一章 日常・一
日本某所、現代・閑静な住宅街。
まわりはきっちりと計画的に区画された住宅と道路。
スーパーやコンビニ、病院、郵便局等もあり、人が住むにあたって必要な施設等が揃っておりとても良いところと思われる、とある住宅街。
バス停に止まっているバスから少女が二人、下車した。
シルエットがきれいなスッキリとしたデザインの制服を着ている。
高校生だろう。仲良さげに会話をしながら歩いている。
「あー、それにしても今日のテストは疲れた~」
肩までかかる髪を緩く三つ編みにした少女、阿川 美貴が言った。
「ほんと。私、数学がやばい」
美貴の隣にいる少女、香月 彩音も同じようなことを言う。
「そう? あたしはそれよりも古文がまずい。大体さあ、今の言葉だってわかんないのがあるのに、そんな昔の言葉とか何か覚えられるかっつーの!」
「確かに。ま、もう過ぎた事だしね」
涼し気な顔をして彩音が返事をする。
「何言ってんの、あや! 確かに今はいいよ。だけど! その過ぎた悪夢が来週にはかえってくるのよ!」
そんな美貴を見て、彩音がくすっと笑う。
「なーに、あや。人が一生懸命話しているのにその笑いは」
「だって……」
「だって、何?」
「美貴らしいなぁっておもってサ」
ちょっとムッとしながら美貴が彩音の顔をのぞきこむ。
それに対し、彩音は微笑みをかえす。
「なーに。笑って誤魔化すな!」
「誤魔化してないよー」
彩音がたっと、走り出す。
「こらっ! 逃げるな!」
美貴もそのあとを追って走り出す。
笑いながら坂を下りて行く彩音はふと、いつまでもこんな幸せが続くといいな、と思った。
何故そんな事を思ったのかわからない。
ただ、そんな思いが自然に生まれ、そしてシャボン玉がはじけるようにパチンとそんな思いはすぐ消えた。