いづる想い
「ちょっとなに?あの子……」
「あれ隣の高校生じゃないのか?」
「変な宗教かしら……いやねえ……」
30分に一度、駅に各駅電車が止まると、人の群れがロータリーへと排出される。その群れは5分もすれば消えてなくなるくらいの数だったが、道をゆく人々はある場所をすぎるとうわさ話をした。そこには少し変わった人物が立っていたのだ。皆の興味の対象……それはハルヲだった。
「なるほど……これはある意味拷問だな……」
ハルヲはロータリーの端に立って、まっすぐ前の空間を見つめていた。胸には「キノコ普及協会」のタスキをかけている。もちろん手書きのだ。
「しかし……これしかない。これしかボクには無いんだ」
ハルヲはソラと初めて会った時のことを再現しようとした。少なくとも再現しようと努力していた。
「あの黒女、クロヒジさんの話しによれば、ソラも引っ込み思案だとか。だとすれば、そうとうな覚悟でボクに声をかけたのだろうなあ」
ハルヲはあの時のソラのことを思いやった。しかし、同じように声を上げ、呼び込みをするような真似まではどうしてもできないでいた。
日が傾いてきた。紫外線というものは朝の10時から15時くらいまでが最も多く、一日の線量の約60%以上を占めるという。太陽光、つまりは紫外線を長く浴びると、日射病や熱射病といった、いわゆる熱中症になる危険性がある。それを避けるには、日光を浴び続けないこと、適度に休憩をとり水分を補給することだった。
ハルヲはかれこれ、飲まず食わずのまま3時間が過ぎようとしていた。
「いけないっ」
そんなとき、突然めまいがして、ハルヲはカラダのバランスを崩した。ふんばろうとする足にも力が入らず、後方にただただ倒れこんでゆくのを止められないでいた。
だから、薄れゆうく意識の中で地面に叩きつけられる衝撃に備えた。
プニョんっ
しかし、予想とは違う感覚が背中に触れた。
そして影が全身を覆い、いくぶん涼しくなっているのに気がついた。
それでも力の入らないハルヲは、背中をその柔らかいものに預けたまま、のけぞるカタチで上を見上げた。
「いけませんね~」
目に飛び込んできたのは満面の笑みの女性の顔だった。その口元が動き、穏やかな声が耳元をくすぐった。
「す、すいません。スグにどきます」
さっきのプニョん……つまり、今、背中を支えている弾力剤は彼女の胸に違いない。だから、それに対して「いけませんね~」と拒否反応をしているのだろうとハルヲは思った。だから避けようとハルヲの脳はカラダに命令を送った。しかし、明らかにハルヲのめまいは熱中症の症状だった。気力でカラダを動かすことはできなかった。だからそのまま崩れるように座り込んでしまった。
パウムッ
ハルヲは今度こそ、ドスンっと地面に頭をぶつけると思っていたが、柔らかいクッションのようなモノの上に頭をうずめていた。
背後にいた女性も、ハルヲと同時に座り込み、ちょうどその太ももを枕にしていたのだ。
「いけませんね~無理してはいけませんよ」
優しく、穏やかな声である。彼女は白いふんわりとしたスカートを履いていて、ところどころピンクの色のコルセットといった姿だった。そして、パラソルのように大きく、赤地に白の水玉模様の傘をさしていた。
「あ、貴女はもしや……アマニタ……ムスカリアさん?」
目と目があうと、ハルヲは叫んだ。
彼女がコクんとうなづくのを見ると、安堵感が体中を包み込み、やがてハルヲは意識を失ってしまった。




