六章 逢いたい人・一
墨を溶かしたように何も映さないほど重く暗い闇の中。その闇を壊すように煌々と輝く場所に彩音達はいた。
神殿の儀式場だ。儀式場を囲むように沢山の灯火が置かれ、小さく揺れている。
儀式場には氷蓮と彩音、朔夜に愛華、そして愛砂が集っていた。
秘術の儀式ということで他の者の立ち入りは許されていないため、人はこれしかいない。
氷蓮はそこにいる者全員を見回すと、ピラミッドの上部を切った様な形の祭壇に向かい、ゆっくりと石段を上り、祭壇の中央に移動した。彩音も氷蓮の後に続いて登る。
高さは一メートルぐらいで、中央はすり鉢状に窪んでいた。そこは深さはないが、広さはあった。直径五、六メートルぐらいはありそうだ。その窪みには水が張られていた。
水の張られた中央に氷蓮が立つ。
「これから儀式を開始する」
氷蓮の低いがよく通る声が皆の耳に届く。
(やっと帰れる! これさえすめば……)
白い衣装を身に纏った彩音は、同じく白い衣装を身に纏った氷蓮の方を見た。
氷蓮はこちらへ来いという意味を込め、すっ、と彩音に手を差し出す。
彩音はこくりと頷き、石段を降りると氷蓮に向かって歩を進める。
(う……、緊張する)
儀式前、何もせずただ指示通りに動いて立っていればいいと氷蓮は言ったが、それでもこの儀式の重要性を考えると緊張し、微かに足も震える。
氷蓮は彩音に窪みの中央に立つよう指示をする。
彩音は先に中央で術を展開させていた氷蓮の向かいに指示通り移動しようとしたが、水中に一歩踏み入れた瞬間、水の冷たさより上回る、ぞわりとした嫌な感じを受け、足が止まった。
(何!?)
バッと背後を見回すが何もない。思わず右腕を背中に回して何かを払うように探ってしまったほどだ。
もちろん背中には何もなく、あるのは足元によくわからない文字が書かれた石畳と、足首までの深さに張られた冷たい水があるだけ。
(何だろう、すごく嫌な感じ……)
明確に何がとは言えない。
ただ、漠然とだがこれは駄目だという気がするのだ。虫の知らせというか、直感というものだ。
氷蓮の方を向きなおすと、何の異変も見られず彩音に早く中心に来るよう目で促してくる。何よりこの儀式を終わらせないと祥護の元へは帰れない。躊躇などしている暇などない。
とは言えあのいやな感覚はまだ残っており、やはりこのまま先に進みたくはない。
「気のせい……よね。大丈夫、大丈夫」
彩音は自分に言いきかせ、気持ちを切り替えるように両手で軽く頬を叩き、そのまま水の中を進み始めた。




