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二章 出会い・一
静欒と桃嘉の国境近くの山間。
馬に乗り、出せる最大限のスピードで森の中を駆け抜けて行く影があった。
何処かを目指し、非常に急いでいるようだ。
その影がいきなり止まった。
急に走りを止められた馬が抗議の鳴き声をあげる。
男は馴れた手綱さばきで馬を落ち着かせ、ある方向を見つめた。
この闇の中、見えるものは何もない。
あるとすれば、行く手を遮るように生えている立派な樹木ぐらいだ。
何かを感じ取ったのだろうか。
男は忌々しそうに舌打ちをすると、馬の腹を蹴り、急ぎ出発した。
後にはまた、何ごともなかったように静かな闇が辺りを包んでいた。