12、終電(7)
「ほら、和也の子だよ。この子、男の子だったの。名前は和也の和を取って、【和徳】にしたの。可愛いでしょ」
俺は、不快なものを見るように、赤ん坊を見た。
どう見ても、肉の塊としか見えないそれは、俺を見てニタリと笑った。
「ね、可愛いでしょ。和也に似てるよね」
「に、似てるはずがあるか!」
大体、どうしてこの女がここにいるんだ。
あの時、確かに死んだはずだ。
お腹に子供を宿したまま、真っ赤に流れる血と共に、命を落したのだ。
俺は、朝まで由美の真っ白な肌を眺めながら、酒を飲み続けた。そして、朝になって、まるで今起きたかのように救急車を呼び、慌てる恋人の姿を演じたのだ。
由美はそのまま、二度と俺の前に姿を見せることができなくなったのは、紛れもない事実だ。
「でもさ~。本当に、びっくりだよね。まさか、和也がこの電車に乗ってるなんてね。これで、親子三人だね」
何が親子三人だ。俺は駅に着いたら、こいつとは別々の電車に乗る……。
「駅に……着いたら……」
口に出した言葉が、止まった。
本当に駅に着くんだろうか。
一体、駅とはどこにあるのか。
「駅? やだ~、和也。この電車に乗ったら、駅なんてないよ~」
「ないはずがないだろ! 電車なんだから!」
「切符、見た?」
「切符? 見たさ!」
「なんて書いてある? ふふっ」
俺は、再度切符を出した。
「【山の駅】以外に駅名なんてないだろ」
「【終電】って書いてない? ねぇ、パパはわからずやでちゅね~」
最後の言葉は赤ん坊に言ったらしい。
「終電……って、書いてある……それが、それがなんだってんだ!」
「ふふふっ。まだ、分からないの? 人を苦しめてきた割に、自分のことになると、まるで赤ちゃんと同じ、怒鳴ってる姿は泣き叫んでいるみたいだよ、ね~」
「だれが、苦しめて来たってんだ! 分かったように言うな!」
「そうかなぁ、人の苦しみ。それも、死にそうな顔が好きなんでしょ。私が死にそうになってるとき。リスカして、意識が朦朧となってたときに、和也は私の姿を見て、自分でやってたもんね」
「……」
そうだ。
おれは、死を見ると興奮する。あれほどの快楽がこの世に存在するなんて、思ってもいなかった。
だからかもしれない。
犬を殺した。
犬が苦しんでいる姿が、俺の快楽の始まりだったような気がする。あの時、ズボンが濡れると同時に始めての快楽を覚えたんだった。
爺さんを殺した。
ばあさんを殺した。
もう、止めたかった。これ以上、誰を殺せというんだ。
自分を呪った。
けれど、止まらない。まるで、悪魔に導かれるように、苦しむ顔が見たくて、俺は母親に農薬を飲ませた。
でも、父親までは殺せなかった。なぜなら、父親を殺せば俺は自分で生きていかなければならなかったからだ。
俺のために稼いでくれるなら、俺は父親を殺すことを我慢しようと決めた。
それから、何年も二度と来ないだろう快楽を思って、もだえ苦しんだ。
それが、まさかこんな形の快楽が待っているなんて思ってもいなかった。
自殺。
俺が殺すんじゃない。
勝手に死んでくれるんだ。
俺は、その姿を見て、最高のエクスタシーを感じるだけだ。
「パパは、最低ねー」
そう言って笑う由美。
最低でも構わないさ。もう、終わったことだ。
「でも、この電車に乗った
んだから、もう、お・わ・り~」
「何が終わりなんだよ!」
終わりなんて、ないんだ。
俺には亜矢が待ってる。俺を置いていった亜矢。
どうやって、自殺に追い込むか。そして、どうしたら俺は最高の興奮を得ることができるのか。
「だってねー」
「この電車がなんだってんだよ。大体、なんでお前がここにいるんだ。どうせ、夢だろうがよー」
「夢じゃないよー。ねー、和ちゃん。パパが来るのをずっと待ってたんだもんねー」
由美は赤ん坊に向かって、相槌を求める。
相槌を返すはずのない赤ん坊に。
「和也ぁ。この電車に乗ったらね……うふふ」
嬉しそうな由美。
この電車に乗ったらなんだって言うんだ!
ちょうどその時、寝ていたはずのアヤが歌いだした。
真っ赤な綾取りを指に絡ませながら。
「帰れない~。帰れない~」
妙な節回しのその歌は、俺を真から恐怖に陥れた。
「あー! やっと道にでたー!」
亜矢はハンドルを握り締めながら、鼻歌交じりに林道から出てきた。
「もう、何度もグルグルしたけど。やっぱり、横道があったんじゃない。和也が言うとおりに走ったから、回ってたんじゃないのぉ。変だと思ったわ」
車にさす日差しは明るく、林道の暗さが嘘のようだ。
夕方だと思い込んでいたのも、木立の暗さのせいだったのかもしれない。
なぜなら、日は高く、高く上り、亜矢の岐路を明るく照らしてくれているのだから。
fin
最後までお付き合いくださいまして、ありがとうございました。
いかがでしたか?
作者は、結構霊感がつよいほうでして^^;
ゆえに、怖いのが非常に嫌いです。夏のお化け的な特番は、間違って番組にあわせてしまったら、1秒でチャンネルを変えますwww
ということで、今回のホラーはあまり怖くないような話になってます。
体験談なんて、怖くて書けませんから~www
さて、明日からはまた別の作品をアップしますね~
よろしくお願いします^^




