夏目郁弥ー1
夏目郁弥
今日もバタバタとした1日が始まってしまった。高校を卒業して、就職。俺ももう22歳だ。俺は5人きょうだいの長男。両親は何年も前に事故で他界した。今はきょうだい5人でこの家で暮らしている。そりゃあ、俺の稼ぎじゃいい生活なんてできないけど、毎日が楽しい。
朝ご飯。卵のふんわりとした優しい香りが漂ってきた。
「郁兄!早くしないと遅れるよ?」
「悪い悪い!いただきます!」
いつも朝ご飯を用意してくれるのは妹の南海だ。学校一の優等生だ。
バタバタ!!!と大きな音が2階から響いてくる。
「やっべ!まじやっべえよ!ワックスない!!!!もう今日学校行けねぇよ!!!郁兄貸して!!てか借りる!!」
「ちょっと晴兄、ご飯冷める……聞いてないし」
俺のワックスを勝手に使ってるのが弟の晴翔。まあ、今どきの男子高校生って感じだな。俺と違ってスポーツやってました!って雰囲気がある。悲しいかな、俺は頼りない雰囲気らしい。
2階からまた1人降りてきた。香水の匂いがとてつもなくキツい。ご飯が不味くなる匂いだ。
「あ、慧海。また学校サボったの?先生怒ってたよ。」
「は?だから何?あんたに迷惑かかってないじゃん。」
「私達双子なんだから、あんたの評価が私にも少しは関係してくんの。迷惑。」
「ちょっと優秀だからって調子乗んなよ。あんたと双子とか私にとっても迷惑だから。」
いつもこれだ。昔は仲良しの双子だったんだけどな。一卵性だから同じ顔をしている筈なのだが、慧海は化粧をしている。スカートも膝丈の南海とは対照的に短い。パンツが見えそうだ。そうこうしているうちに小学生の歩心がいつの間にか朝ご飯を平らげていた。
「みな姉、僕今日日直だからもう行く。ごちそうさま。」
「気をつけてね。」
「頑張ってこいよ~」
俺もすかさず声を掛けたが、早くしないと遅れるよ、とでも、言いたげな目線を送られてしまった。
「夏目君さ、またここミス。もう何年目だっけ?」
「はい、すみません。以後つけます。」
俺はいつも上司に怒られている。本当に情けない男だとつくつぐ思い知らされる。他人が怒られているのを見ると、ホッとする自分にも嫌気がさす。ああ、早く帰りたいな。
「ごきょうだいを養っているのは大変だと思うけど、もう少し頑張ってくれないと……」
うるさい小言が続いている。俺には小鳥のさえずりだ。そう、いつものこと。ただ、きょうだいのこととか、両親のことを話に出されるのはあまりいい気がしない。あいつらは誰も悪くないから。俺がここで働いているのも、怒られているのも、全ては俺が選択した道だから。
ブーッ、ブッー。メールが届いている。地元の奴らからだった。
今日の夜飲み決定したから、お前も来いよ!
久々にみんなで会おうぜ。19:00集合な!
今日の夕飯の当番は俺じゃないし、今日は怒られて気分も悪いから行ってみるかな。俺は上司に言われた小言を頭の中でループさせながら、行く、と返信した。