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十一章 決着・一

その場にいた全員が、今起こった事態を消化出来ないのかしばらく沈黙したままだったが、皓緋が口火を切った。


「はあ。変な邪魔が入って決着が中断したが、仕切り直しだ。氷蓮、俺の邪魔はするな! そうすれば命だけは見逃してやってもいいんだぞ?」


皓緋が不敵に言い放つ。


「ほう、よく言う。私に斬りつけられる程弱いくせにな。ああ、弱い犬程よく吠えるというやつか。くくっ」


氷蓮は祭壇から皓緋を見下ろし、嘲笑う。


「はっ! 馬鹿だな。ハンデをつけてやったのにも気づかないとはな。まあいいさ、気づけない愚か者はその程度だ」

「はあ、本当に小者ほど口は達者と言うが。それも仕方ないか、緋月に施した仕掛けも黒曜に破壊された様だしな。もう打つ手などないのだろう、なあ皓緋」

くすくすと余裕ある笑みを氷蓮は崩さない。

「それはそれは、ご心配傷みいる。緋月ごとき、今更どうなろうと俺の予定に支障などないさ。だがあの獣はなんだ、一体」

「あれは魔物だ」

「魔物?」

「ああ、そういえばそちらには魔物はいないのだったな。アレは……黒曜は魔物だ。あの獣の姿が本来の姿だ。人形だったのは私が術をかけ、使役していたからだ。アレはどういうわけか緋月に執着していてな。一方的に契約を結んでいた。緋月自身は、契約のことも人形の黒曜が何であったのかもわかっていないはずだ。一方的に執着された挙句殺された」

「でもよく使役できたわね、あの魔物。あれだけの知性があれば、人には使役されないでしょ。緋月にならともかく」

氷蓮の腕の中で甘えている歌蓮が問う。

「ああ。だがアレは自ら私の元にやって来て、自分を使えと言って来たのだ。ここにいれば必ず緋月と会えるからと。それなりに使えそうな魔物だからいいだろうと主従契約をしたが……まあ、酷いものだったな」

「あら、そんなに大変だったの?」

氷蓮の口調から、随分と苦労したらしいことを歌蓮は感じた様だ。

「ああ。思い出すのも腹立たしい」

「ふふ。ご苦労様」

歌蓮は氷蓮を労い、顔を上向け氷蓮の頬に軽く口付けた。

「ありがとう、歌蓮」

氷蓮もお返しとばかりに、歌蓮の額に軽く口付けた。

「はあ……。成程な」

二人の戯れに嫌気が込み上げるが、自分から問うてしまった流れからの結果なので、自業自得と諦めるしかないが、それをぶった斬る様に皓緋が声高く告げた。

「もう邪魔者はいない! さあ始めよう、最後の戦いを!」

「皓緋」

「皓緋!」

朱艶と陽織が、我が国王を誇らしげに見つめる。

「いいだろう。長きに渡る古の残滓を、禍根を今ここで消滅させよう。……歌蓮はここで。私を見守っていて」

また歌蓮の額に口付けた。

「わかったわ、氷蓮。そのかわり、ちゃんと決着をつけて。全部片付いたらうんと甘やかしてあげるわ。私の愛しい氷蓮」

歌蓮は氷蓮の腕の中から抜け出し、皓緋へと向かう氷蓮を笑顔で見送る。

氷蓮は祭壇前の階段をゆっくりと下りた。

その先には皓緋がいる。

氷蓮は無言で帯剣している剣を抜き、一分の隙も見せず構えた。

皓緋は短剣を構えず、両手に風を纏わせる。


「そらよっ!」


皓緋が纏わせた風を、氷蓮目掛けて投げつける。

「ふっ」

氷蓮はその場から動かず、的確に風の塊、風の球を二つに切り裂き消滅させる。

皓緋はいくつかの風の球を投げつけるが、全部見事に消滅されてしまった。

(やはりそうだ。術の威力が落ちている)

皓緋は確認も兼ねた攻撃をしていた。

結果、間違いではなく正しい認識だった。

皓緋の怪我も、威力の衰え故に受けてしまった傷。術の威力が完全なら受けるはずもない傷だったのだ。

幸い傷は氷蓮と歌蓮のやり取りの際に、こっそり治していたので今はもう完治している。

「どうした、皓緋。もう終わりか? ならもう死ね」

氷蓮は勢いよく踏み込み、上段から斬りつける。

避けるまも無く振り下ろされた剣を、腰から抜いた短剣で受け止める。

「ほう、受け止めたか。まだそんな力があるとはな」

「はっ! ぬかせ!」

皓緋は、力一杯短剣で長剣を押し返すとすぐに後に下がって距離を取る。

「ふふ。逃しはしないぞ」

氷蓮はすぐまた皓緋に剣を繰り出す。

的確に急所を狙うが、皓緋も全ての剣を弾き返す。だが氷蓮の起こす剣撃の風圧で、薄くだが皮膚を裂かれ、細い赤線が浮かび上がる。

「ちっ」

確実に押されている皓緋を朱艶と陽織は、怒りと悔しさをない混ぜながらじっと見守るしかない。

王同士の戦いに手を出すことは許されないのだ。

それに、自分達にも敵はいる。

祭壇から自分を見下ろしている歌蓮だ。

歌蓮は、氷蓮達の邪魔はさせないとじっと見つめて牽制をしている。

氷蓮は攻撃の手を緩めず、剣撃だけで皓緋を攻め続け、皓緋は防戦に徹している。

氷蓮に攻める隙がない、というのもあるが、明らかに互いの力量が変わっていて迂闊に攻め込めないのだ。

本来なら皓緋の方が力量は上だが、今は違う。氷蓮の方が上なのだ。

「これで終いだ」

氷蓮が一気に皓緋の懐に潜り、心臓目掛けて剣を突き出した。

「「皓緋!!」」

見守っていた朱艶と陽織が叫ぶ。

「ぐっ!」

心臓一突きは避けたが、左腕で心臓を庇ったので代わりに左腕に剣が突き刺さったが、同時に右手で風球を作り、風球と右手で氷蓮の横っ面を思いっきり殴ったので、氷蓮はすぐさま剣を放して後に飛び下がった。

「驚いたぞ。まだ抵抗する力があるとはな」

「はっ。お前ごときにやられるほど弱くないが?」

皓緋は突き刺さった剣を引き抜くと、足元に投げ捨てた。

剣が抜けると、どっと血が流れ出した。

皓緋は右手で傷を抑えたが、そんなことでどうにかなる傷ではない。

「皓緋!」

陽織が叫ぶと、皓緋の元へ猛進して来た。

「皓緋、皓緋! 大丈夫なのか!?」

相当な衝撃だったのか、陽織は半泣きで皓緋に縋りつく。

「いっ! 触るな馬鹿が。泣き喚くぐらいならお前が持っている治癒シートをさっさと貼れ」

「あ、あっ、あっ、そ、そだよ、ね。えっと」

皓緋の言葉で、少し正気になった陽織がもたつきながらズボンのポケットから出した治癒シートを皓緋の傷口に貼った。

「あらあら。皓緋が怪我したぐらいで泣いちゃうのね、あなた。可愛いわね、ふふ」

「歌蓮」

氷蓮が咎める。

「やあだ、氷蓮。妬いているの? 大丈夫、私は氷蓮だけよ。それに、あの子達はもうお終いよ」

いつの間にか隣に来た歌蓮が、にこりと笑む。

「そうでは……いや、それもある、が。とにかく、歌蓮は私の後に居てくれ。私を不安にさせないでくれ」

氷蓮は哀切を含んだ声音で言いながら、歌蓮の頬を撫でる。

「わかったわ。本当に可愛い子」

歌蓮は大人しく氷蓮の斜め後に退がる。

「全く気持ち悪いなぁ、お前達は。いい加減、死んでくれ」

皓緋が悪態をつくが、氷蓮は気にもとめない。

「はっ。勝つ術すらないお前こそさっさと死ぬがいい。気づいているのだろう? 私には勝てないと」

氷蓮は余裕ある笑みを浮かべ、皓緋を見下す。

「お前ごときにこの俺が負けると? 冗談にしても笑えない。死ぬのはお前だろう、氷蓮」

「ほう、そうか。その割には私の攻撃を受けている様だが。それとも自虐趣味を持っているのか? それなら思う存分に私の剣を受けるといい。安心しろ、お前達全員この私が死を授けてやる。有り難く思えよ」

「はっ! やれるものらならやってみるといい! まあ、めそめそと姉に甘える気持ち悪い男に負けるなんてことは絶対にないがなっ!」

皓緋は言い終える前に、大気を使って作った刃を氷蓮に向けて思い切り放つ。

一つ二つ三つと連続して放つが、全て氷蓮の剣に叩き斬られる。

「ちっ」

「ははっ、どうした皓緋。私を殺すのではなかったのか? そんな子供騙しの技では私に傷すらつけられないぞ!」

「ふっ! 大好きな姉の前だからって、そんなに見栄をはらなくてもいいんだぞ」

皓緋はとっ、とっ、とリズム良く後に退がる。

本当ならもうこの世界を一つにする術を、皓緋は発動させたかった。だが、彩音の弟を見つけなければ術は発動出来ない。

術が発動すれば、二つの静欒さいらんが変動する。その影響から逃れるには自分の側に居なければいけない。

だが、氷蓮が今自分より強いのは確かだ。

氷蓮が強くなったのか、自分が弱くなったから強く感じるのかはわからない。

ただ、今の自分より強いという現状をふまえ、最善の策を、行動を取らねば死ぬ。それだけは確かだ。

考えながら、氷蓮の攻撃をかわしているがいい策が浮かばず防戦一方の中。


「皓緋、術を発動させなさい」


この場にはいないはずの者の声が、響いた。

「誰だっ!」

氷蓮は知らない声でも皓緋と朱艶、陽織には知り過ぎている者の声。

声の方を振り向けば、その者は空中に立っていた。


春詠はるよみ……?」


そこには優雅に微笑する、三人にとっての兄——、春詠がいた。

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