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十章 まどろみ

地下神殿の泉のあるさらに奥。

そこには大木が一本生えていた。

背は見上げるほど高く、幹は逞しく、葉は生い茂り、淡い緑の楕円の葉の上には綺麗な雫が煌めいていた。

この大木、静欒さいらんにとっては泉と同等に神聖な木である。

その根本には透き通る水が足首より少し上ぐらいまで張っていた。

石畳の隙間からは、こぽこぽと小さな音と泡が水面に向かっては消えていく。

神木の根元には祭壇が設えてあり、その祭壇には白い着物を纏った緋月が捧げるようにして横たえられていた。

祭壇の下は階段になっていた。

階段の両側は水路になっており、水は彩音が潔斎に使用した泉へと流れ落ちていく。

その階段に座り、祭壇に怠そうに寄りかかっている者がいた。氷蓮だ。

その姿は祥護の姿ではなく、元の氷蓮の姿であった。

氷蓮は閉じていた瞼をゆっくりあげ、呟いた。

「ああ、不愉快な者達が来たようだ。……朔夜」

「はっ」

「先程指示した通りだ。行け」

「承知しました」

返事と同時にすうっと、この場から朔夜の気配が消えた。

氷蓮はゆっくりと立ち上がると、祭壇に横たわる緋月の身体に向かって話しかけた。

「もうすぐだよ、歌蓮。もう少しだけ待っててね、歌蓮……」

うっとりとした口調で緋月の頬を撫で下ろし、首から腕、腕から手へと氷蓮は右手を滑らせ、緋月の左手を取り上げ自分の頬に触れさせた。

「早くまた僕に触れて、愛してよ、姉様……」

やや艶を含んだ声音で呟き、緋月の掌に愛おしげに口付けた。

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