夏目郁弥ー2
夏目郁弥ー2
「おーい!こっちこっち!」
昼間のミスで19:00集合に間に合わなかった。地元の仲間は5人とも集まっていた。
「お前、相変わらず冴えないなぁ。
彼女できたか?ん?」
すっかり出来上がっている奴に絡まれる。俺は自分の首を締めているネクタイを緩め、席についた。
「そんな余裕無いっての。」
ビールを口にした。苦い。俺は酒もタバコも好きじゃない。特にビールは苦手だ。
「俺らん中で彼女いないの郁弥だけだぞ~」
ゲラゲラと笑い声が上がった。俺以外は全員まだ大学生だ。俺だって、同い年なんだから年齢的には大学生だけど、俺は社会人だ。
「就活どうなの?もうみんな決まってる感じ?」
「就活?そんなんさっさと終わらせたに決まってんじゃんか!あははは」
聞いてみるとみんな大手に内定をもらっているらしい。ズキッとした。みんな大学生活を満喫して、彼女がいて、大手に就職が決まっていて。好きな酒を飲んでいる。俺はどうだ。高卒で就職して、彼女もいなくて、小さな会社だ。好きでもないビールを背伸びしている。なんだか惨めな気分になった。
さっき会社で、自分の選んだ道だ。なんて言ってたくせに。心のどこかで悔しいと思っているのかな。そんな自分が嫌だ。
「ごめん、明日も早いし、先帰るわ。ごめんな。」
「はぁー?郁弥ノリ悪いぞ。」
「ごめんて、またな。」
俺は頼んだビールを残して店を出た。みんなから、現実から逃げるように。
帰り道で妹、弟たちの顔が浮かんでは消えた。俺は本当はどうしたかったんだろう。
早く帰ろう。早くあいつらのいる家に帰って、兄貴に戻ろう。俺は、あいつらの兄貴だってことを忘れないうちに。