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第二十二話「『殺人鬼』は手の鳴る方へ」

■五月十五日、〇一:一七




 広い空間にただ一つだけの拍手は、どこか寒々しい。


 また、拍手にも二つ意味がある。

 一つは賛辞を贈る場合。

 そしてもう一つが、相手を嘲弄する場合だ。

 同一の行為であっても、真逆の意味を持つ行為は、それも相手に自分の気持ちを簡単に伝えられる拍手というツールは、非常に優れているのかもしれない。


「お兄ちゃん、ケガは平気?」

 可愛らしく首を傾げながら心配そうに聞いてくるカノンに、オレは努めて何時もの調子で応える。


「もう大丈夫。カディが修復してくれたよ」

「そう、良かった。お姉ちゃんの面目躍如だね。他人のケガを治せるなんて、さりげなくポイントが稼げてお得だよね」

「オイオイ、カディに惚れているのはオレだよ。今更ポイントも何もないさ」

「そっかー」


 カノンは惚けた顔をしてケラケラ笑うが、オレは一緒になって笑えなかった。


 それは、この場にカノンがいる違和感。

 十二人のシグリヴァが闘うゲーム盤の上に、十二歳の少女がいる不自然さ。

 死ぬ程の大怪我をしたのに、何事もなかったかのように振る舞う奇怪さ。


 いや、その理由は気づいている。

 最早、避けて通る段階を超えているのだろう。

 少なくとも、目の前の『敵』はその大きな紫闇の瞳で告げている。


「カノン、これは確認だけど、キミはカディの本当の妹じゃないよね」

 オレの確認に、ジンは驚き、カディは哀しげに表情を沈ませた。

 そしてカノンは、あっさり頷いた。

「そうだよ。私の妹期間はゲーム中限定のレアキャラ扱い。最終ターンのこの夜が明ければ、私たちは他人になる。あ、もともと他人だったね」


 あっけらかんとした『妹』キャラ中のカノンに、僅かながら怒りを覚えた。


「どういう事だ? あれはカディ・ケースの妹じゃないのか?」

 ジンはカノンを警戒しつつ、オレ達に辛い事を聞いてきた。


「ええ、あのコは私の妹じゃないわ。恐らく何らかのシグルーンで私の記憶に介入して、私の中にある死んだ妹の『カレン』の場所に滑り込んだのでしょうね」


 カディの妹は『カレン』というのか。

 そして、カディの『偽りの妹』はパチパチと手を叩く。

「ご明察。さすが、私のお姉ちゃん。私のシグルーン《シュミラクラ》は人の記憶を変換する。お姉ちゃんの護りきれなかったトラウマである『カレン』ちゃんへの想いに介入して、妹に為らせていただきました」


 カノンの言葉に悪意はない。

 しかし、カディは十分に傷ついたのが伝わる。

 オレは一歩前に出て、カディをカノンの視線から遮った。


「ここにいてチェスメキアを持っているって事は、キミもプレイヤーの一人と看做していいわけだ?」

「そうだよ。私も今回開催された十二人のシグリヴァによる『事象時戯の略儀』のプレイヤーの一人」

「だけど、キミがプレイヤーの一人とすれば人数が合わないぞ」


 オレの知る限り、今回のプレイヤーはオレ自身とカディ、ジン、土門、エンクス、スコール、ガヴァビス、名前の知らないおばあさん、レンダ、オケアノス、ヘング、煨来の十二人のはずだ。


「うふ、お兄ちゃんは大事な事を忘れているよ。シグリヴァの中には死体を操る六式“フリースト”と呼ばれる遠隔操作に特化したタイプがいる」

 あのおばあさんの事か。

「例えばだけど、自分があまり強くなければ、強い人の死体を使って替わりに闘わせるってのも、戦術として当然アリじゃないかな?」

「つまり、カノンもあのおばあさんがやっていたみたいに、誰かは知らないけど死体を操っていたわけだ。でも、死体は持ち込み不可のハズだ」

「うん、そのとおり。『死体は』不可だよ」

 それで判った。

「なるほど、生きた状態でゲーム盤に来てもらい、その場で殺したわけだ」

「ご明察! 私は煨来さんを騙して呼び出し、彼を殺して操っていたの」

「記録を見る限り、アイツも相当な強さだった。それを他のプレイヤーに気付かれずに殺すなんて、カノンは相当な腕利き………!?」

 ニヤニヤ笑うカノンを見て、答えがわかった。

「そうか、殺人者を雇えばいいのか」

「お兄ちゃんも中々スルドイね」

「そりゃどうも。それにしてもカノンもそんな凄腕を見つけて雇うなんてスゴイじゃないか」


「簡単だったよ。響庵九月斎様にお願いしただけだったし」

 オレの心臓が大きく鳴る。

「せ、先生が?」

「そうだよ。九月斎様は煨来さんを一秒で殺して、私から百万カルマン(約一億円)を受け取って帰ってよ」


 カノンが百万カルマンも持っているのもビックリしたけど、先生が殺人を請け負っていたことにも驚いた。

 オレに稽古をつける時に、あれほど刀を血で汚すなと散々いっていたのに。


「でも今回はさすがに死ぬかと思ったわ。やっぱりお姉ちゃんにくっつくだけじゃダメだよね? お兄ちゃんがいてくれて良かったよ」


 仮であっても『姉』をいたぶるような言動に、オレは遂に怒鳴った。


「カノンがゲームに参加してカディを騙すのも、キミの事だからそうしなければいけない理由があるからなんだろう。しかし!」


 オレは今や正体不明となった少女を睨む。


「カディをバカにするのはやめろ!」

 すると、カノンはクスクス笑い出した。


「違うよ、お兄ちゃん。私はバカにしているんじゃないよ。事実を伝えているの。受け取り方は人それぞれ。私は人の見解に責任は持てないよ」

「政治家みたいな言い回しをするじゃないか」

「それと一番大事なコトだけど」

 オレの言葉はスルーかよ!


「私は『そうしなければならない理由』があるからお姉ちゃんを騙していたんじゃないよ」

 騙していた事は認めるのか。


「そうしなければならない事だけ(・・)しか私はしないの」


「その期間限定のレアキャラ妹バージョンも必要な事なんだ?」

「そうだよ。お兄ちゃんに守ってもらうために」

「オレに? カディじゃなくてか?」


「そうよ。そんなに不思議なコト? だって、一度は大切な妹を守りきれなかったお姉ちゃんに、私を守りきれるわけないでしょ?」


 その言葉は鋭くカディの心を抉った。

 カディは呆然として妹『だった』少女を見ていた。

 と同時に、家族を守れなかった男が激昂する。


「勝手な事をベラベラと! どんなに大事でも想いだけで守れるなら世界から俺のような馬鹿は生まれやしない!」

「そうだよ。だから『守れる人』を選ばなきゃいけないの。お姉ちゃんでなく、ジンさんでもない。お兄ちゃんを選ばなきゃ生き残れなかった」


 カノンの口調に淀みはなく、暗さもない。むしろ、それを理解できない人が理解できないといった風情だ。

 一方のジンは怒り心頭であり、今にも襲い掛かりそうな気配だ。


「ジン、落ち着け。乗せられているぞ」

「う……」

「乗せてなんかいないよ。私は事実だけを―」

「はいはい、それはいいからオレの質問に答えてよ。なぜオレを選んだ? 参加プレイヤーではオレは無名だ。それなら実績もあり、名の知れているジンを選ぶだろ普通」

「百人いて、九十九人選ぶような選択になんの意味があるの?」

「……なんだって?」

「質問に答えるよ。理由は『無名』だったから」

「またトバした理由だね。それで死んだらどうするんだ?」

 するとカノンは何時ものように小首を傾げてみせた。


「別に。私に見る目と判断力がなく、それまでだったってだけだよ」

 そこまで言うと、オレに鋭い視線を向けてきた。


「私は今回のゲームは様子見で、次回の十二年後に優勝するスケジュールを組んだよ」


 さも当然のように優勝を口にするとは、どれだけ自信があるんだ?

 それとも、オレが全く見通せない程の力を隠しているのか?

「その矢先に、世界最強都市国家であるラーノスが、無名の高校生を出してくる時点で何かあると思った。調査をすると『A・R・S』というナゾの存在に行き当たった。さらに調査を進めると『アルス』と呼ばれた人が、過去に何十人といたことも判明した。そして記録や写真、画像など消去処分になっている事も判った」


 あの海であった『アルス』達はなかった事にされていて、それでも成仏出来ずにいるのかと思うと、同族以外の理由で心が熱くなってくる。


「だから賭けてみようと思った。チャンスを伺い、お兄ちゃんの『妹』になって、危険が及べばすぐ側で守ってもらう。そして観察してその秘密を暴こうと思った」

「第三ターンやさっき死にかけて生き返ったのは僥倖だ」

 オレの言葉に、カノンは肩をすくめる。

「でもこうして生きている。私の判断に誤りはなかった」

「認めるよ。それにしても中々の演技派だね。あんなに可愛らしいキミが、心の中ではオレやカディをそんな風に思っていたなんてね」

「可愛いだなんて……もう、当たり前なんだからハッキリ言わなくても良いのに」

 カノンは言ったこちらが困るほど、盛大に照れて身をくねらせた。


「でもね」

 身体のくねりを途中で止めると、ギョロリとオレを見る。

「演技なんかじゃないよ。私、『カノン・ケース』という存在は頑張り屋でお姉ちゃん想いの可愛らしい萌系の妹キャラ設定だから。記憶も封印していたしね」

「記憶の封印?」

「そうだよ。私が『カノン・ケース』にした命令は二つだけ。ゲーム期間中は必ずゲーム盤に留まる事と危険を感じたらお兄ちゃんを探して頼る事」

「記憶を封印して、よく齟齬なくここまでこれたね」

「一応、修正を入れる必要もあると予測して一日二回、朝起きた時と午後九時に三分だけ『私』が目覚めて指示出しするようにしたけどね」


「その予測や分析力、行動力と覚悟。いずれもオレなんかを超えている。キミは見た目通りの年齢ではないのかい?」

「失礼だよ。私は見ての通りの十二歳の女の子だよ」

「凄すぎて信じられないよ」

「うふ、私は産まれた瞬間から脳内のバイオチップがネットに接続状態だったの。お陰で退屈する事もなく常時お勉強出来たわ。困った事と言えば、すぐにお腹が空くのと自分でトイレに行けなかった事だよ」

 分かったような分からないような感じだけど、まあいいさ。

 さすがに面倒になってきた。


「で、最終ターンでラスボスとしてご降臨されたのはどういった御意で?」

「モチロン、お兄ちゃんとの対決。今回のゲームの勝敗は見送ってイイけど、せっかく残ったのは二人なんだし、勝負しようよ」

「このオレと勝負? キミの力は不明だけど、仮にもオレは『伝説の殺人鬼スヴァーヴァ』だぞ。そうそう負けはしないよ?」


「うん、だから二人でルールを決めようよ。普通に対決を希望するなら私も断りきれないけど、どうせお兄ちゃんに私は斬れないでしょ?」

 随分と見透かしてくるが、正鵠を射ているだけに言い返せない。

「いや、オレがカノンを放ったらかしにするという選択肢もあるさ」


「ないよ」

 即座に断言された。

「なんでそう言い切れる?」

「お姉ちゃんの夢を叶えるためには『群青の通商許可証』が絶対に必要だからだよ。それ以外の方法で、種牛を船団都市に持ち出す方法は、政治的にも法的にも不可能だから」


 恐らくオレの後ろにいるカディはガックリしているだろうと思ったが、それは間違っていた。カディは前に出てオレと並ぶ。


「カノン、私はアレキサンドリアに種牛を持ち帰り、産業として育てる事に命を懸けている。その夢は、一日で成し遂げられるほど軽くはないわ」

 鮮やかな碧眼に強い決意を宿して宣言するカディに、カノンは初めて『無邪気』以外の表情を見せた。


「なら、お姉ちゃんが勝負してもいいよ?」

「パスするわ」

「は? 会話に割り込んできてそれ?」

「貴方に私が教えられる事は一つしかないからね」

「へぇ、お姉ちゃんに教えを乞う事があったなんて……私も未熟だね。で、ソレを私に御教授いただけるのですか?」

 ひどく上から目線な妹に、姉だった存在はニッと笑う。


「簡単よ。『世の中は、何でも自分の思い通りになると思うな!』って事よ」


 カディの紅い唇の片方が釣り上がるように形作り、僅かにカノンの眉が微動した。


「ご教授、痛み入ります」

 これが、カノンのプライドであった。

 その彼女は視界に映る『お姉ちゃん』を無視して、無理矢理オレに向き合う。


「で、お兄ちゃんはどうしたいの」

 若干だか口調から怒りが伺え、オレに少しだけ余裕のようなものが出来た。

 が、そうでない男がキレてしまった。

「もう付き合いきれるか! 一人で死ね!」

「待って、ジン!」

 カディは慌ててジンを止めようとするが、もうどうにもならない。

「《塵壊破》!」

 ジンの右手から容赦無用のナノマシンが放出され、真っ直ぐカノンに伸びる。その速度は例え達人であっても、初動で動けていなければ回避出来ない。

 一方、カノンは棒立ちだ。


 余裕の表情で。


「《終幕を告げる魔獣の御名(バジリスク)》」


 カノンの大きな紫色の瞳が、より一層大きく開かれた。

 すると『塵壊破』の白い靄が霧散する。


「なっ!?」

 ジンは自信の根源たるシグルーンを防がれ、信じられないような顔をしていた。

 オレというと、カノンの余裕っぷりからして、ジンを止める必要はないと判断していたのでそれ自体に驚きはなかった。

 ただ、脅威だけはハッキリと認識した。


「ジンさん、貴方はゲームを降りたからシグルーンを使うのはルール違反よ。でも一回だけなら見逃してあげる。どうする?」

 カノンは含み笑いをしながら、敗者の顔をしたジンを眺める。

「ジン、カノンの言う通りだ。こちらがルールを破る姿勢は敗北を認めるのと同意義だ」

 オレの言葉に、ジンは悔しそうではあったが、素直に頭を下げた。

 この男は敗北を覚えて素直になったのはいいが、どちらかと言えば子供の素直さであり、精神的には退行した気がする。

「今のはオレの過ちだ。もうしないから許してくれ」

「うん、いいよ」

 カノンはアッサリと謝罪を受け入れ、脳内アプリに表示されたルール違反を指摘していたポップアップは消えた。


「で、どうやって勝負するんだ? カノンが決めてくれていいぞ」

「そうだね……私を殺せないお兄ちゃんに殺人を求めれば公平性を欠いてツマラナイ。だから『鬼ごっこ』なんてどう?」

 意外な提案にオレは拍子抜けした。


「『鬼ごっこ』って、逃げ回る人に鬼がタッチ出来たら鬼が勝ちってやつかい?」


「そうそう。モチロンお兄ちゃんが鬼で私が逃げ回る役。剣で斬るのもあり! とにかくお兄ちゃんか、お兄ちゃんが手にしているもので私に触れたらお兄ちゃんの勝ち。反対にゲーム時間終了前……今日の夜明けは五時十一分だから、五時まで私が逃げきったら私の勝ち。これでどうかな?」


「ふむ、鬼ごっこかぁ……」


 オレは考える仕草をしつつ、カノンとの距離と対象の筋力を測る。


「オレはタッチするだけで良いのかい?」

「うん、カンタンでしょ?」

 聞いたオレはウンウン頷く。

「ナルホド~」


 ここで跳躍一つ!

 オレは一息でカノンまで跳躍し、タッチする……!?


「いない?」


 すると目指す人の声は、右側から聞こえてきた。

「あらあら、お兄ちゃん、飛ぶ方向が違うって」

 クスクス笑うカノンを見て、オレは方向が左九十度違っていた事に気がついた。

「この現象、過去の記録で見せてもらったのと同じだね」

「うーん? 何の話?」

「惚けなくていい。今のは間違いなくオレのかつてのパートナー、オケアノスの方向を変えるシグルーンだ」

「うふ、イキナリ強姦する勢いで飛び出して一方的に非難するなんて、男らしくないよ」

「開始時間に指定はなかったハズだけど」

「あ、そっかー。まあ、順番に説明するから」

 するとカノンは背中のリュックを下ろし、カバーを開けて中をゴソゴソし始める。

「このリュック、覚えてる?」

「覚えてるよ。キミが『命より大切』って言ったリュックだね」

「そう、この中に入っているのはガラクタじゃないよ。お兄ちゃんが魔剣『心炎』をここから抜き取ったように、この中には宝具が入っている」

 まるで盗人扱いされたオレはちょっと困った。

「ゴメンよ。アレはオレと一体化したから返せないよ」

「うん、いいよ。でね、さっき私が食べたサプリも造血を促してカロリーも同時に補給出来るの。ちなみに一粒でラーノスの一般的な会社員の月給に相当するわ」

「なかなかブルジョアじゃないか」

「うん、私、お金に困った事が一度もないの」

 ズイブンな事をサラッというじゃないか。


「私たちのゲームは『鬼ごっこ』であり『かくれんぼ』。私はお兄ちゃんの視界から逃れたら何処かに隠れるから見つけてね。場所はもう決めているから、そこに着いたら逃げ回ったりしないよ。モチロン、妨害もするからお兄ちゃんはそれをかわすなり排除するなりしてね」

「それは了解したけど、オレがキミを見逃すと思うのかい? オケアノスの方向転換はもう通じないよ」

「心配しなくていいよ。ちゃんと考えているから…ジャン!」

 カノンは口で効果音を付けつつ、リュックから分厚い文庫本を取り出した。


「あれは!?」

「まさか持っていたのか!?」

 カディとジンは説明を受ける前から戦慄していた。オレの目には表紙の半裸に近しい萌系少女イラストから、ただのライトノベルにしか見えないのだが。


「宝具・魔導書ルーンブック『屍喰教典儀』!」


「ルーンブック? 何それ? スゴイの?」

「ふふ、無知は力かしら。でもちょっと残念だよ。カンタンに説明すると、これはブック型のシグルーン発生器。要するに、この本がナノマシンを生産して増殖、そして効果を発動するの」

 説明を聞いてヤな予感がする。

 それも途轍もなく。


「理解が及んだのなら次はこのルーンブックの効果を教えたげる。この本は対象の血肉を記憶させる事により、記憶した対象を再現してコントロールする事が出来る」

 イカン、コレは最悪なパターンだ。


「アルス、油断するな。ルーンブックは選ばれし者のみが手に出来るとされる伝説級の宝具だ。誰が製作したかも、どういった原理かも全く解明されていない。一体、どうやってアレを手に入れたんだか」

 ネガティヴ情報をありがとう。


「私が記憶させたのはこの二人。まずは一人目」

 ルーンブックからナノマシンが散布され構造構成が開始。

 紅い血が舞い、肉が組み立てられ、骨が形成され、互いに組み合い、人型を取る。


「雷を友に駆け抜ける二刀流の雷剣士、“雷駆”ヘング!」


 緑色の髪に黒い肌。帯電したかの様な金色の瞳。

 オレはこの男を知っている。

 オレの過去の記録で姿だけ見た男であり、第一ターンにオレに殺された優勝候補の一人。


「うふ、ちょっとビビってない?」

「今さらあるか!」

「そう、なら二人目も問題ないよね」

「オウよ! 何人でも喚び出せ!」

「ではご期待に応えて二人目。全ての大地を自らの『領海』に換える大洋の支配者!」


 いや、待て。その男は……!


「さあ、その雄姿を今この場所に!」


 ナノマシンが徐々に姿を構成し、かつて隣に並んでいた男を造り出す。

 その男の名は……!


「“滄海のオケアノス”!」

 オレの叫びに、呼ばれた男はカッと眼を見開いた。


「ふむ、三時間ぶりくらいか? アルス。よく生きていたな」

「とっくに一週間過ぎてますよ、オケアノス」

「ん、何処か口調が他人行儀だな」

「オレは一度死んでいるんでね。オケアノスさんとのやり取りも知識でしか知らないのさ」

「であったか。だが、知るも知らないも、喚び出されてしまえば全力で当たるしかない」

「心配無用さ。どちらに転ぼうと、勝つのはオレだ」

「ふむ。なれば良し。隣にいるヘングも、自身の仇を討ちたいであろう」

 オケアノスは隣のヘングに水を向けるが、

「……」

 無言であった。

 オレはこの男について、顔しか知らない。スコールが見せてくれた記録も、ヘングとの闘いだけは端折られていた。


「ちゅうもーく!」

 そこでカノンが手を叩き、視線を集める。

「さて、旧交を温めるのはこの辺でいいよね。そろそろ始めるから、お姉ちゃん達はビッグサイトの敷地から出て。ああ、言い忘れたけど、私はこの建物の敷地内にいるから。トイレも隅から隅まで見た方がいいよ」


「カディ、ジン、敷地から出てくれ。オケアノスのシグルーンは厄介だ」

「分かったわ。しっかりね」

 カディは余計な事は言わずに館内から去る。

「吉報を待つ」

 ジンはそれだけ言うと、サッと気配を消した。


 カノンは律儀に二人がいなくなるのを待っていた。


「これで心置きなく闘えるかな?」

「ああ、お互いアヤをつけないで済むね」

「おっけー。今の私の力量で喚べるのは二人が限度。三人目はいないよ。それじゃあ残り四時間弱、ガンバってね!」


 カノンの前に立つヘングとオケアノスが体勢を低く構えつつ、鋭い眼光でオレを射抜く。

 どうやら、このまま真っ直ぐカノンを追いかけられないようだ。


 カノンが手を打ち、舌ったらずな声で呼び掛ける。


「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」


 オレは魔剣『心炎』を閃かせ、手の鳴る方へ駆け出した。



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