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境界線  作者: 久乃☆
7/12

7、終電(2)

(バスが19;00出発だった……今は、22:00……)



 なんと、三時間もバスに揺られていた計算になる。



(嘘だろ……。三時間も車で走ったら、かなりの距離走ってることなる。俺は一体どこに来てるんだよ)



 嫌な汗が流れる。



「怖い? ククッ」



いつの間にか、チビがそこにいた。



(そうか、こいつもここまで来たんだった。でも、なんで駅にいる? あぁ、そうか。周囲に家なんてなかったな。でも、こんな時間だぞ! なんで、こんな小さい子が居るんだよ)



 俺は、アヤという小さな女の子にさえ、恐怖が湧き出していた。



「怖いのね。ククッ」



 のどの奥から出てくる、おかしな笑い。



「こ、怖いわけないだろ。俺は大人なんだからな」


(そうだ、怖いなんてことがあるはずがないんだ)



子供の頃に、死んだじいさんに言われたことがある。



―――お化けなんて居るはずがないんだ。あれは、自分が怖いと思っているからそう見えるだけなんだ―――



 そうだよな、じいさん。


 周りが木立で、暗いから変に怖いと思ってしまう。それだけだ。


 俺はそれに気がつくと、急に気持ちが楽になった。



「怖いわけないさ。何も怖がることなんてないからな。お前こそ、怖いんじゃないのか?」



 俺はチビに問いかけてみた。もちろんチビが怖いなんて思っているはずはない。そんなことは良く分かっていた。



「……怖いよ……」


「え?」



 ひとつも怖そうにしていない少女の口から、『怖い』と言う言葉が出たことが意外だった。



「だって、人の恨みって……消えないからね」



 まるで大人のような口ぶり。俺はぞっとするような感覚を感じ、少女を見た。ところが、そこにいる少女は、まるで何もなかったように、無邪気に綾取りに興じていたのだ。



(俺の気の迷いか……)



 とにかく、電車の時間を確認するんだ。


 俺は自分に言い聞かせた。


 バスがついたのだから、じきに電車が来るはずだ。


 ガラスケースの中にしまわれた時刻表は、紙が黄ばみ、文字も薄くなっている。ガラス自体も汚れ、薄い文字を余計に読みづらくしている。



(くそ! なんて書いてあるのか、分かりづれぇ! それにしても)



 それにしても、空白の多い時刻表。


 一日に―――


 一本!!



(いくらなんでも、ローカルすぎるだろ!)



 俺は、時刻表の最後に書かれている数字に目を凝らした。そこには、


23:59


と書かれていた。



「なんだよ! なんで、一日に一本の電車がこんな深夜なんだよ! おかしいだろ!」



 俺は大声で叫んでいた。


 言葉にするつもりはなかったのに、言葉にせずにはいられなかったのだ。



「ま・まぁ。それでも、この電車に乗らないと帰れないわけだし。ここで唯一の電車が深夜だろうが、早朝だろうが、俺には関係ないんだ。ここの村人がどんな生活をしていようと、俺には全く興味がないんだからな」



 俺は、時刻表から離れると、力なく木のベンチに座り込んだ。


 またしても、二時間近くを無駄に待たねばならないのだ。


 ベンチに座り、目を閉じる。


 音といえば、電球が切れかけている、ジジジッという音と、何の虫なのか聞き覚えのあるような鳴き声が聞こえてくるだけだ。



(静かだな)



 こんな夜に、無人の駅で俺は小さな女の子と二人、電車を待っているのだ。妙な話だ。


 アヤという少女は、どうしてこんな深夜の電車に乗るのか。それを親はどうして許しているのか。考えれば切がない。



(とにかく、待つしかないんだ。それにしても、最低な日だな)



 亜矢に置いて行かれてから、待ってばかりだ。


 一体、なんていう日なんだ。


 いつの間にか、頭の中に霧がかかったように意識が遠のいていった。



 何ものかに追いかけられているような夢を見て目が覚めた。


 一体誰だったのか、恨みのこもった目をしていた。


 俺は、森の中の冷気に触れているにもかかわらず、流れる汗を感じていた。



(こんなところにいるから、変な夢を見ちまったんだ)



 手の甲で、額の汗を拭いながら、そんなことを考えた。


 柱時計に目を向ける。



(後、三分もしないで電車がくるか……。嫌な夢だったけど、あの夢のおかげで目が覚めたな。目が覚めなかったら、こんな山奥で明日の深夜まで時間を潰さないとならなかった)



 遠くの方から、かすかに聞こえる電車の音。



(来たか!)



 無人駅の改札を抜ける。手には、【山の駅】と印刷された切符。


 ホームに滑り込む電車を待って、俺はアヤというチビと二人乗り込んだ。



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