四章 皓緋の思惑
離宮で氷月が氷蓮の部屋を後にした頃。
「だ~ってさ。どーすんの?」
氷蓮のいる離宮からかなり離れた森の中。そこに二人の男がいた。
一人は皓緋。もう一人は皓緋より少し年下ぐらいの青年だ。二十~二十五歳ぐらいだろうか。体格は均整がとれ、背は皓緋より頭半分低いくらいだ。
どうやら二人は何らかの方法を使って、今の氷蓮と氷月の会話を聞いていたらしい。
青年は続けて皓緋へ話しかける。
「このままじゃ、愛しの氷月ちゃんとられちゃうよ。どーすんの?」
青年は木に寄り掛かって立つ皓緋の顔を覗きこむようにして問う。
「俺はそんなヘマはしない。当初の予定通りに氷月を迎え、氷蓮を始末するだけだ」
皓緋は事もなげに、隣の青年に返事をする。
「ふ~ん」
「不服ならとっとと向こうへ帰っていいんだぞ、ヒオ。俺はお前に供を言いつけた覚えはないしな」
皓緋がニヤリと、隣の青年――陽織に向かって言う。
陽織はゲッと、苦虫を噛み潰したような表情になった。
「勘弁してくれよ! 今このまま帰されたらオレが兄貴にボコられる! それに! こーんな敵地の、しかもこーんな中心に、オレらの大事な王を一人残して帰れるわけないだろ!」
陽織は皓緋に向かって言い放った。
皓緋は氷蓮のいる離宮の方角を見ていたが、顔を陽織の方に向けてニヤリと笑う。
「朱艶は怒らせると怖いからなぁ。このままお前一人で帰ったらどんな目にあうんだろうなぁ」
「だから帰らねーって!」
陽織がムキになって言い返す。
「ああ、わかったわかった。じゃあ先に言った通りお前はコトを進めてくれ。終ったら俺に報せろ」
「わかった。皓緋も気をつけろよ。何かあったらすぐに報せろよ」
「その言葉、そっくそのまま返してやるよ、陽織チャン」
皓緋は軽くあしらうように手を振った。
陽織は何か言いたそうな表情をしたが、ここで言い返してもまた遊ばれるのが目にみえているので、ぐっと飲み込み、音もなく闇の中へと消えた。
「さて。ヒオにはああ言ったものの、これは多少プランの変更が必要かもな」
皓緋も木から体を離し、また氷蓮のいる方角を一瞥すると、ニヤリと笑みを浮かべた。
「氷蓮、お前はいくつ大事なものを失うんだろうな?」
呟くと同時に皓緋の姿も闇の中にとけていた。




