シネマリバイ Page1
あたしは早速、一枚目に目を通した。
タイトル『シネマリバイ』は、なんと手書きである。本文は印刷だけど。
やっぱりニトさん、急いでたみたいだ。一夜漬けって感じするなあ。
【事件概要】
二〇××年一月五日、S県N市内のアパートにて、そこに住むフリーライターの柄澤茉莉(四十二歳)の撲殺死体が発見された。凶器と思われる血の付いた金属バットは室内で発見されており、玄関扉は施錠されていなかった。部屋が荒らされた形跡はなかったが、知人の犯行と強盗殺人の両方の線で捜査が進められた。
一月六日、捜査に大きな進展がみられた。なんと被害者は、死の間際に隠し持ったデジタルカメラで犯人の写真を撮っていたのだ。ピントがかなりボケていたが、犯人はそれに気づかなかったと推測される。被害者の死亡推定時刻は一月四日の午後二時から三時の間で、写真の撮られた時刻は同日の午後二時三十四分と、それに合致していた。
写真はバットらしきものを振り下ろす犯人を写しており、犯行の瞬間と判断して間違いがないものだった。犯人は返り血防止のためかレインコートを着ており、服装は不明であったが、顔がはっきりと写っていたので、それを元に聞き込みを行った結果、相川奏太(二十一歳)という大学生が捜査線上に浮かんだ。しかし、そこには問題が二つあった。相川奏太は当日のアリバイを主張しており、かつ、彼は一卵性の三つ子だったのである。以下、三人の証言。
【相川奏太の証言】
一月四日ですよね? その日は友達二人と一緒に遊んでいましたよ。ええ、大学の仲間。集合したのは朝の十時前で、キネマB、っていう映画館の前です。……え? 殺された柄澤のアパートはそこから十分ほどで行けるって? やだなあ、友達と一緒でしたって。
十時というのは、映画の開始時刻です。アニメ映画の「へいおん!」ってやつで、その日が初公開だったんです。僕たち三つ子はみんなこれのファンで、大地も信也も時間は違えど四日に見に行ってましたよ。上映時間は二時間で、昼の十二時に映画館を出ました。キャラの看板に早くも擦ったような傷があったのが残念でしたけど、内容には大満足です。
それからですか? ええと、近くのファーストフード店で昼食を摂って、そのままカラオケに行きました。一時に行って三時間入ったので、四時までですね。ああ、カラオケはキネマBの付近にあるシャンカラってところで……はあ、確かに例のアパートには五分くらいで行ける距離ですねえ。
ところで、柄澤の死亡推定時刻はいつなんです? ……あ、教えられない、と。でも、カラオケにいたときが一番「近かった」わけですし、そこはフォローした方がいいですよね。確かにカラオケをこっそり出たら、殺害も可能だとは思いますが、僕はそこでも友達二人と一緒でした。そりゃあ、トイレに立ったりドリンクの交換に行ったりは何度かしましたが、五分以上空けるなんてことはなかったです。僕自身も、友達もね。友達にも訊いておいて下さい、きっと裏は取れますから。
その後ですか? ええと、ゲームセンターや本屋に寄って──もちろん、一人にはなっていませんよ──午後六時前に解散、自宅に帰りました。だから六時以降のアリバイはないですねえ。ああ、そこから先は別にいい、と。それはよかったです、本当。
って、容疑者は「相川」なんだ……
ちょっと苦笑。さあ、二枚目に移ろう。
しかしこれ、ページ番号も手書きみたいだ。数字で「1」って、あんまり綺麗な字じゃないな。