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キノトロープX奇譚(かいきたん)  作者: トキノトキオ
第一章 誰がために風は吹く?
7/9

しるべ(アマニタ・ムスカリア)

「あら、貴方、キノコ持ちだったのね」

「え?……キノコ持ち?」


 背後からささやく、その優しい声にハルヲはうっすらと目を覚ました。気づけばあたりは真っ白いモヤに包まれている。それは、今が何時なのか、自分がどこにいるのかさえが、すっかりわからなくなるほどの深い深い白いモヤの中だった。


「アナタたち大事にされているようね」


 その声が耳元にすうーっと近づく。そして、ハルヲの足元に並んで置かれたふたつの鉢に白い指先がのびた。


「あ、ああ……貴方は……アマニタ・ムスカリアさん?……そ、そうだ、どうかコイツを治してやってください」


 ハルヲは眠たいような、それとも夢の中のようなフワフワとした気持ちのまま、ソラのことを思い出した。布団の中で死んだように眠っているソラのコトを思い出した。そして、謎の黒女クロヒジの言ったことを思い出した。『アマニタ・ムスカリア姉様ならソラのことをなんとかしてくれる』と。


「フフ……コイツ?」


 すっかり伸び切ったその優雅な白い腕が、キノコの鉢の上をなでるように回り始めた。


「雲ひとつない青空のように、恐れを知らず、真っ直ぐなソラ。貴方ならたどりつくかもしれない。そう言ったのは私。そう言って送り出したのは私。あれはずっと昔の話?それともすぐ昨日の出来事?分からない……私にもそれは分からない。すべてはマザーモースの仰せのとおりに。すべては我らのために。だからさあソラ。今、再び、起き上がるとき」

 

 声の主……アマニタ・ムスカリアが手を回しながら、まじないのようにささやくと、黄金に輝く粉がリング状に舞い鉢の上に降り積もっていった。すると、あんなに黄色くしぼみ、元気のなさそうだった空色茸ソライロダケがあっという間に元に、鮮やかな青に戻っていった。


「ああ……ありがとうございます!そしてこれが、どうか夢でありませんように!」


 ハルヲはそのさまをみて思わず声をもらした。


「フフフ 面白い子。なるほど貴方はソラに似ているのかもしれない。そして、こんな風になったキノコは枯れるがさだめ。今まで何本、何万本、いいえ、何億本もの仲間がそうであったように……ね。ああ、いつの世もヒトはことわりがなければ動かないもの。貴方以外はね。こんなソラのために動いてくれた貴方だから、ひとつ教えておいてあげましょう。いずれ貴方は選択しなければならなくなる。重要な選択を。自分にとって、ヒトにとって、そして私たちキノトロープスにとって……」

「キノトロープス!キノトロープスとは何なのですか?マザーモースとは?そして……ボクの選択とは???」


 ハルヲはだんだんと濃く、白くなっていく空間に向かって手を伸ばした。


「フフフ……キノトロープスとは私達。いいえ、遥か彼方、貴方達もそうだった者。そう……今、貴方達があるセカイは、つまりは貴方達の選択。貴方達ひとりひとり、自分自身のね。だからそのコトを教えてあげることはできません。誰にもね。ただ考え、時には気付かずにそれぞれが選択するだけ。だから……さあ、そろそろお行きなさい。ソラが待っているわ」


 ハルヲはすぅーーーーっと意識が沈み込むのを感じた。もはや目の前は真っ白に染まり、目を開けているのか閉じているのかさえ分からない。


「まって、まってください。ボクはまだ知りたいことがあるんだ!」


 ハルヲはその真っ白い闇にさらに手を伸ばし、叫んだまま意識を失ってしまった。

 首筋を風が吹き抜けるのを感じた。



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