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六章 逢いたい人・五

氷月だけではない、そこにいる全員、いや、皓緋を除く全員が驚愕の表情で氷蓮を注目した。

「今……何て……」

氷蓮の腕の中から、掠れた声で氷月が問う。

「私が父親だ。氷月」

再度、はっきりと氷蓮が言う。

「嘘……。だって……、じゃあ何で、今まで黙っていたの……?」

氷月の肩が小さく震えだす。

氷蓮が柔らかく、綺麗な笑みを浮かべて話し出す。だが、その笑みに慈愛の感情などは欠片もない。

「それはお前への罰だからだ、氷月」

「罰……」

氷月はぼんやりと繰り返す。

「そうだ。お前は私の歌蓮を殺したのだ。お前が産まれなければ、歌蓮は死ななかった。母を殺した娘が罰を受ける事は当然だ」

そうだろう? と言葉には出さずとも、視線で、表情でそう氷蓮は語る。

氷月は何も言えなかった。

確かに自分を産んだせいで母は亡くなったのだ。

それは嘘ではない。

母は難産だったそうだ。それもあり、産後の経過も良くなく、自分を産んで数日後に亡くなった。

その時の氷蓮は、誰にも抑えられないぐらい取り乱し、錯乱していたとお祖母様から聞いた。

母はあの氷蓮の理性をそこまでかき乱す事が出来るほど、氷蓮にとって大事な、かけがえのない女性だったのだ。

それをどんな理由であれ奪ったのだ。どんな仕打ちをされ、憎悪されても仕方がない。

皓緋は言葉も出せず、打ちひしがれて俯いている氷月を一瞥すると、愉悦に浸る氷蓮に向かい話し出す。

「ほう。お前が緋月の父親だというのか、氷蓮」

氷蓮が視線を氷月から皓緋へ移す。

「そうだ。これは歌蓮が私に残したものだ」

その言葉を聞いて、皓緋は嗤う。

「はっ! 緋月がお前の娘だという証拠が何処にある? 何をもって、お前の娘だと?」

「何……?」

氷蓮の表情から笑みが消える。

「俺はちゃんと言葉だけではなく、俺の娘だと証明出来るモノがある。お前はどうだ? 言葉以外にも証明出来るモノがあるのか?」

「氷月の名前が何よりの証拠。名前は歌蓮が名付けた。私の名の一部をとっているのが証拠」

皓緋は鼻であしらう。

「それなら俺の子だろう。俺の『緋』をとって緋月だ。そもそも歌蓮自身がこの場で言わなければ何の意味もない話だ」

「まったくその通りね」

愛華が溜息まじりに言う。

「これではただの水掛け論。それはお二方が一番良くお分かりのことかと。それならば解決策も何が一番かお分かりでしょう」

二人は互いをちらりと見やり、先に皓緋が口を開く。

「私は確実な証拠を見せられる。お前達が信じるかは別としてな」

にやりと不敵に笑う。

「ではそれを見せてもらおうか」

「ああ、お望み通り、と言いたいが、証拠は氷月の身体にある。だから今は証明できない。今のお前は本当の身体ではないからな。俺が証拠とする話しをいくらしたところで納得なんてしないだろ? なぁ氷蓮?」

「ああ」

短く応える。

「では、氷月様がどちらのご息女かはわかりませんね」

愛華が困ったというような感じで言う。

「……身体があれば、証明できるのですね?」

沈黙していた氷月が、氷蓮の腕の中から皓緋を見据える。

「ああ」

「では身体をここに持って来てもらいます。いえ、持って来てくれるかはわかりませんが、お話しはしてみます」

「できるのか?」

皓緋が驚き、氷月に問うた。

氷月は小さく首を振る。

「わかりません。そもそも商人さんと話が通じるかどうかも……。でも、こんな状況になってしまったからには、やれることはします。私自身のためにも……」

「わかった。氷蓮も異存はないな」

「ああ」

「では始めてくれ」

「はい」

そう返事をすると氷月は、自分を捕らえる氷蓮を見上げ「腕を離して、氷蓮」と、捕らえる主に願う。

「…………」

氷蓮は何も答えず、腕も緩めない。

氷月はもう一度、力強く願う。

「お願い。離して、氷蓮」

「…………」

ふぅと、一つ諦めの溜息をつくと、氷蓮は渋々腕を緩めた。

「ありがとう、氷蓮」

氷月はそう言うと、緩まった腕を身体から離し、氷蓮と皓緋の丁度真ん中に移動し、祈る様に両手を組み目を伏せた。

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