2、喧嘩(1)
バス停を通過してから一時間、走れども走れども景色は変わらす、山と畑、渓谷というにはお粗末な川と雑草群。
始めの頃こそ、景色のよさに感動したが、こうも同じ景色が続くと、いい加減飽きる。
そのせいか、亜矢の口数も大分減ってきたように感じる。そして、俺も口を閉ざしたままだ。
「あら?」
亜矢がおかしな声を出した。
「なんだよ、変な声だして」
「変な声なんか出してないわよ」
「変だろ」
「失礼ね」
「じゃぁ、なんだよ」
「この道って、さっき通った道じゃないかと思って」
「そんなわけないだろ」
「だって……じゃぁ、あれは?」
そう言って、指差す先に視線を向けると、さっき通過したはずのバス停があった。
いや、『通過したのと同じ』バス停と言った方が自然だろう。
「さっきのと同じようなバス停だな」
「同じような?」
「ああ、似てるだけだろ。田舎だから、同じようなバス停がたくさんあるんだろ」
「そうかな……でも、草の茂り方とか、建物の朽ち方とかも同じなわけ?」
「おいおい、そんなところまで分かるのかよ」
「わかるわよ! てか、分からない方がおかしいわよ」
「なんだよ。俺の方がおかしいってのかよ」
「だって、いつもそうじゃない。ちゃんと見ないんだから。私が新しい服を着てても、何も分からないじゃない」
「それは違うだろ」
さすがに、全く違う話を持ち出されても、イライラしてくる。
「ちがくないわよ! でも、でもそう言うなら……そう言うなら……。なんで……なんで、運転してる私がちゃんと見ていて、運転してない和也が見てないわけ?!」
かなりのドヤ顔である。
言われて見れば確かにそうだ。だが、ここで納得しましたと降参する気にはならなかった。
俺は更に、言い募った。
「どこかで曲がったんじゃないのか?」
かなり嫌な言い方になっていたかもしれない。
「曲がってなんかいないわよ」
実際のところ、途中途中でうとうとしていたのだから、亜矢が曲がったかどうかなんて分からない。
亜矢は、むっとした顔を前方に向けたまま、ぎゅっと口を閉じた。
無言のまま時間が流れ、今度は悲鳴のような声を上げた。
俺は、今度はなんだよという思いをこめて亜矢を見た。
亜矢は車を止めると、ドアを開け飛び出していった。
そこは、さっきのバス停と、同じだった。
「やっぱり……」
俺は、面倒くさいと思いながらも、車から出ると亜矢のそばに寄った。
「さっきのバス停だよ! 私達、迷ってるんだ」
「そんな訳ないって。迷うはずないだろ」
そうだ。迷うはずはないのだ。
あれからじっと前方を見ていた。一度も転寝などしなかった。
確かに車はまっすぐに走り、一度も曲がらなかったのだ。
「現にさっきと同じところに来てるんだから、これを迷ったといわずになんて言うのよ!」
亜矢は悲鳴に近い声を上げて、俺に詰め寄ってきた。
実際俺も、もしかしたら迷ったのかもしれない、という思いが浮かんできていた。
しかし、さっきあれほど亜矢を小ばかにしたのだ。今更、亜矢の言ってたことの方が正しかったなどと、絶対に言えないのだ。そんなことを言ったが最後、亜矢のことだから、ほれ見たことかと俺をバカにすることは目に見えている。
だから、俺は
「亜矢は、ぐるぐる回ってるとでも言いたいわけか? そんな、狐に騙されてるみたいなこと、あるわけないだろ」
亜矢はむっと口をへの字にしたかと思うと、俺をものすごい目で睨んできた。
いくら喧嘩していても、ここまで憎しみをこめてにらまれたのは始めてだけに、さすがにたじろいだが、俺は引かなかった。




