差し出された指から魔力を補充するとジェリドは治癒術式を紡いた。

 術式を展開する直前に、忠告者とは別の方から声がかけられた。


「ラグナから離れろ!」


 見れば全身煤に塗れた姿で弟のログが立っていた。

 誰もラグナに対し治療を施さない事に業を煮やし、剣術師学校から掻き集めただろう治癒術具が入った鞄を手に持っていた。


「ラグナは俺が助ける。お前達はどっかへ行け!」


 これまでいわれのない差別を受けてきた怒りと他人への不信感から顔を真っ赤に染め叫ぶ。


「お前らは俺達が嫌いなんだろう! 安心しろ俺達もお前らなんか嫌いだ! お前等の手なんか要らない。お前等は消えろ!!」


 アークはログの言葉を無視し口から血を吸い上げては吐き出す。


「止めろ! ラグナに…兄貴に障るな!」


 兄から引き剥がそうとアークの肩を掴むが、力強い手にそれを振り払われた。


「私が嫌いならそれでもいい。ただ今はラグナを救う事だけ考えろ!」

「うるさい。命令するな!」

「こちゃごちゃ言う前に治療術具を出せ! ラグナが死んでもいいのか!」


 鬼気迫る声と死という単語にログは慌てて鞄の中身をその場にひっくり返した。

 どれを手渡せば良いか分からずに固まっているとジェリドが横から勝手に取って行く。


「お前等剣術師は怪我するのは得意の癖して治す知識が足りなさ過ぎるんだよ!」


 吐き捨てるように言うと慣れた手付きで術具で治療を施して行く。

 止血が終わり穴の開いた肺を何とか治癒再生し終えるとジェリドは術具の一つを取ってログに押し付けた。


「一応一通りの処置はした。けど、表面的に傷を塞いだだけで完全に治った訳じゃねぇ。動かすな。動かすならそっとだ。痛みを訴えたらこの青いのを腕に打て。いいな?」


 ログの返事を待たずジェリドは立ち上がる。


「行くぞ」


 ジェリドの言葉に頷きアークは立ち上がり、続いてイグルも立ち上がった。


「ログ、悪いが私達は行かねばならない」


 立ち去ろうとするアークに礼を言おうと口を開く。


「あっ……」


 だが、自分達兄弟を迫害する者達を恨む事で心を支えてきたログはその後を続けられなかった。

 言葉を喉に詰まらせたままのログにアークは微笑み。


「ラグナを頼む」


 そう真摯に頼み、その場を後にした。







 魔術師学校の正門を潜り石畳を駆けて行くと緑鮮やかな緑園は見る影もなく、黒く焼け焦げ異臭を放っていた。

 数日前には文化際の飾り付けがされ屋台が立ち並び、皆が楽しそうに笑いあっていた場所が無残な形で打ち砕かれている現場に数える限りしか訪れた事のないアークですらショックから言葉を失い、毎日その場所をかよっていたジェリドは顔を顰め怒りとショックのない交ぜになった感情を吐き捨てた。


「クソッ!」


 上空から見て分かっていたとはいえ、実際目の当たりにした衝撃は大きく、感情を立て直していると聴覚を麻痺させる爆音が鳴り響き大地が震えた。

 救助対象の搬出が済んだのか、戦いの始まりを告げる死のファンファーレに少年三人は急ぎグランドに向かった。


「ジェリド!」


 途中から姿をなくした石畳跡を走っていると、グランド手前に瓦礫と化した時計塔の一部の影から手を振る人影にジェリドは眉根を寄せた。


「バーク!?」


 アーク等と駆け寄るとダート、トライル、トルカ四人のクラスメイトの他に全身負傷し血塗れのジャックが横たわり、その直ぐ傍でドーリーが治癒術式を展開させていた。


「ジャック先輩! ドーリー先輩!」

「よぉ、ちび共。さっ、探し人には…会えた…のか?」


 力ない声で問われジェリドは頷き礼を言えば、ジャックは僅かに口角を上げ笑った。


「そっか、良かった…な」

「先輩なんでこんな……」


 ジャックに比べれば軽傷だが傷だらけの身体をそのままにジャックの治癒に専念するドーリーが答えた。


「防御壁を強制解除して剣術師学校の教師と上位剣術師の生徒がギルドの魔術師と共に魔術師学校へと侵入した途端、グランドの化け物が暴れ出して第一次戦開始でした。校舎に人質を取られている事から剣術師達は攻めあぐね防戦一方。対し化け物は人質から奪った魔力を使い大暴れ。負傷者を出しながら人質救出し続ける事十二時間、アレイスターが何処からともなく現れ化け物に近寄った途端に化け物が巨大化し、このバカが飛び出したという訳です」


「せ、生徒会の…よしみで…手加減すると思ったのによ、あのアホ…容赦なくやりやがって、とんだドS野郎だ。クソッ!」

「あんな化け物の前に飛び出す君が悪いんだよ」

「ぅ…るせぇよ。畜生」


 治癒され顔色が戻りつつあるジャックに安堵の息を吐くと、ジェリドはこの場に居るはずのない四人を見る。


「お前等地方に交流戦しに行っていたはずじゃなかったか?」


 ダートは胸を反らすと盛大な溜息を吐いた。


「交流戦には行ったよ。でも向こうで魔術師学校ここが大変な事になっているから現場待機って言われたけど、お前達が保健室に取り残されているかもしれないって、四人で抜け出してきたんだよ」

「俺達を助けに来たのか?」

「無駄足だったけどな」


 と、ダートは零し。


「そうそう。必死になって駆け付けたってのにドーリー先輩に訊けばとっくの昔に脱出したっていうしさ」


 と、トルカは愚痴り。


「まぁ、ここに居たら何れ戻ってくるかもしれないと待ってたら本当に戻ってくるしな」


 と、トライル苦笑した。


「つーか、そこの金髪美少女誰よ?」


 興味深々でバークが訊くと、アークは目を伏せ顔を背けた。

 名乗りたがらないアークの変わりにジェリドが正体を明かすと四人は目に見えて肩を落とした。


「男のはイグルだけで腹一杯だってーの!」


 と、ダートは吐き捨て。


「紛らわしい格好してんなよ。危うく告白するところだっただろーが!」


 と、トルカは嘆き。


「イグルといい、お前といい新たな扉開かせよーとすんな!」


 と、トライルは憤った。

 そしてバークはショックのあまり言葉もなく項垂れた。


「お前等今がどういう状況か分かってんのか?」

「こんな状況だから異性との出会いを大切にしたかったんだよ」


 陰気な溜息を吐く四人をジェリドは一括する。


「お前等まとめて帰れ! 帰って寝ちまえ!」

「言われなくっても帰るけど、お前はどうするんだよ」

「俺は……」


 一瞬言い淀み。親指でアークを指し示す。


「最後までコイツに付き合うよ」

「最後って何する気だよ?」


 ダートに問われ、アークが答える。


「アレイスターを止めます」

「止めるって、第一位が束になっても敵わない化け物相手に低位術師が何出来るってんだよ」

「私はアレイスターの死んだ妹に似ているそうです」


「「「「はぁ?」」」」


 四人の説明を求める声にアークは詳しい説明を省き端的に答える。


「アレイスターは言っていました。妹に止めてもらえればと。ですから、妹に似た私が言えばアレイスターは止まるかもしれません」

「それってただの希望だろ?」


 ダートは眉根を寄せ。


「何の確信もないよな?」


 トルカはいぶかしみ。


「危険冒してまでやる価値あるのかよ」


 トライルは難色を示し。


「無理あり過ぎるだろ」


 バークは投げた。


「そうですね。ですから皆さんは帰って下さい。後は私一人で何とかします」


 アークは傍らに立つジェリドの手を両手で握った。


「ジェリドもここまで有難う。もう大丈夫だから避難してくれ」

「ふざけんなよ。ここまで来て『はい、さよなら』なんて訳に行くかよ!」

「でも、これ以上は危険だ」

「ならお前はどうなんだよ!」

「私は……」

「危険なのはお前も一緒だろうが」

「それは……」

「お前等剣術師が戦うには後方支援が不可欠だろうが!」

「でも……」

「でもじゃねーんだよ。非力なんで助けてくれって言えよ! 大体お前が何を言ってもイグルは付いて行くぞ。コイツ魔力は化け物みたいに持っているけど術式が殆ど使えねぇから後方支援なんか無理だぞ。コイツの事だ『アーク様の盾になります』とか言ってほいほいお前の前に立つぞ。いいのか?」


 想像に易いイグルの行動に、駄目だと言い留めようと見るがイグルは盾となる事を誓わんとばかりに頷く。

 困ったアークは助けを求めるように友を見詰めるが、首を横に振られた。


「コイツは誰が何と言おうとついて行くぞ」


 どうしたものかと考え、そして……。


「すまないがジェリド……」

「すまないじゃねー。助けてだろーが」

「助けて……貰っても良いだろうか?」


 躊躇いがちに訊ねれば、勢い良く背中を叩かれた。


「当たり前だろーが! 頼れって言っただろ」


 ジェリドの言葉に心の震え、それが腕に伝わり握り締める手に力が篭る。

 二人のやり取りを見ていた四人は苦虫を噛み潰したような顔で見合わせた。


「何お前等二人で熱い友情深めてんだよ。薄ら寒いから俺も入れろ」


 言いながらダートがジェリドの肩に腕を回すと、トルカが挙手をする。


「寒いのか熱いのか訳分かんねーから俺も入る」


 するとトライルとバークも後に続いた。


「じゃあ俺も付き合おうかな」

「仕方ないから付き合ってやるよ」

「お前等バカばっかだな」


 照れ隠しに素っ気無くジェリドが言い捨てると、四人は思い思いにジェリドの顔や頭を小突いた。


「一番バカに言われたくねーし!」


 かかかと一笑いし終え、トルカが疑問を口にする。


「それより、化け物に近付く前に高位術師に追い払われるんじゃねーの」

「何時も通り姿変えの術式で誤魔化せばなんとかなるんじゃねぇ?」

「ギルドの連中はともかく教師共は騙されてくれねぇだろ?」

「ああ、それならおいちゃんが何とかしてあげるよ」


 突如降って湧いた声にその場の全員が驚きと共に振り返ると、異様ないでたちの男が立っていた。

 黒いフード付きの衣装に身を包み赤い十字模様の入った白い仮面を付けた男はヒラヒラと手を振ると軽い足取りで近寄った。


「遅くなってごめんね。衣装チェンジしてたら遅くなっちゃったよ」


 マスクで音が曇ってはいるものの、聞き覚えのある声にアークは確認の為にもその名前を呼んだ。


「ディランさん?」

「うん。そうだよ」

「なんで……?」

「いや~、ほらおいちゃんこう見えて一応闇社会の人間だし、おいそれと一般人とつるんじゃ駄目なんだよね。だからさ変装してみたんだ」


「はぁ……」


 アークの脱力した返事を余所にディランはマスクの上から自身の肩や腕を嗅いだ。


「それにしてもずっとタンスに仕舞っていたから防虫剤臭いね」


 そこはかとなく漂う防虫剤の臭いに一同苦笑する。


「そうだ、君にこれあげるよ」


 そう言うとディランは腰に下げていた剣を鞘ごとアークに投げた。


「剣術師が手ぶらじゃ締まらないからね」

「有難う御座います」

「アークくん。これから向かうのは戦場だ。戦場に剣術師が剣を持って立つ意味は分かるね?」

「はい」

「躊躇いは誰も救わない。君も相手もだ」

「はい」

「断ち切るは正義なり。打ち砕くは正義なり。バカな王子の行いを正義にしない為にも君は正義を執行しなくてはならない。覚悟はいいかな」


 脳裏に優しく微笑むアレイスターの姿が浮かんだがそれを振り払い、アークは重く頷いた。

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