九章 すれ違う想い・六
「で、お前の用は何だ、皓緋」
爛熯が話を向ける。
「ああ。術の進捗を確認しに来たんだが……」
言って、双子の方を見る。
「オッケー。じゃあ人形の用意するわ。あ、術の方はほぼ完成。あとは最終調整のみ! 皓緋も立ち会ってね」
「人形を使うのか?」
「そうだよー。写し身よりラクでしょ。あ、ちゃんとした契約だから、これ」
遊焔がちゃんとしてますよと爛熯にアピールする。
爛熯は視線を皓緋に移す。
「ああ。前にこうなった場合のことも想定して話をつけてある。緋月の身体がなくても、あちらとこちらのつなぎは俺の血と歌蓮の血を使えば問題ない」
「そうか。ならいい。おい、お前達、俺も仕事が終わったらこっちに来るからな」
「「え」」
双子がはもった。
皓緋も何故という表情になる。
「何だ、俺が来ちゃ迷惑だとでも言うのか、あ?」
「そんなのあた……」
勢いよく遊焔は言い返そうとしたが、はっとして口を噤み、そのフォローをするように燥焔が後を継ぐ。
「ラン兄、今回の仕事は護衛だろ? そうなら、急いで依頼人の安全が疎かになるのも悪いし。こっちのことは気にしないでいいよ」
「お前、護衛もするのか」
皓緋が少し意外そうな感じの表情をする。
腕が立つだろうことは感じていたが、護衛なんてするタイプには見えなかったし、商人という立場なら、護衛を雇う方だと思っていたからだ。
「馴染みの客だけな」
落ちてきた前髪をかき上げ、怠そうに爛熯は答える。
だからいつもと服装が違っていたのかと皓緋は得心した。
上から下まで黒一色。
上はライダースジャケットにカットソー。下は細身のパンツにエンジニアブーツ。
髪の毛もオールバックにし、精悍な顔つきがさらにはっきりとして、鋭さが増している。
腰には鞭と短剣も装備されている。
「ラン兄は凄く強いよ~、な、ソウ」
「ああ。商人じゃなく護衛職に転職してもいいほどに」
「そうなのか」
「まあそれなりには、な。自分の身は自分で守らねぇとな」
「ほう」
皓緋は驚嘆した。
この男がそんなことを言うとは。どうみても、人を使い捨てにして自分の身を守るタイプだと思っていたからだ。少し爛熯の見方を改めるかと皓緋は思った。
「ていうかそんなことはどうでもいい! 俺はもう行くが、美味しいトコは残しとけよな」
ニヤリといやらしい笑みを浮かべ、一歩踏み出した爛熯は目の前で消えた。
「はぁー、ラン兄来るのかー」
遊焔は物凄くうんざりとした表情と態度で脱力している。
「あきらめよう。ああ言ったら絶対何がなんでも来るよ」
「だな」
そして二人は憐れみの表情で皓緋の方を向く。
「まあ……、うん、頑張って」
「俺達も被害が最低限で済むようフォローはするから」
「そんなに酷いのか?」
「そのときのラン兄の機嫌と状況によるかな」
燥焔が遊焔の顔を見る。
「うん。基本、自分が楽しければいい人だからね、ラン兄は。おかげでどれだけ俺達が苦労したことか……!」
そのときのことを思い出したのか、遊焔の言葉は刺々しい。
「ユウ、落ちついて」
燥焔がぎゅっと遊焔を抱きしめると、苛立った遊焔の気が鎮まっていく。
「悪い、ソウ」
遊焔は落ちつきを取り戻し、燥焔の頬に軽くキスをすると離れた。
「どんなことがあったかは聞かないほうがよさそうだな」
二人の態度を見れば、大方の予想はつく。
「うん、そうして」
「まあ、すぐにわかるよ。それより人形を用意するならアレも用意しないと」
燥焔が皓緋に言う。
「そうだな。ではすぐに連れて来よう」
皓緋はソレを用意すべく、すぐに研究室を後にした。




