六章 逢いたい人・十一
「行くよ! みんな俺の近くに!」
陽織が術を発動させる。
皓緋の腕の中では、彩音が祥護の元へと行こうとまだもがいていた。
「祥護、祥護! 絶対にすぐに迎えにくるから! 絶対にっ!」
術の発動で彩音達の身体が光に包まれ徐々に消えていく。
「ああ……。待ってるから、早く……来い、よな……」
祥護は彩音達を見送ると同時に意識を失った。
「氷蓮様!」
朔夜は愛華達が去った後、すぐに主の元へと駆け寄る。
氷蓮はまだ呼吸は荒いが、怪我等は見た目なさそうだった。
石畳に座り込み、呼吸を落ち着けている。
朔夜が主を抱き起こそうとしたが、氷蓮は手で制止する。
「黒曜! 出て来い!」
氷蓮が掠れた大声で黒曜を呼びつける。すると祭壇下の大きな柱の後から、黒曜がすっと姿を現す。
「みっともないね、氷蓮」
座り込んでいる氷蓮を哀憫の表情で見下ろす。
「貴様っ!」
慇懃無礼な態度をとられた主よりも、従者の朔夜の方が先に反応する。
氷蓮の方はじろりと睨みつけただけですぐに言葉を継ぐ。
「朔夜、相手にするな。黒曜、ここの後始末をして、愛砂を部屋に連れていけ」
「了解。氷蓮はどうするの?」
「離宮に行く。戻るまでお前が全て仕切っていろ」
「やーだなぁ。僕にそんなことができると思っているの?」
「出来ないなら、愛砂を使えるようにしておくんだな」
黒曜はちらりと放心状態の愛砂を見やると、嫌味ったらしい溜息をつき、大仰に肩をすくめた。
「やっぱり無茶な王様だ」
「朔夜」
「はっ」
「お前は私の身体を持って、共に離宮へ」
「ですが……」
「私なら大事ない。もう歩ける」
言うと立ち上がり朔夜を見下ろす。
「畏まりました」
朔夜もそれ以上は言わず、祥護の魂が眠る氷蓮の身体を抱き上げると、二人は闇の中、彩音と初めて会った森の中の離宮へと去って行った
「さて……。片付けろと言われても」
後に残った黒曜がぼやく。
辺りを見回せば無残に破壊された石畳に術の道具。祭壇や近くの建物も石畳程ではないにしろ、所々亀裂が入ったりしている。
そして、愛砂はまだ惚けたまま、石畳にへたりこんでいる。
姉の謀反が相当のショックだったのだろう。
(あー、アレ、当分使えないなぁ……)
黒曜が心底面倒くさいという表情で愛砂を見る。
(とりあえず今はほっておくか)
しばらくはこのままだろうと思い、先に被害状況を確認するため、祭壇付近を歩くがある場所で止まる。
そこは、彩音達が消えた場所だった。
黒曜はその場にぺたんと座ると、愛おしげに石畳を撫でた。今はもうない温もりを探すかの様に――。
「氷月、絶対に約束は守るからね。どんなことをしても……。だから安心してね」
空を見上げ、子供のようなあどけない表情で、今はもういない氷月へ語りかけた。




