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四章 氷蓮の思惑・一

彩音は王宮には帰らず、氷蓮ひれんの住む離宮の別室にて休んでいた。

寝台の上に腰掛け、窓の外を眺めていた。外は闇ばかりで何が見えるわけでもない。

「ふぅ……」

溜息をつくとそのまま寝台へ横になった。本当ならそのまま眠ってしまいたい。

だけど、今はどんなに疲れても眠ることが出来ない。今日は色んなことがありすぎた。

あの後、晧緋こうひが去った後、彩音は氷蓮のいる寝台に上がり、そのまま詰め寄った。

行儀が悪かろうと関係ない。今ここで全てを訊かないと、あの男、晧緋の言う通りうまくはぐらかされ、大事なことは何も教えてもらえないような気がしたからだ。

私の行動に驚いた黒曜こくようが、あわてて寝台から引き離そうとしたが、氷蓮がそれを止めた。

「一体何が起っているの? 今、ここで全てを話してください。もし……、話してくれない場合は、私はあの晧緋とかいう人の所へ行きます」

薄布の向こうの気配が大きく揺れた。

最初は重く口を閉ざしていた氷蓮だが、『晧緋の元へ行く』の言葉がよほど堪えたのか、これまでのこと、そしてこれからのことをゆっくりと語りだした。

「この世界、静欒さいらんは今、晧緋によって存亡の危機にさらされている。あの男はこの世界を、私欲によって自分の物にしようとしている。そのようなこと、許す訳にはいかない。私はこの世界の王としてそれを阻止しなければならない。そしてそれを阻止するためには氷月、お前の力が必要なのだ」

「な、に……、言ってるんですか? 私にそんな力なんてあるわけない」

「ある。そしてそれはお前にしかできない」

氷蓮はきっぱりと断言する。

「でもっ……!」

彩音は薄布の向こうにいる氷蓮に困惑と憤りの表情で訴える。

いきなりそんなことを言われても困る。

自分のことすらどうにも出来ないのに、この世界を救ってくれ、はいわかりました、などと軽々しく言えるはずもない。

私はごく普通の女子高生だ。毎日を祥護と遊んだり喧嘩したり、親や学校に不満を持っていて、何とかしたいけどどうにも出来なくて。そんな毎日を嫌だと思いながらも、それなりに大切にしながら生きているだけの子供。

一つの世界を救えるほどの特別な何かなんて持っていない。少なくとも『彩音』には。

彩音は黙った。

しかし氷蓮はさらに彩音を追い込む。

「認めたくはないが、晧緋の言う通り私には時間がない」

氷蓮が腕を伸ばし、今まで二人を隔てていた薄布を取り払った。

彩音は目を見開いた。

初めて見る氷蓮の姿――。

それは黒曜そっくりの姿だった。

いや、正確には多分そっくりなのだろうという想像がつけるだけだ。

何故なら、寝台にいる氷蓮の姿はとても精彩を欠いたものだったからだ。

身体はとても細く、その肌は幽鬼のごとく青白い。

それは枯れた花のように、触れただけで壊れてしまいそうだった。

彩音は言葉がでなかった。

氷蓮が朔夜の手を借り、寝台からゆっくりと身を起こした。

「これで信じてもらえたか? 私に残された時間は多くない」

氷蓮は戸惑う彩音の瞳を見つめながら話す。

「そんな……こと、言われても……」

彩音は氷蓮から顔を背けるようにして、俯いた。

彩音の後に控えていた黒曜は、彩音の心情を察し、氷蓮に進言する。

「陛下、氷月様もお疲れの様です。それに陛下も少しお疲れではございませんか? 奴も行動を起こすにしても今すぐというわけではないでしょうし」

それを促すように朔夜が続ける。

「陛下、今はお休み下さい。無理をしてお身体を壊されては意味がございません」

氷蓮は二人を交互に見、静かに同意した。

二人に言われるまでもなく、今の状態は氷蓮自身がよくわかっていた。

氷蓮は呼吸を整え、彩音に告げた。

「私も少し配慮が足りなかったようだ。話の続きは明日にしよう、氷月。互いに今は時間が必要な様だからな」

彩音は少し顔を上げ、頷いた。

黒曜は一礼すると、彩音と共に部屋を後にした。

朔夜も氷蓮が休むのを見届けた後、部屋を去った。

皆が去り、再び元の静寂を取り戻した部屋。

その中で氷蓮の重く呟く声が聞こえた。

「氷月――、お前だけは絶対に離さない。歌蓮かれんの……」

言葉は最後まで聞き取ることが出来ず、深い暗闇に同化し、沈んでいった。

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