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第四話「桜舞う!」

■アルス:七日前の四月三〇日。




 大陸都市ラーノス中央情報局次官と名乗る初対面の男「弥勒寺道義」に聞いてみた。


「『事象時戯の略儀』? どういうゲームですか?」

「世界各地の都市の代表者として十二人の参加者が集い、渡されたこの“チェスメキア”を奪い合う。勝利条件はゲーム終了時に全て集めきった者、というものだ」

 男が胸元のポケットから出したのは、まさにチェスでいうところのナイトの駒のようなものである。乳白色で透き通る石で出来ていた。


「これは重結晶石で精製されていて、あらゆる物理的負荷やナノマシン侵食にも耐えられるものだ。現在の人類では再現不可能なアイテムだ」

「奪い合うって、当然そこでは命の遣り取りがあるわけですよね」

「まあね。殺さなくても構わないが、このゲームは君らシグリヴァ専用ゲームだ。殺さずに斃すのがどれだけ困難か、君もよく知っているだろう?」


 当然だ。自分のようなシグリヴァ・タイプ一式“自己修復能力特化型スクルド”であれば、心臓を貫かれた程度では死なない。伝説のナイト・オブ・ラウンズの中には、頭部だけから復活した騎士がいたらしい。


「私達はこのゲームを“儀式”と捉えている」

「“儀式”? なぜです?」


「このゲームは十二年に一回、必ず開催される。我々人類はナノマシンの制御方法を喪ったが、ナノマシンは世界の何処かにあるはずの制御システムに従って稼動している」

「制御システム? 聞いたことないし、オレ達シグリヴァはバイオチップから命令を出してナノマシンを起動させていますよ」

「それはシグルーンと呼ばれるプログラムの話だ。私がいうのはナノマシンにかけられた三つの制限プログラム、『増殖制限』・『射程制限』・『時限制限』だ」


 ナノマシンの制限プログラムとは。

 ナノマシンは分子レベルで物質を変換して別物を生みだすが、これが制限無く行われると、究極的には地球そのものを別の物質に変えて破壊してしまう可能性もある。

 それを防ぐために、ナノマシンを製作した数千年前のクリエイター達が厳重にプログラムしたのが、三つの制限プログラムである。


 増殖制限は、ナノマシンの増殖と変換速度を制限するもの。

 射程制限は、体内から散布されたナノマシンが体外で生存可能領域を制限するもの。

 時限制限は、体外に出たナノマシンの生存時間を制限するものである。


「三つの制限はシグリヴァ各個体の特性と本人の努力によって大幅に変動があるが、制限そのものは数千年生き続けている。研究者達の考えでは、シグリヴァ達の体内にあるナノマシンは宿主マスターより上位に位置する命令に今も従っているらしい」

「それで、その制御システムは何処にあるかも不明なのに、存在は肯定するのですか?」

「その通り。その証拠が、このチェスメキアだ」

「このチェスの駒みたいのがどうして」

「『事象時戯の略儀』は十二年に一回開催されるというのは、必ず『事象時宜の略儀』進行委員会本部にチェスメキアが当該年度の四月一日に出現するからだ」

 後で知ったが、チェスメキアの出現箇所に進行委員会が本部ビルを建てたらしい。


「ゲームに必要な十二個のチェスメキアと百枚のカードからなるデッキ、ゲームのルールマニュアルが用意された祭壇に出現し、その回の幹事となる都市が儀式を進行する」


「百枚のカードデッキとはなんです?」

「それが君らシグリヴァへの参加特典だ。参加する都市の担当者が順番にカードを三枚ドローし、代表者たるシグリヴァにカードを渡す。カードは三種類あり『シグルーン』『アイテム』『イベント』だ」

 男はこちらには内容がわからないように裏返しで三枚見せた。いやらしい男である。

「何が当たるかは、まあ、運次第だな。このカードはそうそう悪くはないがね」

「今は見せてはくれないのですか?」

「見せるよ、参加してくれるならね」

 弥勒寺はそういいつつ、一枚をひっくり返した。


「一枚はコレだ。《限定蘇生》。一回限定ではあるが、自分で設定したセーブポイントに、セーブした時点の自分自身を復活させることができるシグルーン・カードだ」

「これが、さっき言っていた人生をやり直せるシグルーンですか?」

「その通り。君がどれだけ頑張って人を殺せるか不明だし、また反対に殺される可能性も高い。高いがコレがあれば、セーブポイントに戻って復活も出来る。続ける気がないのならそこでやめればいいわけだし、君にとっては非常にいいカードだと思うがね」

 確かに、失敗して殺されても復活できるなら、リスクは無きに等しい。


「二枚目は《錬成刀》というシグルーンだ。これは知っているね。三枚目は参加しなければ役に立たないイベントカードだ」

 男はカードを一枚しまい、二枚のカードをかざす。

「どうだろうか? 失敗してもリスク無く、錬成刀のシグルーンも手に入る。仮にゲームを途中で降りても、こちらは文句をいわない。それは選んだこちらの責任だしね」

「選んだ…それだ。なんでオレが選ばれたのです? ラーノスには世界最強の黄道騎士団もいれば天征騎士団もいるでしょう」

「大事なことを伝えていなかったね。『事象時戯の略儀』はいわば強制イベントだ。せっかくなので我々は協議では収まらない外交案件について、ゲームの勝敗で決める事を思いついた」

「オレはヤクザが権益を賭けて戦う麻雀の代打ちですね」

「まあ、そんなところだね。今回の参加都市も、色々と難しい案件を抱えていてね。君が勝ってくれれば万事丸くおさまるがね」


「で、なんでオレが代打ちなんですか?」

「私が今回の『事象時戯の略儀』で大穴を狙いたいからだ」

「………………………………」

「勿論、冗談だ。そんな目で見ないで欲しいな」

「まあ、賭けの対象になっているとは思っていましたが」

 かなり本気だったと思うけど、オレに賭けてくれていると思うと、嬉しくない事もない。


「君の師である響庵九月斎様が推薦したからだ」

師匠せんせいが!?」

「そう。君の言うように黄道騎士団を出したいが、彼らは虎の子だ。ここ数百年戦争はないが、もしもの場合に備えて手の内は晒したくない。そこで極力無名で腕利きのシグリヴァを雇いたい。そこで君の師に相談を持ちかけたところ、君に白羽の矢が立った」

「……師匠はなんていったのですか?」

 弥勒寺道義は薄く笑う。


「『アルスという男は太平の世でも、必要に応じて人を殺せる剣士だ』、とね」



 オレが腕利きかどうか、正直違うと思う。

 師匠の考えは今もって謎なままだ。

 会って直接話したいが、このゲームから百年は探し回ったのに影も形も見当たらない。


 当時のオレにはシグルーンはなかったわけだし、師匠の推薦だけでは根拠としては不十分だ。弥勒寺は本当の理由を話していなかった。それは理解していたけれども、オレは参加を決めた。

 オレには参加しなければならない理由があった。

 当時のオレが漠然と抱いていた疑問と不審。

 何より『事象時戯の略儀』に対する興味と、人を斬れるかもしれないという誘惑にオレは屈したのだ。


 そして、第三ターン。

 五月七日は終わり、五月八日の丑三つ時、桜が舞った。




 ■アルス:五月八日、〇二:三三



「驚いたぞ。そんなシグルーンを持っていたとは。隠していたわけではないな。この期に及んで発現したのか」

 ガヴァビスが驚くのも無理はない。誰よりもオレが驚いている。

 全くの無意識だった。気づいたら、ナノマシンが体外に放出されて、周囲のビルの破片を桜の花びらに換えていた。

 そばにいたカノンは、とっさに闘気で覆うことで守れたが、間に合わなかったらと思うとゾッとする。


「おにいちゃん!」

「心配無用だ。それよりもこの刀、オレがもらうよ」

 オレは魔剣『心炎』に闘気を込めると、『心炎』から電流が流れ、脳に痺れるような刺激を受ける。すると、どんどん力が沸き上がり、闘気が増幅されるのがわかる。


「ガヴァビスにそちらの忍者を、刀の錆にしてやる!」

 まずは目標をビルの壁際にいる忍者に定め、全力で大地を蹴り前進しつつ、闘気を『心炎』に集中させる。

「宗像土門だ。見知りおくといい」

「上等だ! 響派九月流《白鯨》!」

 刀身で球状に溜められた闘気を珠として放つこの業は、別名《発剄魂》。

 物理的破壊力は低いが、生命体相手には絶大な効果を持つ。


「土遁《昇流障壁》!」

 土門の足元から、横幅三メートル×高さ二メートルほどの壁が勢いよくせり出し、《白鯨》はわずかに壁を削って防がれた。

 この男のシグリヴァとしてのタイプは三式“物質変換型ゲンドゥール”。

 土を火薬などの別の物質や形状を換える機能と見た。


 オレは勢いのまま前進し、心炎を壁に突き通す。

「散れ!」

 刀を通じてナノマシンを壁に注入し、桜の花びらに変換する。

 眼前には待ち構えていた土門が、棒手裏剣を投擲する瞬間だった。

「これはかわせまい!」

「《不知火》!」

 闘気の残像を残し、オレから見て右側に、土門から見て左の真横に移動。

 棒手裏剣は残像を貫き、空しく大地に堕ちる。

「響派九月流《猿廻》!」

 遠心力と共に放たれる、右から左への横薙ぎ。

 土門はわずかに胸元を斬られ花びらを数枚散らされながらも、後方に回避した。

 この男の体捌きは相当に素早い。流石は忍者といったところか。


「!」

 追撃しようとした矢先、数百発の弾丸が周囲を激しく叩く。

 横から邪魔をしてきたのは、当然――

「ガヴァビス!」

「悪く思わないでほしい。当然の戦略だ」

 当然な事であっても、危害があれば悪く思うのが人情だと思うが、彼は違うのであろうか。弾丸の雨のうち、三発ほど左肩とわき腹に喰らってしまった。


「土遁《昇流障壁》!」

 土門がガヴァビスのいる方向に壁を造り出したおかげで、ひとまず弾丸の雨を凌げる。

 オレはその隙に土門を狙い撃ちにさせてもらう。

「当然の戦略だ。悪く思わないでくれ!」

 あ、ガヴァビスと同じことを言っている。

 右からの刺突を放とうとするが、土門は一瞬早かった。


「土遁《地殻昇流》!」

 土門の足元が猛スピードで隆起し、その勢いでビル壁面に沿って上昇する。

「並びに忍法《壁走り》!」

 土門は上昇途中から壁に足裏をつけて走り出す。

 恐らく足裏が壁に接した際に、壁面を粘着性の土に変換してグリップを生み出しているのだろう。

「それなら! オレも忍法《壁走り》だ!」

 オレも壁面を駆け上がり、土門を追撃する。

「何、どうやって!?」


 タネは簡単。足裏から鉤爪状に錬成刀を出し、壁に穴を開けつつ走る。鉤爪に闘気を流す事により切れ味をよくすることで、簡単に壁面に引っかかる。

「《壁走り》はオレの方が早いようだな!」

 返答は無言の棒手裏剣だった。オレは刀で弾き、土門に迫るが、再びガヴァビスの邪魔が入り、多弾頭ミサイルが襲いかかる。

「五月蝿いヤツめ。少しは黙って見ていられないのか」

 オレは悪態をつきつつ、回避の為に左斜め上に方向を変え、土門はそれを見て右斜め上に方向を変える。


「アルス、俺は君の事は気に入っているが、勝負となればあえて背中から襲う。それは君が十分に強いと認めたからだ!」

 ガヴァビスも、随分と勝手な言い分をしてくれる。文句の一つでも言ってやろうと振り返れば、今まで二つだけだったミサイルポッドが倍の四つになり、両手にはバズーカ砲が握られていた。

「な、今まで本気で攻撃をしてこなかったのか!?」

「本気だった。ただ、切り札は隠し通すものなのでね」

 しかも、ガヴァビスに気を取られているうちに、土門が十階建てビルの屋上まで昇りきった。

 昇りきったのなら、当然、続けて昇りきろうとするオレを万全に迎撃できる。

 前門の虎に後門の狼。

 絶体絶命の死地!

 屋上まで昇りきるまであと五秒!


「大洋の流れに踊らされる難破船の如く砕け散れ! 《破船絶禍アスピドケロン》!」

 ガヴァビスの背中のミサイルポッドから放たれる三十六のランダム飛行型ミサイルと両手のバズーカ砲から発射された二つの砲弾。

 それらはオレの四秒後に昇りきる予測ポイントを目掛けて飛来する。

 これらは防ぎようが無く、また防いだと仮定しても、屋上で待ち構える土門からの攻撃はモロに喰らい、どちらにせよ確実に死ぬ。

 見れば土門は片手に三つ、合計六つの棒手裏剣を構えている。

 残り二秒。

 昇りきった最上階で待つのは確実な死!


「昇りきれば、だけどね」

「「!?」」


 土門からはオレの姿はほとんど見えないだろうが、オレは方向を左の真横に変え、ビルと水平に走る。

 そして、ビルの端に辿り着くと、迷うことなく宙に飛んだ。


「なんだと!? 気でも違ったか!」

「いや、上に行けばアンタの爆撃と土門の攻撃を喰らう。なら下に行く。当然の戦略だろ?」

 オレの頭上ではガヴァビスの《破船絶禍アスピドケロン》がビル屋上付近に炸裂して大爆発を起こしているが、爆風は上に行く性質がある。下に向かって急降下中のオレには影響が少ない。

「いくらシグリヴァでも、ビル十階の高さから落下してただで済むものか……!?」

 ガヴァビスのセリフが尻切れとんぼになったのは、落下地点に向かって一直線に走ってくるマシン、CBFW一三〇〇“音速最強!ブルーコメット仕様”を見たからだ。


「待たせたな、ブルブリッツ!」

 オレは疾走する愛機のシートに着地し、機体は落下の衝撃で横倒し寸前まで傾いたが、すぐに元のポジションに戻った。これは荒っぽい乗り方をするセレナを想定して、オートバランサーの調整には念を入れて製作していた結果だが、ここでも役に立った。

 先程、オレがガヴァビスのチェーンソーで吹っ飛ばされた後も、ブルブリッツはオートバランサーのお陰で転倒せずに済み、その後はオレのバイオチップからの脳内アプリにより自動操縦に切り替えて周遊させておき、このタイミングで呼び寄せた。


「一直線だ、わかるよなブルブリッツ。眼前に立つ者、みんな敵!」

 シートに立つオレを乗せ、相棒バディは全速で疾走する。

 一方、ガヴァビスは迎撃すべく、両手のバズーカ砲をマシンガンに変換してトリガーを引いたが一発も弾は発射されず、カチリと心許ない音だけを響かせた。

「出ない、増殖制限による弾切れか!」

「そういうことだ。あれだけの大火力による弾を発射したんだ。弾丸の再生産にはもう数秒必要なハズだ!」


「オォオォオオッ!」

 ガヴァビスは右手のマシンガンをチェーンソーに切り替え、大きく振りかぶる。

「破ァアァッ!」

 オレは右脇構えを取りつつ、刀身に闘気を奔らせる。

「ガァッ!」

「破ッ!」

 交叉の瞬間、両者の刃が真っ向からぶつかり合い、火花が暗闇に散る。


 ガギィンッ!


 ガヴァビスのチェーンソーがオレの魔剣『心炎』によって切断され、その勢いのまま、ガヴァビス頭部の中心部を真横に一閃。


 ギャリギャリギャリッ!


 オレの立つブルブリッツが車輪の音を響かせて行き去った。

 オレはシートに座り、バイクをターンさせて止めた。

 残心を怠らず、周囲の警戒も忘れず、静かに佇む男を見つめる。

 すると、男は振り返らずに呟く。


「面白かった。またろう」

「ああ、いつかどこかで」

 オレには、顔は見えずともガヴァビスが笑っていることが判った。


 ザザッ!


 ガヴァビスの頭部の中心真横に線が走り、そこから桜の花びらが散る。

 魔剣『心炎』を通して注入されたオレのナノマシンが、ガヴァビスの頭部を桜の花びらに換えたのだ。

 頭部を喪った首から下は、百年の闘いの疲れを受け入れるかのように両膝をつき、そして、倒れた。


 危なかった。

 セレナがこのバイクを持ってきてくれなければ、そしてカノンが拾ったのが魔剣『心炎』でなく、オレの力を引き出してくれなければ、確実に負けていた。

 初めて人を斬り、殺したけど何の実感も湧かない。

 ただ、自分が生き残った事がむしろ衝撃的であって、それ以外に心が働かない。


 すると数箇所からパチパチと手を叩く音が聞こえてくる。

 方向は上と右からだ。

「見事な機転だ。そのバイクを足代わりにして機動力でガヴァビスを制圧。感服したぞ」

 高い場所から、上から目線な物言いは土門だ。

「右に同じく。ガヴァビスとは百年来の付き合いだが、まさか年端もいかない子供に敗れるとは……これだから闘いは面白い」

 そして右からは、黒い棒術使いのエンクスとかいう男。

「二人とも、喜んでいただけたのなら望外の喜びだ。今にもっと楽しませてあげるさ」

「なかなか言うじゃないか。だが、まず勝者の権利として、ガヴァビスの持っていたチェスメキアを回収するといい。それまでは停戦しよう」


 ガヴァビスの死体に目を向けると、身体から白い煙が立ち昇っている。

 徐々にであるが、首から流れている紅い血が白くなっていく。その速度は増していき、ついには全身が白くなり、砂のように崩れていった。


「アポトーシスが働いたか。ガヴァビスの百六十年に及ぶ闘いの人生も“雄大なる大陸都市ラーノス”にて塩の柱となりぬる、か」


 そう、シグリヴァは死ぬとナノマシンに仕込まれたプログラムに従ってアポトーシスが働き、塩となって風に散る。


 エンクスは胸元に手を当て、その死を悼んでいるようだ。

「俺がガヴァビスの死を悼むのが意外か?」

「そりゃそうさ。だって殺しあっているんだろ?」

 オレはバイクを前進させ、塩の塊となったガヴァビスの死体跡から二個のチェスメキアを見つけ出し、それをポケットにしまう。


「それは違うぞアルス。敵と殺しあう事と、強敵の死を悼む事は別物だ。ましてガヴァビスとは手を組むこともあり闘う事もあった百年だ。これで何も感じないとすれば、我らシグリヴァはただの人型戦闘機械だ」

「人型戦闘機械と違うのか?」

「何?」

「違わないだろ、オレ達シグリヴァは人型戦闘機械だ。この塩になった男がその最たる例だろ。手から銃をだして肩からミサイルを撃って、これで戦闘機械でなければなんだって言うんだ。なんの価値があって呼吸しているんだ?」


 オレの叫びは夜の虚空に吸い込まれ、五月の夜の空気は冷えていた。

 エンクスも土門も何処からも返答もなく、オレは周りにいる連中に対して苛立ちを募らせた。

「誰も答えないのか。まあいいさ。どうせオレにとってお前達に見出すべき価値なんて、ゲームの景品程度のものだ。みんなすぐに塩に換えてやる」

 オレはアクセルを回し、次なる獲物を見定めようとした時だった。


「お兄ちゃん、上!」

 ビルから出てきたカノンの指が、オレの頭上を指す先に『ソレ』はいた。


「…ッな、いつの間に!?」


 白い仮面に白いマントを纏う何者かが、宙よりオレを睥睨していた。


「白い仮面にマント、まさか伝説の殺人鬼………“スヴァーヴァ”!」


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