夏目晴翔ー1
夏目晴翔ー1
「夏目君。進路希望調査、先生に頼まれてるんだけど、持って来てくれた?」
学級委員が急かしに来ている。もう提出期限を3日過ぎている。申し訳ないとは思っているんだけど。
「ああ、ごめんごめん!俺が自分で出しに行くよ!ほんとごめんね?」
俺はテキトーに謝罪の言葉を並べておいた。俺とは対照的な「the 真面目!」みたいな学級委員は、ほっとした様子で帰っていった。
「夏目ー!俺今日デートだから先帰るわ!」
「はあ!?デート!?いつの間に彼女作ったんだよ!まじかよー」
「まあ、そういうことだ。さらば童貞君!」
まじか。俺にだって彼女いないのに。自分で言うのもなんだけど、俺はまあまあモテる。でもチャラいだなんだと言われて、彼氏にはしたくないらしい。「何も考えてなさそう」だとか、「雰囲気はいいんだけどねぇ……」とか。とにかく何かが足りないらしい。まあ、別にいいけど。
そんなことよりも進路希望調査だ。どうするべきか。兄貴に相談?そんなこと出来ないよな。兄貴は俺たちきょうだいのために頑張って働いてくれている。そんな兄貴に……言えない。俺がどうしたいのか。家族のことを考えるなら就職が一番だ。兄貴だって高卒で就職した。俺もそうするべきなんじゃないだろうか。でも……
「あー!もう!」
俺らしくもない。ヘラヘラしていないと俺が俺で無くなる気がするっていうか、何ていうか。
「進路、か……。」
今日はなんだか家に帰りたくない。何かに悩んだ時はいつも海を見に行く。この学校から自転車で30分くらいだ。俺は夏のうだるような熱風を頬に当てながら、自転車でユルユルと海に向かった。