シネマリバイ Page2
映画はどのような感じだったか、ですか? やっぱり「へいおん!」は良いですよ。漫画原作がいわゆる「日常系」に属するもので、女子高生たちのゆるやかな日常がコメディタッチで描かれるんです、それこそ「平穏」に。それに動きと音が付いたわけですが、アニメの利点が全部出ていましたね。最近、暗いニュースばかりでしょう? 観ていてのほほんとしました。行ったのが野球場じゃなくて良かったですよ。
ところで柄澤はどんな様子で? ……教えて下さらないんですか。せめて死因くらいは……あ、やっぱいいです、別に知る必要もないですよね、僕たち関係ないわけですし。
【相川信也の証言】
一月四日の行動、ですね。分かりました。僕たちはお分かりのように一卵性の三つ子なのですが、その日は僕だけ大学がありました。ちょっと教授と話し合うべきことがあったもので。だから僕が自宅を最初に出て──ええ、三人とも住まいは同じですよ──大学に向かい、十一時半くらいまでは大学にいました。教授がそこを証明してくれると思います。
それから軽く昼食を摂って、適当にブラブラしてから、映画を観に行きました。アニメの「へいおん!」というやつで、僕たちは三人ともファンなんです。ええと、行ったのはキネマBではありません。藤村劇場、という映画館です。これ、半券です……ええ、殺された柄澤のアパートからは大分遠いですね。あの日は正月ラッシュで道路の混み具合が半端じゃなかったし、最速と思われる自転車で行こうと三十分はかかるでしょうね。大学からだと、キネマBも藤村劇場も同じくらいの距離なのですが、なんとなく後者を選びました。
映画は午後の二時から四時まででした。それからすぐに帰りました。基本的に一人だったので、僕にはこれといったアリバイがないことになってしまいます。死亡推定時刻っていつごろですか? ……それは教えられない、と。まあ、そうですよねえ。
どうせなので、アリバイになりそうなところだけ主張しておきますよ。二時から四時は確かだと思います。映画館にいましたから。もちろん中にいましたよ、上映前の予告編の内容まで言えますね。あの日が初公開だったわけですし、何より今日は八日ですよね? 五日、六日、七日と僕は大学が忙しかったので、映画館に行く暇はありませんでした。それは簡単に証人が確保できます。ということは、四日しか「へいおん!」は観られないわけだ。内容について語りましょうか? まず──(ここから長いので省略)
ええと、何の話でしたっけ。そうだ、アリバイだ。十二時から二時くらいと、四時以降はちょっと証明しづらいですね……ここ、しっかりしておいたほうがいいですか? ……別に僕を疑っているわけではない、と。それはないでしょう、こうまでしておいて。
まあ、アパートと藤村劇場を行き来するのに三十分だとして、一時半から四時半の間に死亡推定時刻が収まっているのなら、僕には犯行が不可能だということになるわけですよね。うーん、困ったなあ。奏太と大地はどうなんですか? ……僕が知っていないかですって? そりゃあ、大体のところは知っていますけど、警察にはもっと詳しく話すと思いますよ。三つ子だし仲はいいほうですけど、シンクロニシティとかはないもので。服のセンスは似てますが。