1.デート
久しぶりのデート。
車の中は、ビートの聞いた音楽が流れている。
「ほんの二~三時間、車で走っただけで、こんなに辺鄙なところがあるなんてね~」
亜矢は、ハンドルを握りながら、俺に話しかけてきた。
ここのところ、毎日忙しくて会うこともままならず、自然消滅するんじゃないかという不安と闘いながら仕事をしていたのだ。
それは、亜矢のほうも同じだったらしく、もう俺に嫌われたんじゃないかと涙が出ることもしばしばだったという。
普段は気の強い亜矢が、そんなことを言うなんて、真面目に可愛いと思ってしまう。そして、俺と亜矢の愛情は今日のデートで深く確かめ合ったというわけだ。
愛し愛されていることに安心し、お互いに笑顔とニヤケがこぼれて止まらない状態なのだ。
ということで、今日の亜矢は優しく思いやり溢れる言葉を、俺に投げてくれていた。さらに、昼食では、いつもなら自分が率先して飲むビールも『今日は和也が飲んでいいよ。私が運転するから』と言ってくれたのだ。だから、俺は遠慮せずに機嫌よくビールを二杯ほど飲ませてもらった。
もらったといっても、俺が出した金で飲んだわけだから、なんの問題もないのだけど。
「わぁ!」
亜矢の、ひとりごとのような話を聞きながら、多少夢心地だった俺は、『わぁ!』という声で目を開けた。
その声は、まるで「いいものを見つけた」と言っているように聞こえたからだ。こういった感情のときに、知らん顔をしてしまったら、せっかくいいムードなのに、全てがオジャンになってしまう。
そんなことはしたくないので、俺は必死に起きていたよという風に、背筋を伸ばして、亜矢の方を見た。
「ほら、あれを見て!」
ハンドルを握っている手を離して、前方を指差す。
内心『ハンドルは握ってろよ!』と思うが、片手運転ぐらいどうってことないと、いつも豪語している亜矢だけに、文句をつけられない。それもこれも、今の雰囲気を壊したくないからだ。
俺は、指差された方へ視線を向けた。
遥か前方の左端。
そこには、四角い箱のようで、前面には壁も何もないボロボロの小屋があった。そして、小屋の前にはバス停の看板。その周りには、腰あたりまである草が生い茂っている。バス停の看板の周りと、小屋の中に置かれたベンチの前だけは、草が刈られているらしく、バスが生活上必要な交通手段になっていることを明かしていた。
「レトロね~。あんなバス停があるなんて」
確かに、俺も同じことを思っていた。
ただし、レトロなんて言葉ではなく、一言『すげー! 使ってんのかよ!』というぐらいの感想だった。
「やっぱり、田舎なんだね~」
確かに田舎だ。
昼飯を食べた飯屋から、有に三十分は走っているが、誰にも会わないのだ。
村人らしき人間の姿を見ないどころか、動物にも会わない。子供の姿があってもよさそうなものだが、それすらないのだ。
「今時の子は、家の中でゲームしてるんじゃない?」
亜矢は、笑いながらそう言った。なぜ笑いながらなのかと言えば、亜矢にとっては当たり前すぎたからだろう。
自分達だって、散々ゲームに興じ、勉強などそっちのけだったのだ。休みといえば、家の中でテレビを見つめ、遊びに行った先でも、ゲーム機を握り締めてきた。友達と一緒にいるのに、無言でゲームを楽しむのだ。その姿を見て、大人たちは理解ができないと言っていたが、それが当たり前の姿だったのだ。
だからこそ、今の子供達も同じなのだと主張しているのだ。
確かに、亜矢の言うとおりだと思うが、それでも一人ぐらい見かけてもよさそうなものだ。
「時代だからね。そういう時代なんだよ」
亜矢は、更にそういうと『和也、頭固いね~』と笑った。
俺は、機嫌のいい亜矢を見て、自分自身も機嫌がいいことに気がついていた。




