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第十二話「断章:不在の五月四日」

※今回は短いので、次話と連続投稿します。

■五月十二日、〇〇:〇〇



 全く眠れない。

 昼間も部屋に閉じこもって寝ているわけではない。

 逆に眠れないのだ。

 寝れば夢でいなくなったみんなに会ってしまう。

 一人、助かってしまったヒラムネは、それが何より怖かった。

 かつての最高の仲間は、最悪の亡霊として少年を苦しめる存在となっていた。


 ベッドの上で胡座をかき、クソ暑いにも関わらず毛布を被る。

 それほどに怯えていた。


 少し微睡んだ事に気がつき、慌てて目を覚ました。

 その時、部屋に人の気配を感じた。

 今やこの部屋に親も入ってこないのに、なんだろうと慌てて毛布を外す。


 するとデスク前のイスに、亡霊よりも怖い存在が頬杖をつきながら座っていた。


「こんばんは」

「ヒッ!」

 と、悲鳴を上げるよりも先に口を押さえ、次いでに肩を押さえた。

 必死にもがこうとするが、ビクともしない。

「声はたてないで欲しいね。立ててもいいけど、困るのはヒラムネだよ」

 その一言で、抵抗する意思を失った。

 すると、不法侵入者はそれを見切り、口を覆っていた手を離す。


 ヒラムネの目の前にいるのは、五日前に葬式場で殴り飛ばしたアルスであった。

「ふふ、殴った事なら気にしてないよ」

 恐るべき事に、目の前の少年は震える部屋の主の思考を正確に読んでいた。


「単に聞きに来ただけさ。終わったら帰るよ。それとも警察にオレを見たら連絡しろって言われた? そんなわけないよね? だって警察はすでにオレが殺人や失踪に関係してないと知っているからね」


 ヒラムネは肩を震わせた。

 事件の前後について、ヒラムネは警察に洗いざらい話している。

 彼の考えではアルスが一番怪しいのだが、警察からは葬式の日に『彼は関係無し』と言い切られてしまい、捜査状況についても『調査中』の一点張りである。

 メディアでも、ニュースに流れたのは七日までであり、それからは一度も話題に上らなかった。


 目の前にいる元友人は、以前と別物だと感覚で理解できる。

 少なくとも、マンションの二十階に窓から侵入する者が只者であるはずがない。

 思えばセレナもアーリアも敏感にその部分に気付いていたし、そんな所が好きだと言っていた。


「さてヒラムネ、教えて欲しい。オレには一日から六日までの記憶がない。キミは七日の日に『全部オレのせいだ』と言ったけど、その辺りの出来事を話してくれ」

 ヒラムネは、目の前にいる元友人に頷くだけしか出来なかった。




■ヒラムネ:五月十二日、〇〇:〇六



 ゴールデンウイーク前の五月二日、お前は学校を休んだ。

 休むのは初めてじゃないが、みんなにメールせずに休んだのは初めてだ。

 お前の家に、お前の親がいたためしはない。

 病気で倒れたんじゃないかと、セレナとアーリアは一日中イライラしつつ、何度も電話とメールをしていた。

 だけど、お前からは全く返信がなかった。


 学校が終わり、セレナはブルブリッツを吹かしてお前の家に飛んでいった。

 アーリアは姿を消したと思ったら、タクシーを使ったらしい。

 真性のお嬢様だよな。


 俺達も心配だったので、その後を追いかけた。

 お前の家に着くと、家にいたのはアーリアだけだった。

 セレナは合鍵を持っていたので勝手に入ったけど誰もいなかったし、手掛かりもなかった。


「セレナのヤツ、勝手に家捜しをしてたのか」


 それだけ心配していたんだ。

 俺達はお前を探す事にした。

 すると、大きなリュックを背負って、ひょっこりお前は帰ってきた。

 セレナが怒って詰め寄ると、お前は笑いながら

「連休のサプライズ企画を用意していたけど、バレたなら手伝ってよ」

 と言った。

 セレナの好きな廃墟に連れて行きたいから、旧晴海に探検する準備をしていたらしい。


 セレナは怒ってはいたが、アルスが自分の趣味のために時間をかけていた事に喜んでいた。

 お前のリュックの中身は数台のハンディカメラと関連するパーツとか色々だった。

 中古家電を巡って、買い揃えたらしい。


 お前は、四日の七時位からバーベキューをやって、食べ終わったら廃墟巡り兼肝試しをすると言った。

 廃墟巡りは、お前が買ってきたハンディカメラで撮影して、後で編集してネットにあげる予定だと俺達に説明した。


 そして、Xデーとなる五月四日だ。




■過去:五月四日、一九:一二



 紙コップにジュースが注がれ、全員に行き渡ったのを確認すると、アルスは紙コップを掲げた。

「それでは、本日の廃墟探検を祝して、乾杯!」

「カンパーイ!」

 バーベキューの炭火は起こっていて、すでに肉と野菜が並んでいた。


「意外と簡単に潜り込めるものね。私は足がないとダメなタチだから良かったわ」

「セレナ、今日は隠密行動なのに、バイクはないでしょ?」

「そお? バーベキューセットを用意して食べる事を考えれば、どうって事ないと思うけど。アーリアこそ、動きやすい服にしろって言われたのに、そんなヒラヒラな服着てていいの?」

「常に淑女としての必要な服装というものがあるのよ。わかる?」

「わからない」



 この集団は不法侵入ではあったが、誰も深刻に考えていなかった。

 彼らにしてみれば、これは若気の至りであり、ちょっとした冒険だった。

 能天気に肉が焦げる匂いに酔いしれ、他愛のない話に興じていた。


「バーベキューはラムチョップに限るわね。私はあんまり羊を食べないけど、バーベキューのラムだけは別よ」

 セレナはラムチョップを手で掴み、ガブリとワイルドにかぶりつく。

 するとアーリアが顔をしかめた。

「セレナ、好きなのはわかるけど、食べ物を手で掴む事ないでしょ? 淑女なんだし」

「あら、バーベキューはこうやって豪快に食べるのが一番よ。淑女だろうと何だろうと、美味しく食べるのに関係ないわ」

「淑女は常に人目を気にすべきです」

「淑女じゃないから気にしないわ。私はアルスが見ててくれればいいし」

 セレナのその一言で、周りの空気が凍りついた。


 このグループの共通認識として、アルスとセレナが恋人同士と認めているが、それに加えてアーリアもアルスが好きだというのも同様である。

 セレナはそれが気に入らないというのも、また知られていた。

 睨み合う二人の周りでは、ヒラムネのようにどう仲裁しようかと悩むメンバーもいれば、我関せずと気にもしないメンバーと、態度はマチマチだった。


「ただいまー、って、どうかした?」

 話題に上らずも、原因であるアルスが携帯を片手に戻ってきた。

「いや、それよりも言い出しっぺのお前はどこに電話してたんだ?」

 ヒラムネは多少腹を立てつつも、すぐに話題を変えた。

「バイトだよ。今回のカメラを五台も買ったから出費がキツくてね、簡単なバイトを探してたんだよ」

「別に五台も買うことなかったんじゃないか? 金なら少しは払うし」

「気持ちだけで十分だよ。それよりもコレを見てくれ」

 アルスはゴーグル型のカメラを頭にはめて見せた。

「自作の装備型カメラだ。これでオレの視界と映像はリンクして、よりリアリティな映像が撮れる。視線コマンドで、ズーム機能など色々付けてみた」

「昨日一日家に籠っていたのは、ソレを作ってたのね」

 呆れたようにセレナがいうと、アーリアは逆に褒めた。

「でもスゴイわね。これって家電店で買えるの?」

「いや、さすがにパーツ屋で探したよ。特にゴーグルビジョンのデータリンクが難しくて、何度も視線コマンドでエラーを出して大変だったよ」

「でもソレを一日で作るなんてスゴイ!」

「あは、そうかな?」

 アーリアに持ち上げられて満更でもないアルスに、セレナのご機嫌はナナメである。

 さすがにヒラムネもどうでもよくなってきた。


「それでっ、準備は万端なわけね」

 セレナは強引に話を打ち切らせて、アルスを振り向かせる。

「準備完了済みさ。今回のルールを説明します。オレが予めこの地図に書いてある五つのポイントに札を用意しました。二人一組でユニットを組んでもらって、札を回収してもらいます」

「全員一斉スタートか?」

「いや、一回につき一組だけです。前の一組が戻ったら次の組が行く。待ってる人は、ひたすら食べて飲んで待つ。アンダスタン?」

「「「「イエス・アイドゥー」」」」


 みんなからの返事を受け、アルスは準備しておいたアミダクジを広げた。


「じゃあ、二人一組でユニットを組みます。十一人だから、ホストのオレは驚かし役ではずれるよ」

「驚かし役!? 驚かされるの!?」

 アーリアは珍しくすっとんきょうな声を上げた。

「そうだよ。やっぱり肝試しの要素ははずせないでしょ?」

「そんな……私」

「替えの下着も用意しているから心配な――」

「誰が下着の事を心配してるの!」

「なら問題ないよね?」

「う……」


 そういったわけで厳正なクジの結果、五つの男女ペアが組まれた。


「開始時間は二十一時としよう」

「遅くないか? 女の子達もいるのに」

 アルスの仕切りに、なんとなしに不安を覚えていたヒラムネが懸念を伝えたが、アルスは一蹴した。

「そうかな? ま、大丈夫でしょう。他に人がいるわけないんだし」

「……そうだよな」

「全員の携帯GPSは登録済みだから、一分以上、動きがなかった場合はすぐに駆けつけるよ。安心してくれ」

「そうよ、ヒラムネ。アルスに任せておけば大丈夫。それとも、このセレナさんとペアなのが不安?」

「……不安だ。勝手に突っ走っていなくなりそうだから」

「なんか言ったかしら?」

「別に」


 こうしてセレナとヒラムネ、アーリアとタカユキといったペアが結成され、それぞれ期待と不安、未知なるモノへの興奮を包み、時間は刻一刻と近づいていく。


 お腹一杯になるまで肉を食べ、女子達が買ってきてくれた大量の花火が取り出された。

 ローソクに火を灯し、次々と花火に火がつき、パチパチ音を鳴らしながら儚くも美しい火花を散らす。

 花火は色とりどりに燃えて爆ぜて、いつかは消えて灰となる。

 それは、熱力学第二法則に定められた通り、森羅万象に当てはまる永遠の真理。

 永遠に続いて欲しい時間もまた、熱的収束を向かえ、終わりを迎えるのだ。



「じゃ、そろそろスタート時間だから、オレは第一ポイントのどっかで待ってるから」

 アルスは軽く手を上げると、カメラやらパソコンやらを入れたリュックを肩に掛け、自転車で闇の中に消えていった。


 そして、第一ペアのセレナ・ヒラムネが出発する二十二時を迎えた。






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