七章 商人・四
爛熯達が去った後、皓緋達は皓緋の研究室へと移動した。
研究室には執務室からしか行けず、本当に限られた人しか出入り出来ない。
階段をおそらく五分程、ただひたすら下り続けていたが、階段が終わり数歩進むと目の前に重厚な両開きの扉があった。
皓緋が、ぐっと扉を押すと、ギギギと重そうな音を立てて扉が開いた。
「ここだ」
皓緋が先に中に入り、彩音、遊焔、愛華、陽織を招き入れた。春詠と朱艶は執務があるので、一緒には来ていない。
「おー、これなら申し分なしだぜ!」
遊焔が感嘆の声を上げる。
皓緋の研究室は確かに広かった。どれくらいと言えばいいのか、とりあえず千人以上は入る大ホールぐらいの広さ、だろうか。
今いる出入口は丁度部屋の真ん中辺りで、正面奥には執務室と同じ様な大きな机と椅子があり、向かって右側が実験スペースで左側は沢山の本棚が並んでいて、本がぎっしりと置いてある。ちょっとした図書館の様だ。
「この部屋にある物は好きに使っていい。生活に必要な物は一通り揃っている。足りない物があれば言ってくれ。可能な限り用意する」
皓緋が部屋の中を案内しながら、遊焔に言う。
「や、充分充分。部屋さえ用意してくれれば問題ないから」
「そうか」
「ああ」
遊焔は研究室に置いてある器具や薬やらに興味が移っているらしく、返事は適当な感じだ。
ご機嫌な様子であちこちに置いてある物を取っては眺め、開けたりしている時、背後から声がした。
「ユウ、待たせたな」
「え?」
そこに居た者達全員が声の方を振り返る。声の主は先程別れた遊焔の片割れ、燥焔だった。
「ソウ、お帰り〜」
遊焔は手に取った薬品の入った瓶を持ちながら声の主の方を振り返る。
「大丈夫だったか、部屋」
「ああ、何とか。ラン兄に取られちゃマズい物は、全部隠して封印しておいた」
「サーンキュ」
燥焔は遊焔の元へ向かいながら、辺りをぐるりと見回した。
「ここが俺達の研究室になるのか?」
「そだよ〜」
「いい設備だな」
「ああ」
遊焔以外の者達が突然の訪問者に驚いていたが、皓緋は慣れてしまったのかどうやってここに来たのかなどは特に問いもせず話を再開した。
「さっき片割れにも言ったが、ここにある物は好きに使ってくれて構わない。必要な物があれば言ってくれ。可能な限り用意する」
「ああ、わかった」
燥焔が頷く。
「それで、これからどうするんだ?」
皓緋が双子に問いかける。
遊焔が弄っていた瓶を棚に戻し、答える。
「まずは情報だね」
「情報?」
「ああ。術を使うヤツの情報」
「つまり、あんた達のね」
遊焔と燥焔の視線が、皓緋と彩音に向けられる。
「それがないと術の加減がわかんないからね」
「わかった。具体的にはどうすればいい」
「血を一滴程くれればいい」
「ああ、構わない。今渡せばいいのか?」
「お、ヤル気満々だね。でもちょっと待って〜、準備するから。ソウ!」
名を呼ばれた燥焔が、いつの間にか足下に置いてある黒いケースを持ち上げて近くの作業台に置く。
ケースを開けると、中から薬の入った瓶や器を出して並べる。
「こっちの準備はもういいぞ、ユウ」
「サンキュー、ソウ」
遊焔は皓緋と彩音をこっちこっちと手招きする。
二人は呼ばれるままに双子の側まで行き、その後を陽織と愛華が続く。
「じゃ、始めるか」
遊焔はにっこり笑顔でそう言った。




