シネマリバイ Page4
柄澤ですか? あの人は確かに嫌いですが、殺したりなんかはしていません。四日はいい映画が観られて幸せだったんです。ただそれだけですよ。前のほうに陣取って観るのが好きなんで、それも達成できて嬉しいです。近いうちにもう一度、映画館に足を運びたいですね。
……そんなに面白かったかって? まあ、万人受けはしないでしょうね、マニアックなところはあるしオタク的だし。だけど、好きな人は本当に好きでしょうよ。僕はまさにその類ですから。そういや今日、映画館近くの会場でプロレス大会やってましたね、あれと一緒です。続編とか出ないかなあ、次はキネマBで観るつもりです、看板綺麗だったし。ああ、でも大学が……どうしよう。
【担当刑事の呟き】
うーむ、困ったな。今一つ、決め手に欠けるぞ。
とりあえず、あの三人のうちの誰かが柄澤茉莉を殺したのは確かだ。写真がそれを物語っている。別人ということも考えられるが、あの三つ子は柄澤と面識があるからな。まず間違いないだろう。なんといっても、彼らの父親は寿司屋で、柄澤の酷評記事によって店が壊滅的な状況になり自殺したという事実がある。記事は匿名で書かれたわけではなく、柄澤茉莉の名前でしっかりと作られていた。いかにも大衆の興味を引くための煽情的な語り口で、これでけなされたらさぞかし腹も立つだろう。三人共に、十分な犯行動機があるわけだ。
だが、彼らは一卵性なだけあってそっくりだ。現実に会っても見分けがつかない。まして写真だと尚更だ。写真の人相判定では決定不可能と言っていいだろう。そして厄介なことに、全員アリバイを持っているときている。
一番不安定なのは相川信也だが、犯行時刻の二時三十四分には藤村劇場で映画を観ている。チケットを買っただけとも考えられるが、あの場での語りようを鑑みるに、観ていないということはないようだ。そして彼の言う通り、五日以降映画館に行く暇がなかったということは、聞き込みの結果明らかになっている、と。
相川奏太のカラオケも、基本的にアリバイとなるようだ。彼の二人の友人には連絡を取ったが、確かに供述通りの行動を取っていた。四日の午後じゅう受付をしていたというカラオケ店の店員に話を聞いたが、確かに彼を含む三人組が来ていたことが明らかになった。また、それとなく探ってみたところ、彼の友人たちが柄澤のことを知らないことも判明した。彼女は別に名の知れたライターというわけではないからな。
相川大地についても、信用に足るところはあるだろう。彼も映画がアリバイで、その際彼女とは離れて座っている。しかし、彼女さんにも話を聞いたが、相川大地の供述を支えるものでしかなかった。自分より前に彼が座っていて、少なくともスタッフロールに移るまでは館内にいた、と。なお、映画上映中に途中入退場した客はいなかった。これは三人すべてに当てはまることだったな。相川奏太のときに、小さい子連れの母親が退出したらしいが、それは含める必要がないだろうし。
お、3人の証言が終わった。三つ子ものかあ。
いよいよ刑事さんから状況を教えてくれるわけだね。
やっぱり全ページ、手書きで番号が振ってあるけど汚い……