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太っちょのポンちゃん

肉食女子の事情

掲載日:2016/03/26

『太っちょのポンちゃん まとめ』の〔後日談 高校生編〕

『ポンちゃんと肉食女子』に出て来る亀井の彼女、光本視点です。


※裏側のお話、鬱展開となります。苦手な方は回避していただくよう、よろしくお願いします。

※このお話を読まなくても、他のお話を読むのに支障はありあません。



地味で目立たないって言う自覚はある。

でも「そんな君が好きだ」って言ってくれた、中学校から付き合っている彼がいる。


「いかにも女の子って感じに作っている子、苦手なんだ」


って、恥ずかしそうに松島は頭を掻いていた。

だからそれまで、地味な自分の事を嫌だと思った事は無かった。


高校生になって、私に声を掛けてくれた横井由真は、まさにそんな『いかにも女の子』って感じの子だった。

鼻にかかった声、大袈裟なアクション。

ナチュラルに見せる愛されメイクと女子力の高いふんわりと散らした髪。

でもいつもニコニコしていて、素直に可愛いと思った。

彼女は私と彼の帰り道に、時々同行するようになった。




「……ダメって分かっているのに……松島君の事、好きになっちゃったの……!」

「……横井……」


私を待っている二人の元に行こうと教室に踏み込もうとした時、そんな芝居がかった台詞が聞こえた。

堪えきれないように、彼女の名前を呼ぶ松島の声が切なさで震えている。


ガラリと開けたその扉の向こうには、涙ぐむ由真を優しく受け止める松井がいた。


ああ、そっか。


その時気付いた。

どうして彼女が私なんかに近づいて来たんだろうって、不思議に思っていた。


その時にはもう遅い。

松島の心はもう、由真の手の中だった。


私が悪いの……!松島君は悪く無い!

と悲劇のヒロインよろしく泣き崩れる由真と、それを慰める松島。


その時、知ったの。


どんな手段を使っても、好きな相手に彼女がいようといまいと、恋にルールなんてない。気持ちを手に入れた女が勝ち組なのだと。

「彼氏のいる彼女に言い寄ったりしない」なんて常識を守っている私の方が、馬鹿なのだ。


所詮、私達は動物だ。


強い遺伝子を勝ち取ることを使命として本能に素直に従っている雌にしてみれば、女子力という牙も爪も磨かない私は、間抜けな弱者だったのだ。







夏休みに私は変わった。

体を磨き、コンタクトを作り、爪を研いで、髪の色を明るくした。

愛されメイクに、しなやかに絞った体。適度な露出のスタイル。

合コンに参加して、相手を落とす仕草や口調を研究した。


由真はルールを守らなかった。

ルールを信じた私が馬鹿を見て、松島はその手管に絆されて余所見をした。

私だって、もう常識になんか縛られない。


穏やかな関係なんかいらない―――手段を尽くして、欲しい男を手に入れて見せる。







** ** **







「ちょっちょっと、待ってくれよ」


しがみついた腕を引き抜かれた。


光本みつもとって―――俺の事、好きだったの?」

「気付かなかった……?結構アピールしてたんだけど」

「うん、全く」


私はフフッと笑ってしまう。他の男子のような手応えが無かった。彼はモテ過ぎて、女子の好意に鈍感になっているのかもしれないと、うっすらと想像していた。


「そんな気がした」

「俺、亀井の彼女と付き合う気無いから」

「じゃあ、亀井と別れる」

「いや……困るよ」


そう言って口籠る本田。その精悍な容貌は、冴え冴えとしていつもつい見惚れてしまう。

今もそう。

眉間に皺を寄せて考え込むその表情かおの、彫刻のような美しさは私の心を容易く釘付けにする。


貴方も松島のように、自分を悪者にしたくないだけでしょう?

抱き着いた時に押し付けたら、胸元の谷間を見て顔を朱くしていた。


だから私が口実を上げる。


「じゃあ、さ。内緒で付き合お。そっちも別れなくていーし」


無防備な正面に抱き着くと、Tシャツの薄い布越しに逞しい胸板と腹筋を感じた。意識してまた、胸を押し付ける。


私が横井に勝っていたのは、胸だけだった。

松島もこの点だけは後悔しているかもしれない……と考えるとスッとしたものだ。




割とすぐ現彼氏の亀井が戻って来た。名残惜しいけどすっと離れる。

今は修羅場を作ってはダメだ。慎重に事を勧めないと、手に入るものも入らない。

だけどこのまま別れたく無くて、帰り道何か食べて行こうと提案した。そしてもう少し彼と一緒にいられると、思ったのに。


「ポーンちゃん!」


曇りの無い明るい声が響いた。

裏切られる事を微塵も予想しない、可愛い女の子の声。

途端にホッとする本田の表情に、ジリッと胸が軋んだ。

そして何の疑いも無く、彼女は彼の胸に飛び込む―――さっきまでそこは―――私がいた場所なのに。


彼の関心を一気に攫う存在。


重ねて一緒に食事に行こうと誘っても、本田に上手に躱される。

亀井の「二人になりたいだけだろ~」という揶揄いに「まぁな」と笑顔で帰す本田と、彼に寄り添う鹿島さんに胸がチリリと焼けるように痛んだ。




それから……本田に避けられるようになった。

無視はされないけど、帰りも別行動だ。クラスで話しかけると応じてくれるけど、触れようとするとスッと下がる。


彼だって、男だ。

誠実だった松島が横井に気持ちを揺らしたみたいに、きっと密かに胸の内に、迷いが生まれているハズ。

私の提案は彼にとって美味しいトコ取りだ。失うモノが無い関係に、何を躊躇っているのか?躊躇らわせるモノは、彼の中にある『常識ルール』だ。彼にそれを気付かせてあげれば―――こちらに一歩踏み出してくるに違いないのだ。


先ずは由真のように、落としたい相手の彼女の友人になる。そして、傍に居るのが当たり前な状態のグループ交際に持ち込んで、彼女の目を盗んで付き合い易い環境を作るのだ。


鹿島さん―――唯ちゃんは素直だ。

まるで昔の私のようだ。疑いもせず、友人として私をすんなり受け入れてくれた。


この子は本当に可愛くて素直で―――間抜けな子。


ワクワクする。

由真の気持ちが分かった。こんな楽しい事ってない。

野性の肉食獣みたいに、他人を出し抜いて獲物を虎視眈々と狙う。それがこんなに心が躍る気持ちがするものだなんて。


普通に彼女持ちに正面から近づけば、誠実な男ほど、警戒されて仲良くなる暇も無い。

だけど『彼女の友達』なら。


彼は彼女に嫌われたくないから、その友達にも優しく接する。無碍にはできないのだ。彼女が選んだ友達だから―――それだけで、心に纏った鎧を脱ぐ。同じ女の子を慕う者同士として、親しみさえ感じる筈だ。だからこそ『彼女の友達』はその柔らかい内側に、容易に入り込むことができるのだ。


しかし一度彼には拒絶されている。慎重に事を起こさなければ。

警戒されて遠ざけられないよう、彼に悟られない形でダブルデートを画策した。亀井の用事がある日を選んで彼に前もって出掛ける事を断らせ、唯ちゃんに気のある男を代役として手配する。案の上、まゆずみはすぐに餌に喰いついてくれた。



思惑通り、唯ちゃんを独占する黛。

本田はそれを苦い顔で見ている。


唯ちゃんが黛に簡単に靡くなんて、安易な考えがある訳じゃない。唯ちゃんと黛の仲の良さを見せつけて本田を不安にさせ、唯ちゃんを裏切る口実を彼に作ってあげるのが目的だ。


本田が唯ちゃんを捨てて私に乗り換えようと決心するのは、これまでの付き合いから難しいと分かった。ならば、徐々に彼の心に食い入るのだ。他の男と仲良くする唯ちゃんに嫉妬し呆れるその心の隙間に滑り込み、彼を癒して支える健気な女になる。そしてじっくりと彼の心を掴みとろう。


暗さを武器に、そっと彼の腕に手を添える。


「唯ちゃんも楽しそうね。彼女、優しいから……黛君が誤解しそう」

「それは……」


口籠る本田に、同情するように眉を落として見せる。


そうでしょう?彼氏以外の男子に気を持たせる彼女なんて、正直面白くないでしょう?外に出さない不満があるハズ―――それか見たままの通り、不満が無いとしたら―――それだけ彼女に対する恋愛感情が少ないとも言えるだろう。

少なくとも、唯ちゃんは彼女の役割を完全にこなしてはいない。

他の男子に良い顔をするだけでなく―――体も許してない。それでヤリたい盛りの高校生を繋ぎとめておくのは無理だ。


「前にも言ったけど、唯ちゃんは本田の事大事にしていないと思う。私だったら、絶対本田を優先する。唯ちゃんがこっちを見ていない時だけでいいから、私を見て欲しいの……」


男の子の気持ちを掴む術は研究した。

とにかく触れる事。近くにいてドキドキさせれば絆されるのも早い。


いつも触れたいと思っていた、本田の大きなゴツゴツした手。その中に手を差し入れると、すぐにパッと払われてしまった。

だけど私を見る彼の顔に、動揺が走っているのが見て取れる。

揺さぶりが利いているようだ。


「……亀井の事、どう思っているんだ?」


亀井は素直で良い彼氏だ。

私が誘った時、彼は初めてだった。いつも二人になりたがって、犬のように私を見て尻尾を振っているのが、私の優越感を刺激する。


本田が唯ちゃんと別れ難いと言うのなら、そんな隠れ蓑があった方がいい。

本田と亀井はそれほど深い友情で繋がっているワケじゃない。亀井を密かに裏切る事に、本田はそれほど罪悪感を抱くとは思えなかった。

そもそも黙っていれば相手には分からないのだし。


「……本田は唯ちゃんと別れないんでしょ?だったら私もこのまま付き合う。……聞いたよ、まだなんでしょ?本田と唯ちゃんって。だから練習させてあげる。何にも知らない、真面目な唯ちゃんを大事にする為にも―――その方がいいでしょう?」

「唯ちゃんと光本って、友達じゃ無かったっけ」

「友達の彼氏と寝ちゃ駄目なんて法律、別に無いよね?」


真面目な事を言う。そんな世間知らずの彼を、笑った。

本田が常識を破る一歩の手助けを、私がして上げる。


「わかった」


キッパリとした、男らしい声に胸が震えた。


「わかってくれた?」


期待を籠めて見上げると、氷のような冷たい視線とぶつかった。

悪い予感に思わず息が止まる。


「お前と関わる必要が無いって事が。もう、俺に話しかけるな」

「……え?」


本田が私に背を向けて、大股で歩き出す。


「本田!」


その背に追い縋ったけど―――彼は一度も振り返らなかった。




それから本田と事務的な遣り取り以外、一度も口を聞いていない。

視線もすぐ逸らされる。ただの知り合いとしても、クラスメイトとしても、関わる事を拒否されてしまった。







由真が許されて、私が許されないのは何故?

遣られた事を、他人に遣り返しただけなのに。


本田は『裏切らない男』で、単に松島が『裏切る男』だったってこと?

それとも裏切る事を考えられないくらい唯ちゃんが魅力的で、私には魅力が無かったってこと?


恋にルールなんて無い。

略奪する女がいて、裏切る男もいる。


だけど、略奪に靡かない男もいた。


私を裏切った『男』と、略奪した『女』に思い知らせてやりたかった。所詮みんな動物なんだって、弱肉強食なんだって知らしめて嗤ってやりたかったのに……。




そうして私は気付く。


私は羨ましかったんだ。




同じクラスになったばかりの頃、私は本田に一目惚れをした。

バスケ部でシュートを決める姿に、更に心臓を鷲掴みにされた。


でも私には中学校時代からの優しい真面目な彼がいる。

そして本田にも小学校から付き合っているという、目立つ美人ではないけれども癒し系の彼女がいる。


本田に愛しそうに笑いかけて貰えて、傍にいられる彼女が羨ましかった。

でも諦めていた。縁が無かったんだって。


なのに、松島は由真に目を移した。苦手だと言っていた、見え見えの女の罠に引っ掛かって。

私が本田への恋心を諦めて、真面目に松島と付き合っていたのに、松島はポッと生まれた恋心に素直になっている。なんだか、出し抜かれて置いてきぼりをされたみたいだ。


私だって好きな人くらいいるんだから。

努力すれば、由真みたいに女子力の高い女に成れる。


本田を見つめていれば、その彼女も目に入る。

由真のように作り込んでいない、素朴な女子だ。本田も腐れ縁のような付き合いを真面目に続けて、松島みたいに彼女に飽き始めていても、おかしく無い。


そしてかつての私のように、長年付き合った彼の隣にいる権利を疑いもしない鹿島さんを、私と同じ目に合わせてやりたくなった。現実を知ればいい―――そう思った。







それから。


―――亀井に本田が何か言うかと思ったけど、そういう事は無く。

私は何事も無かったように、亀井と付き合い続けた。

だけど本田と近づく目的で付き合っただけの相手に長く興味を抱き続ける筈も無く、次の冬休み、バスケ部の部活中に他の男子とデートした事がバレて、亀井と別れた。


本田と鹿島さんは相変わらずラブラブで、今では校内の殆どの生徒が、彼等の安定した関係に一目置いている。


もう一度手を出そうなんて、そこまで馬鹿な事は考えていない。だけど二人が別れれば良いのにって気持ちは消えない。

まるで呪いのようだ。こんな後ろ暗い気持ちを抱く女子が私の他に何人いるんだろう?


自分でも無駄な時間を過ごしているって、時々我に返って虚しくなる時があった。

だけど彼等の動向を伺う事を止めることができないままで。

私が彼らにどんな感情を向けようとも―――結局二人は仲良しのまま、卒業まで付き合い続けたのだった。




こうして私の不毛な高校三年間は幕を閉じた。



暗いお話で本当にスイマセンm(_ _)m 


お読みいただき、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 無理だと思って浮気しなかっただけの、妥協で自分と付き合ってる女より自分を好きだと熱烈に伝えてくれる女に傾くのは不思議ではないと思います。 浮気は嫌いですが、彼氏に対してこの子大分失礼ですし、…
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