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境界線  作者: 久乃☆
2/12

2、喧嘩(1)

 バス停を通過してから一時間、走れども走れども景色は変わらす、山と畑、渓谷というにはお粗末な川と雑草群。


 始めの頃こそ、景色のよさに感動したが、こうも同じ景色が続くと、いい加減飽きる。


 そのせいか、亜矢の口数も大分減ってきたように感じる。そして、俺も口を閉ざしたままだ。



「あら?」



 亜矢がおかしな声を出した。



「なんだよ、変な声だして」


「変な声なんか出してないわよ」


「変だろ」


「失礼ね」


「じゃぁ、なんだよ」


「この道って、さっき通った道じゃないかと思って」


「そんなわけないだろ」


「だって……じゃぁ、あれは?」


 

 そう言って、指差す先に視線を向けると、さっき通過したはずのバス停があった。


 いや、『通過したのと同じ』バス停と言った方が自然だろう。



「さっきのと同じようなバス停だな」


「同じような?」


「ああ、似てるだけだろ。田舎だから、同じようなバス停がたくさんあるんだろ」


「そうかな……でも、草の茂り方とか、建物の朽ち方とかも同じなわけ?」


「おいおい、そんなところまで分かるのかよ」


「わかるわよ! てか、分からない方がおかしいわよ」


「なんだよ。俺の方がおかしいってのかよ」


「だって、いつもそうじゃない。ちゃんと見ないんだから。私が新しい服を着てても、何も分からないじゃない」


「それは違うだろ」



 さすがに、全く違う話を持ち出されても、イライラしてくる。



「ちがくないわよ! でも、でもそう言うなら……そう言うなら……。なんで……なんで、運転してる私がちゃんと見ていて、運転してない和也が見てないわけ?!」



 かなりのドヤ顔である。


 言われて見れば確かにそうだ。だが、ここで納得しましたと降参する気にはならなかった。


 俺は更に、言い募った。



「どこかで曲がったんじゃないのか?」



 かなり嫌な言い方になっていたかもしれない。



「曲がってなんかいないわよ」



 実際のところ、途中途中でうとうとしていたのだから、亜矢が曲がったかどうかなんて分からない。



 亜矢は、むっとした顔を前方に向けたまま、ぎゅっと口を閉じた。



 無言のまま時間が流れ、今度は悲鳴のような声を上げた。


 俺は、今度はなんだよという思いをこめて亜矢を見た。


 亜矢は車を止めると、ドアを開け飛び出していった。


 そこは、さっきのバス停と、同じだった。



「やっぱり……」



 俺は、面倒くさいと思いながらも、車から出ると亜矢のそばに寄った。



「さっきのバス停だよ! 私達、迷ってるんだ」


「そんな訳ないって。迷うはずないだろ」



 そうだ。迷うはずはないのだ。


 あれからじっと前方を見ていた。一度も転寝などしなかった。


 確かに車はまっすぐに走り、一度も曲がらなかったのだ。



「現にさっきと同じところに来てるんだから、これを迷ったといわずになんて言うのよ!」



 亜矢は悲鳴に近い声を上げて、俺に詰め寄ってきた。


 実際俺も、もしかしたら迷ったのかもしれない、という思いが浮かんできていた。


 しかし、さっきあれほど亜矢を小ばかにしたのだ。今更、亜矢の言ってたことの方が正しかったなどと、絶対に言えないのだ。そんなことを言ったが最後、亜矢のことだから、ほれ見たことかと俺をバカにすることは目に見えている。


 だから、俺は



「亜矢は、ぐるぐる回ってるとでも言いたいわけか? そんな、狐に騙されてるみたいなこと、あるわけないだろ」



 亜矢はむっと口をへの字にしたかと思うと、俺をものすごい目で睨んできた。


 いくら喧嘩していても、ここまで憎しみをこめてにらまれたのは始めてだけに、さすがにたじろいだが、俺は引かなかった。



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