二章 出会い・二
彩音は肌寒さで目を覚ました。
もう夏になろうとしている夜のはずなのに、何故こんなに寒いのだろう? 何故こんなに身体が痛いんだろう? 何故倒れているんだろう?
とにかく起きなければと彩音は思った。
「いっ……。あれ……?」
横になっていた身体をゆっくりと起こす。
手に、土の感触を感じる。冷たく、しっとりとした感触。
「え……?」
彩音は手の平を見た。土がうっすらとついている。そしてもう一つ気がついた。
「血……?」
腕にはどこかで擦ったような擦り傷があった。そこで初めて記憶が戻り始めた。
「私……」
半ボケ状態だった意識が一気に覚めた。彩音は立ち上がって回りを見渡した。
「ここは……」
見た事もない場所だった。
映画とかでしかみたことのないような建物が並ぶ。
家屋の造形は昔の中国的というか、東南アジア的な建物、というのだろうか。
暗くてよくわからないが、コンクリートではなく、木と石だけを使って建てられているようだ。
自分が倒れていた場所は、建物と建物の間の薄暗い路地だった。
恐る恐る路地から出てみると、外も暗かった。
うっすらと靄のかかった世界。空を見上げれば、闇夜に浮かぶ欠けた淡い月。今、ここにいる場所も夜らしい。
一歩踏み出して回りをみても、彩音にはまったくわからない場所だった。
こんな建物がある場所など、今では映画の中やそういう時代をコンセプトしたテーマパーク等でしかみたことがない。
「どうしよう……」
誰かに訊こうと思っても、回りに人はいない。
もちろん、祥護も。
そう思ったら急に心細くなった。
ただでさえ訳のわからない事が起き、目が覚めたらいきなりこんな見知らぬ土地にただ独り。
十七歳の少女には重すぎるダメージだ。混乱し、その場に立ち尽くした彩音がふと後ろを振り返った。
声が聴こえた。かすかだが、複数の声。路地の奥をじっと見つめていると、何かが動いているような気がする。
彩音の足が一歩踏み出し、止まった。何がいるのか、どんな人間がいるのか。言葉が通じなかったらどうしよう、怖い人達だったらどうしよう? そんな思いが頭をよぎり、彩音の足を鈍らせた、が。
(ためらっているヒマはない!)
もし言葉が通じなくても怖い人だったとしても、多分すぐにどうこうされることはない……はず……! と、そう自分に言いきかせ、不安な心を振り払い声のする方へと走って行った。