王の事情
随分とお休みしてしまいました。
申し訳ありません。
少し文章が読みづらいところがあるかもしれませんが、
頑張って読んでください。
「アレクサンダー・フローガ。そなたに次ぎの任につくことを命じる。
フロ-ガ王国中に散らばる魔術の才能、資質を持つ者を探し出し、魔術兵士に育て上げよ。期間は三年だ。よいな?」
広大な部屋に王の落ち着いた声が響く。
若い王だ。二十歳にも満たない。
しかし、その風格と威厳は王座の主にふさわしいものであった。
「御意。」
ゆっくりと顔を上げれば、冷たい王の瞳が、アレクサンダーを見下ろしていた。
―お前には何も期待してはいない
そう王が言っているように思えて、アレクサンダーは思わずうつむいた。
そのとおりなのだ。王はこのアレクサンダー・フローガ、この国の元第一王子など必要としていない。むしろ邪魔だ。それをこの任務が何よりも物語っていた。
「よいのですか?我が君。」
その言葉にアルバート・フローガ、王はピタリと筆を止めた。次いで声の主をギロリとにらむ。宰相はその視線ににやりと笑って答えると抱えていた書類をドカッと机の上に置いた。
「まあ私にとってこの任務は得するだけで何の不都合もございませんがね。」
長いひげをなぞり、不機嫌な王の顔を覗き込む。
「しかし、あなたがその判断を下すとは思ってもみませんでした。驚きを隠せません。彼とは兄弟同然に育ってきた仲でしょう。まだ王となって日が浅いというのに、素晴らしい。」
わずかに目を伏せ、愁いを帯びた表情を見せる王。しかしすぐまた元の冷静で冷たい顔に戻る。
まるですべての感情に冷たい王の仮面をかぶせるかのように。落ち着いた声で言葉を紡ぐ。
「それがこの国の未来のためには最善の選択だった。アレクサンダーはこの先フローガ王国にとって害にしかならない。」
―氷の王。
宰相はアルバートの整った横顔見てふいにそう思った。
どんな状況でも誰が相手でも常に冷静に決断ができる王。国のためにはどんな犠牲だっていとわない。
たとえその犠牲が自分の唯一の肉親だとしても。
王に血のように赤い瞳を向けられ宰相は息をのむ。
―素晴らしい。やはり私の目に狂いはなかった。
「お前に命じよう。」
王が椅子から立ち上がる。それに合わせて宰相は跪く。
「アレクサンダー・フローガ、フローガ王国の元第一王子を暗殺せよ。」
「我が君の望むままに。」
一方、アレクサンダーは私室でベッドの上にうつぶせになって倒れていた。
「とうとう兄上に見限られた。」
そのままごろんとひっくり返り、アレクサンダーは面白そうに自分の顔を覗き込む、従者、または学友のリオをにらみつけた。八つ当たりだ。それはわかっているのだが、リオの顔と飄々とした態度が気に食わない。だがリオはますますニヤニヤするばかり。
「まっ、当然だと思いますけどね。今のあなたの存在は邪魔なだけですから。」
「……」
「あなたの存在は貴族たちにとって絶好の反乱のきっかけだ。元第一王子、前陛下の唯一の息子、たとえ王族の証の赤い瞳がなくとも充分に王足り得る。今の陛下に不満を持つ者たちはそれを大義名分に反乱を起こす恐れがある。」
プイっと再びそっぽを向くアレクサンダーに、リオはため息をつくと、近くにあった枕を彼の顔に向かって放り投げた。見事的中。
「たとえあなたにその意思がなくとも、陛下はあなたが簡単に貴族の傀儡になってしまう、と考えているんでしょう。だから反乱の意思がありその力ももつ中央の貴族からなるべく遠ざけようとあなたにあまり意味のない任務を与えた。魔術兵士は今、前王陛下と陛下によって十分すぎるほど集められてますし。ほんとに全然期待されてませんね。アレクサンダー様?」
バシバシと核心をついてくる言葉に傷つき、しばらく枕に顔をうずめていたアレクサンダーだったが、突然不気味に笑い出した。
「フッフッフ。いまに見てろ、兄上。絶対に兄上よりもたくさん優秀な魔術兵士たちを育てて、兄上をあっと驚かせてやる。赤い瞳を持たない王族でも役に立つんだぞ。くそ―。」
あまりものポジティブさにリオはあきれるというよりもあっけにとられた。そして再び深々とため息をつく。
「その可能性はほぼゼロ、いえ、確実にゼロですね。ただでさえ魔術を操れるものを見つけ出すのは難しいというのに、陛下は5人もの人間を見つけ、歴代最高といってもいいほどの魔術兵士に育て上げたんですよ。それに比べてあなたに一人でも兵士が育てられたら、驚きですね。」
ムウと顔をしかめるアレクサンダー。
「あなたは甘すぎる。自分が育てた兵を死地に赴かせるくらいなら、あなたは一人で戦場に飛び出すでしょう?」
アレクサンダーのふにゃけた横顔が一瞬で厳しいものへと変わった。
「僕なら……。僕が王なら最初から戦場など作らない。戦争が始まる前に終わらせる。必ず。」
「それは何よりも難しいことですよ?」
リオの言葉に、アレクサンダーは大きくうなずく。
「分かってる。父上でさえ無理だった。だからこそ人は僕のことを甘いというのだろうね。」
―まったく、この人は。時々こんな顔見せるから、つい期待したくなってしまうではないか。貴方が王だったらと。
そんなことを思っているなんて少しも顔に出さず、リオはビシッとアレクサンダーのきれいな額にデコピンを食らわせた。
「イデッ!」
涙目になってうずくまるアレクサンダー。
「なにするんだっ!今せっかくかっこいいこと言うところだったのに。」
下から涙目でにらみつけられても全然怖くない。
「どうせ「それでも、だからこそ僕は必ず自分の国を作って王になる。僕の言葉が本当だということを僕の国で証明してやるんだ。」とかなんとかいうつもりだったんでしょう。」
なぜわかったんだ!という表情が面白い。アレクサンダーに腹芸は全く向いていない。何を思ってもすぐに顔に出るからだ。リオはさらにアレクサンダーの高い鼻をつまむ。
「アレクサンダー・フローガ様には無理ですよ。」
「なじぇだっ!」
「何故って。王都のそこらの騎士たちよりもはるかに強いくせに、お忍びの際に毎度毎度チンピラから逃げ回ってるのは誰ですか?」
「うっ。でも怖いぞ。チンピラ。頭は悪い奴は特に。」
リオは冷たい目をアレクサンダーに向けた。
「リオ。君は僕の国の宰相になるんだって言ってくれたじゃないか。その宰相が僕を信じないでどうする?」
「何年前の話をしてるんですか!?私そのとき、8歳ですよ?」
「ひどい!約束破るなんて!」
「そうではなくてですねっ!」
ふと、リオは視線を感じた気がして窓の外を見た。そして向かいの塔のベランダに佇む、宰相を見つける。リオにみられていることに気付くと、宰相は小さくうなづいてから、部屋に引っ込んだ。
―何の用だろう。
「リオ、どうした?」
アレクサンダーに話しかけれ、我に返る。
「用事ができました。」
「えっ。」
「失礼します。」
アレクサンダーが10人の供とリオと出立してから一週間後。王国中に元第一王子アレクサンダー・フローガの事故死が伝えられた。
さてアーサーは誰でしょう?
次話、旅編スタートです。